第627話懐かしい物の披露です!
「あのー、サラミドさん・・・本当にここでやって良いんですか?」
「ええ、勿論」
俺の疑問に笑顔で返すサラミドさん。
何故俺がそんな疑問を持つかというと、ギャラリーがめっちゃ多いからです。
軍事訓練用の広場に案内され、訓練していた方々に退いて貰った上で俺はここにいる。
一応断ったのよ。訓練している人に悪いからって。
でも何か、大公妃様が俺に負けたって話がもう出回ってるらしくてさ。
大公妃様って畏怖と尊敬の対象らしくて、それに勝った人間の力に興味があるらしいです。
あれまだ数日前の話なのに、何でそんなに話が広まってんだよ・・・。
「でも、何か演習してましたよね?」
「ええ。ですが無理矢理止めさせたわけではないので、問題ありませんよ」
ギャラリーの多さに少し気が重くなって抵抗してみるも、笑顔でいなされてしまった。
おかしいな、サラミドさんなんか強くね。
初めて会った時や数日前と違って言い知れない圧迫感が有るのは何故だろう。
こっちがこの人の地なのかなぁ・・・。
「ところで、それが例の魔導技工剣なのですか?」
「あ、はい、そうです」
「何と言うか・・・剣というよりも杭の様ですね」
今の技工剣は発動させていないので刃がすべて閉じている。
普段から開いておく事も出来るけど、危ないし動かしにくいのでなるべくこの状態にしていた。
だって通常時に開いてたら自分が怪我しそうだし。
「起動してない時は常にこの状態を維持させてます。危ないので」
「危ない、のですか?」
「ええ。見たら解りますよ。『逆螺旋剣』」
俺の説明に首を傾げる妹さんに応えて剣を起動させる。
淡く光りながら逆螺旋の刃が開き、厳つい姿を皆の目に晒す。
それだけで少しざわめきが起きた。
「これが戦闘で使う時の形です」
「これは・・・中々怖い形をしていますね。使い手すらも傷つけそうな」
剣が開くとその厳つさにサラミドさんが一歩後ろに引いてしまう。
まあこれ、どう見ても危ないって言うか、怖いよね。
遠巻きに見学している軍人さん達は剣を見てどんな機能なのかと話合っている。
いや、どうやら知ってる人が居るようだ。ブルベさんの結婚式に来てた人が居るのかな?
「うーん、何とも人の目がやり難い」
「タロウさんの技を見せて貰う条件に場所を空けて貰ったもので、申し訳ありません」
サラミドさん、にこやかに答えてるけど事後承諾は狡いっすよ。
いやまあ、場所を完全に任せた俺が悪いのかもしれないけどさ。
まあ良いか。逆に考えよう。ここなら一般人に危険が絶対に及ばなくて良いと。
良し、そう思えばなんか良いような気がして来た。
「うっし、じゃあやりますか!」
気合いを入れて懐から用意しておいた精霊石を四つ取り出して・・・一つ仕舞う。
「え、タロウさん何で精霊石取り出してるの。それに何で今悩んだの」
するとシガルに行動の意味を早口で問われてしまった。
自分でも今の動きは不自然だと思うので仕方ない。
見せる予定の物を考えれば精霊石も必要無いし。
「えっと、ついでにちょっと実験したいなって」
「精霊石で? 一個仕舞ったのは何でなの?」
「実は同時使用で余裕で制御出来るのって三つまでで、四つ目以降はちょっと怖かったりするんだよね。制御出来ないわけじゃないんだけど、気軽に使えないというか」
「・・・ちょっと待った。タロウさん、今の初めて聞いたんだけど」
「あれ、そうだっけ?」
これってシガルには言ってなかったっけ?
二乗強化の訓練の時に一緒に居たから言ってた気がしたんだけど。
周囲気にせずぶっ放す場合は五、六個同時でも行けるんだけど、完全に制御となると中々怖い。
安定しないという訳じゃないのだけど、力が大き過ぎるので気が抜けないのです。
「タロウさん、あたし確か八つ同時に使ってたの見た事あるんだけど、記憶違いかなぁ」
「え、いや、あれはその、同時制御をどこまでやれるかって確かめてて」
「それは良いよ。ただ七個までは安定してるって、そう聞いてた気がするんだけど?」
「いや、その、制御しきる自信は有るんですよ。うん。ただちょっと気軽に使えないだけで」
待って待ってシガルさん、笑顔で詰め寄って来るの止めて。怖い怖い。
嘘は言って無いよ。本当に七個まではちゃんと制御出来るよ。
ただ周囲に人が居て力ぶっぱなすつもりなら完全制御しないと危ないし、そうなると三つぐらいが一番良いなと思っただけですよ?
