第600話新婚生活です!
式も終わって、宴会も終わって、暫くたった。
宴会の日に俺がいつでも動けるという事をブルベさんに伝えているのだけど、指示は後日出すから暫く待機と言われ、樹海でのんびり過ごしている。
とはいえ最近ハクとシガルが張り切って組手をやりたがるので、大変だったりするのだけど。
特にハクが周りを気にしなくて良いからって縦横無尽に暴れまわるから困る。
流石に竜になって暴れると騒ぎになる可能性が有るので、人型のままだけど。
炎の魔術使われての山火事も怖いし。
でも最近のハクって強いんだよなぁ。
ルール付けてるから勝ったり負けたりなだけで、ルール無用だったら勝てない気がする。
ハクの何が一番怖いって、こいつ負傷による怯みっていうのがほぼ無い事だよ。
普通なら怯む攻撃に一切怯まずに突っ込んで来るんだよ。かなり怖い。
シガルも最近は二重強化に使う魔力消費の抑え方が上手くなっていて、3重強化以上で対処しないと完全に追い付けない。
下手すれば負けるので、ところどころ4重強化で相手している状態だ。
結果、鍛錬が終わる頃には俺一人だけ魔力空っぽで倒れている様な日が続いている。
ぐったりと倒れている俺をグレット君が運んで帰るのが日課です。
クロトは最近静かだ。
いや、元々静かな子なんだけど、ハクと衝突する機会が以前より更に減った。
ハクが突っかかっていっても、さらっと流している。ハクがとても不満そうだ。
流しているとはいえ、ハクが追いかけてクロトが相手をせずに逃げる、という構図は変わらず良くあるのだけど。
後最近、宴会の時にドレスを着ていた俺が可愛かったと褒めた事で、変なスイッチが入ったらしいシガルに「お父さんと同じ格好してみる?」と聞かれ、素直に頷くなんていう事が有った。
それ以降時々可愛い格好のクロト君が居ます。
本人全然気にしてないみたいだけど良いのでしょうか。なんか複雑な気分。
グレットはとうとう魔術を使い始めた。
狩りに出かけた時にグレットが付いて来て、獲物を見つけた際に大きく鳴き声を上げて突っ込んで行った。鳴き声で魔術を発動させたらしい。
制御はかなり甘く見えたけど、元々の身体能力が高いからそれでもかなりの動きだ。
「ほめてほめて」という感じの足取りで、獲物を咥えて持って来くるのを呆然と見ていました。
グレットの仕留めた獲物って割と強いやつなんだけどなぁ・・・。
そしてイナイさんはというと。
「タロウ、最近ちょっとばかりはしゃぎ過ぎじゃないか?」
「俺じゃなくてハクとシガルに言ってちょうだい・・・」
居間のソファでぐったりと転がり、イナイに膝枕されながら答える。
訓練で完全に魔力が空っぽになるまで付き合わされ、全身の倦怠感が酷い。
シガル達はまだ外で何かやってるけど、俺は先に上がらせて貰った。
「とうとうシガルに勝てなくなりそうだな」
「あー、多分、魔力補充抜きにしたらそろそろ不味いかも」
勿論俺も仙術での攻撃を全力でやっていないっていう前提が有るけど、それでも純粋な能力差を思い知らされている。
彼女の奥の手の大人化の制限時間が段々伸びている様子なのもあって、余計にこっちの魔力が足りなくなってきてる。4重強化じゃないと追い付けない速度っていうのがネックだ。
「二乗強化と魔力補充が無かったら完全に追い越されてるよ・・・」
「むしろ、お前がそれ使える様になっちまったせいで、シガルは更に上に行こうとしたんだと思うがな」
そうなんだろうか。でもその前からあの子は二重強化の制御やってたしなぁ。
完全に制御に至るまでの期間は素晴らしく短かったしさ。
「ま、変わらずお前の背中を見てる、可愛い嫁さんじゃねえか」
「シガルが可愛いのは認めるけどね。勿論今目の前に居る人も可愛いよ」
「・・・ふん」
俺の返した言葉に、少し照れ臭そうに顔を背けるイナイ。
この人は本当にいつまでも可愛いなぁ。口元が少し緩んでるのが殊更可愛い。
「あんだよ、ニヤニヤしやがって」
「いやー、イナイは本当にずっと可愛いなって思って」
「ずっとって、いつからだよ」
「ん、初めて会った時から美少女だとは思ってたよ?」
初めて会った時は可愛らしい子だと思った。
美少女だと思ったし、その後も言葉こそ荒っぽいけど、優しくて良い人だってのは解った。
あの頃からずっとイナイの可愛らしさは変わらない。
「・・・なんだよ、今日はあたし揶揄って楽しむ日か」
「揶揄ってるつもりは無いんだけどなぁ。全部本心だよ。君の事が可愛いのも、愛しいのも」
「・・・知ってるよ」
イナイはそう静かに呟いて、俺の唇に自身の唇を重ねた。
俺も彼女の頭を優しく撫でながら、その行為を受け入れる。
そしてお互いを確かめる様に暫く唇を重ね合わせ、イナイがゆっくりと離れた。
「・・・慣れるもんだな。数年前ならお互い大分顔真っ赤にしてたろうに」
「ははっ、確かに・・・今は幸せな気分しか起きないかな」
「ああ、あたしもだ。本当に、夢みたいな気分だよ、最近は特にな」
彼女は幸せそうな笑みで、俺の頭を撫でる。
俺も彼女の手が心地よくて、素直に身を任せた。
「・・・もしシガルと出会ってなかったら、あたし達はもっと違う形になってたと思うんだ」
「そうだね、それは俺もそう思う」
シガルと居る時間が増えてから、イナイは少し態度が変わっていったと思う。
彼女が居たからイナイは変われた部分がある気がする。
「あたしはシガルに感謝してるんだ。尊敬もしてる。だから・・・ちゃんとあの子も幸せにしてやってくれな」
それは勿論そのつもりだ。シガルを放置する気なんてない。
俺にとっては二人共が大事な人だ。
むしろ二人が居るからこそ、俺は俺で居る事が出来る。
「んー『皆』で幸せになろう。頑張ってさ。シガルも、クロトも、俺も君も、これから生まれて来るかもしれない子供達も、皆でさ」
「・・・ああ、そうだな。そうなると、良いな」
イナイは俺の言葉に少し涙ぐみながら笑顔を見せ、また唇を重ねて来た。
今度はさっきよりも深く、長く、想いを伝えるかのように。
彼女は式以前より、更に積極的になった気がする。
最近は想いを伝えて来る事も甘える事も増えてはいたけど、式以降はもっと増えている。
それが俺には、素直に甘えてくれている様でとても心地いい。
彼女の中で何が大きく変わったのかは、俺が察してるなんて言えはしない。
けどきっと、彼女にとって、ほんの少し引っかかっていた何かが取れたんじゃないかと思う。
時々感極まって泣く人ではあったけど、最近は以前より涙腺が弱い。
俺は口づけから離れない彼女の目元を手で拭いて、彼女を抱きしめて受け入れた。
優しくて、強くて、泣き虫で、甘えたがりで、本当は強くないこの人が愛しい。
やっぱり、幸せにして貰ってるのは俺だよなー。
なんて思いながら、体がだるかったのも忘れて、シガル達が戻って来るまで彼女を抱きしめた。
皆が戻って来ても離さず抱きしめて体起こしたらボディー貰った。痛い。
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