「・・・ほんとに?」
「ほんとほんと。ただ今回は人が多いから、万が一が無いようにしたいだけだから」
頭を少し下げて覗き込む様にして来るシガルに慌てながら応える。
こういう時のシガルさんの迫力は本当に怖くて困る。
シガルは一つ大きな溜め息を吐くと一歩下がり、腕を組みながら口を開く。
「とりあえず納得しました。でもこの事はお姉ちゃんにも言うからね」
「え、なんで」
「何でも何も、タロウさんが新しい事したり危ない事した時は情報共有しておかないと何するか解らないんだもん。お姉ちゃんもあたしもあの魔術に関しては心配なんだからね」
「あ、はい、すみません」
二乗強化は色々危ないからなぁ・・・。
一応自分でもあれが危ない事ぐらいは自覚はしてるんですよ。
でもそれが解っていても、あれが無ければ俺はミルカさんに満足してもらう事は出来なかった。
正確に言えば満足は未だして貰えてはいないけど、それでも納得させられる力には達している。
「別にタロウさんの判断を責めるつもりは無いけど、危ない事してるって事は教えてよね?」
「はい、以後気を付けます」
シガルさんにお説教されてしまった。
サラミドさんは少し驚いた様子で俺を見ていて、妹さんはクスクスと笑っている。
「お二人は本当に仲がよろしいんですね。素敵です」
「夫婦だからね」
「シガルさんは素敵な方ですね・・・少し羨ましい」
妹さんの言葉に胸を張って答えるシガル。そんな彼女に妹さんは少し影のある笑顔を見せた。
けどすぐに元の雰囲気に戻って視線を俺に向ける。
「では、見せて頂けますか? お母様を打倒し、ウムルの英雄たちに認められるその力を」
「そこまで凄いものを期待されると困るんですけどね・・・」
あくまで今から見せるのはあの時の火の花の再現の様なものだ。
思いついた事があるから少し違うけど、それでもそこまで大きく離れた物にはならない。
満足させられるものだと良いけど。
「それじゃ、少しだけ離れて貰えますか?」
「はい、わかりました」
念の為少しだけ離れて貰ったのを確認してから剣を完全起動させる。
右手に逆螺旋剣、左手に精霊石を持って。
「さて、やるか」
気合いを入れて剣に魔力を注ぐと、唸りを上げて普段と逆方向に回転を始める。
まるで今からやる事は解っているから存分にやれとばかりに。
時々この剣から制作者であるイナイの意思でも宿っているかのように感じる時がある。
実際はどうなのかは知らないが、イナイならやれそうな気がした。
この剣もイナイの俺に対する愛情の一つなのだと思うし、そう考えると彼女と一緒に力を振るっている様なものかもしれない。
なんてのは、少し考え過ぎかな。
さて、剣の準備は整った。今度は精霊石の力を開放しつつ、形ある力に変換する。
火系統の魔術に変換した力を形にした端から魔導技工剣が巻き取り、精霊石三つ分の魔力を纏った炎の剣が出来上がった。
巻き取った力は綺麗に安定しているし、魔力のロスは殆どない様だ。
今回やりたかったのはこれだ。精霊石の力を魔導技工剣で取り込んで力に変える。
石を使うワンステップを踏む分手間は増えるが、その分自身の魔力の消費を抑えられる。
今回は単純に纏わせただけなので、今度は直接魔力を纏う事が出来るか試してみよう。
「うっし、上手く行った」
あ、しまった、声に出しちゃった。今の聞かれてしまっただろうか。
ちらっとシガル達の様子を窺うが、特におかしな様子は見えない。
これなら後で怒られる事もなさそうかな?
サラミドさんは解り易く驚いた様子だったが、妹さんの驚き方が少し激しい。
目を見開いて剣を凝視している。
もしかして彼女も魔力が見える口かな。それもと単純に魔力の多さに驚いているだけか。
まあそれは後で聞けば良いか。
炎を纏った剣をまっすぐ上に向けると、今度は普段と同じ方向に回転を始める。
本当にこいつは俺の思い通りに動いてくれるな。最近は特にそう感じるよ。
お前とも何だかんだ長い付き合いだ。いつも助けてくれてありがとうな。
「じゃ、盛大に行こうか」
あえて剣に指令を下さず、ただ盛大に行こうとだけ口にする。
するとまるでその言葉に応えるように唸りを上げて剣が大きく開き、刃が形を変える。
纏った炎をドレスの様にはためかせながら、空に向かって盛大に、広範囲に火の花を咲かせた。
剣から「これで良いんだろう?」と言われている様で、思わず苦笑してしまう。
「ははっ、でっか。盛大にって言ったのは俺だけど、盛大過ぎないか」
花は上空に向かうほど大きくなっていき、街を一つ飲み込める程の大きさになっている。
ちょっとやり過ぎたかと思うが、これならば期待には応えられただろう。
魔力が多かったせいか勢いも強く、炎が下に落ちてくる気配は一切ない。
きっちりと上空で霧散する事だろう。
満足した気持ちで周囲の様子を見ると、シガルとハクとクロト以外は皆空を見て固まっていた。
ハクは竜の姿なので解らず、クロトも普段の表情なので解らない。
だがシガルの表情だけは、今から何を言われるのか何となく察する事が出来た。
「タロウさん、ちょっとやりすぎじゃない?」
「あ、やっぱそう?」
俺も正直そんな気がします。ステル・ベドルゥクの時の花と同じぐらい大きいもんね、あれ。
未だ強く光る剣が、俺の要望に応えただけだと意思表示している様に感じる。
「でも、やっぱり綺麗。懐かしいな・・・」
ただそう言って空を眺めるの彼女の顔は、少し嬉しそうだった。
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