第20話騎士隊長さんと手合わせです!

「では、はじめえぇ!」


その声が発されると同時に、目の前の騎士が木剣を手に迫る。


―――速い。

リンさん達の様な理不尽な早さじゃないけど、間違いなく俺より上だ。

上段から振り下ろされる剣をまともに受けても後手後手に回される。


ここはミルカさんの教えに従い下半身の動きを重点的に意識し、体捌きでその剣を木剣で受け流しつつ柄を顔に当てに行く。

剣を持ってるからって剣だけを意識している相手にはこういう攻撃が入る。


が、さすが騎士。

いや騎士隊長って紹介されたっけか、この人。


その手の攻撃を待ってましたとばかりに数ミリほどの見切りをして、先程振り下ろしたはずの剣が脇腹に迫ってきた。

まずいと思い仙術で強化し、なりふり構わず全力で剣筋の方向に飛び退く。

若干脇腹をかすったがかすっただけだ。止められない以上そういう事だろう。


そのまま強化をとかずに今度はこちらから踏み込もうとしたら、踏み込みの足を踏まれた。

やばい、動けない。でもこの距離なら木剣とはいえそこそこのサイズ、振って当てるには――。


即座にその考えが甘いと思い知らされる。

逆手に持って最短距離で剣が腹に迫っていた。いつの間に持ち替えたんだ。


「ぐっ!」


剣を握りの間の部分で弾くという若干曲芸じみた事をしてなんとか防ぎ、踏まれていない方の足で腹を思い切り蹴ろうとする。

だがそれも華麗にかわされ距離を取られた。


やばい、強化といてないのに追いつけない。見えてるのに全然速さについていけてない。

ミルカさんとやってる気分になってきた。


「ふふ、やりますね。さすが技工剣を使うだけはあります」


騎士隊長さんがそんな事を言うが、俺としてはいいとこ無しなので何とも言えない気分だ。


「どうした少年! 睨み合ってるだけではどうしようもないぞ! やれる全てを出さぬか!」


ここまで連れてきた英雄の騎士のおじさんが俺に発破をかける。

そもそも俺、別にこんな事しにきたんじゃないですから。何でだ、何でこうなった。


俺確か注意受けに来たはずだよね?

なんで騎士隊長さんと手合わせしてんの?

ていうか、てっきりあの騎士さんが隊長だと思ってたよ。


でもまあ、やれる事やらずに負けるのもしゃくだ。

言われた通り全力でやれるだけやってやれ。


『この体、その可能性の全てを使う』


俺の使える全力強化。

詠唱を使い、俺が使える身体性能とその強化の限界ギリギリまで引き上げる。


「これは、凄いですね」


騎士隊長さんがそう呟くのが聞こえた。けど俺はそうは思わない。

だって目の前の人からは余裕が見て取れるもん。


「行きます!」


そう声を上げ全力で『真正面』から切りつける。

小細工なし。全力で、全速力で、自分の持つ全てを振り切ってみる。

だがその攻撃は当たらない。俺の真正面からの全力はこの人には届かない。

振り切った剣は当たり前のようにいなされ、更に足で剣を踏みつけられる。


抵抗すれば所詮は木剣、折れる。

俺はその踏みつけに逆らわず、横薙ぎの剣を避けるついでに腰を低く落としてすねを狙う。

それも鮮やかなバックステップで躱された。


やばい、通用する気が起きないぞこれ。こんな人が当たり前にいるのか。

俺ほんとにたいしたことないレベルなんだな。

剣戟で勝てる気がこれっぽっちもしない。


・・・いやまて、何で剣戟に拘ってんだ。

俺は別に剣士じゃない。魔術師でもない。ましてや拳闘士でもない。

それらを全部詰め込まれただけだ。剣に拘る必要なんかない。

そうだ、あの騎士さんも言ってたじゃないか。


――やれるすべてを!


「っ!」


俺の思考が切り替わったのを察したかの様に飛び込んでくる騎士隊長さん。

けど、もう遅い。俺の準備は済んでいる。


『土よ、沈め』


騎士隊長さんが切りつける為の踏み込みに合わせて足場を沈ませる。

当然体勢は崩れるが、それでも彼の剣の鋭さがほぼ変わらない。凄い。


『見えぬ盾よ、守れ』


詠唱しつつ、ノーガードでこちらも切りつける。

ギリギリで詠唱が間に合って俺の顔の横で剣が止まる。魔術による障壁だ。

防げない可能性もあったがそんなの気にしてたらこの人には勝てない。


間違いなく、疑いようもなく目の前の人物は格上だ。

そんな人間に勝とうと思うなら、安全策は捨てろ。

どんなに危険でもたった1合を取れるその手順を巡らせろ。


そこに勝機があるなら賭けて見せろ。

それが俺の師匠の、弱者でありながら強者を屠る技を研鑽し続けた人の、ミルカさんの教えだ。


完全に不意をつく形になったはずの一撃は、障壁で防がれた剣を上手く手元で回して完全にガードされてまた下がられる。


――ここだ。


俺は持っていた小さい石を、魔術爆弾を取り出す。

何かあった時の為に準備はしておけとアロネスさんに言われて持っていた物だ。

炸裂閃光タイプの錬金術の道具で、発動タイミングは任意で行ける。

そう、俺には錬金術師としての技能も多少はあるんだ。使わない道理はない。


『視力保護、聴覚保護』


念の為に詠唱をして保護をかける。

俺の詠唱はこの世界の言葉じゃないから、詠唱から何をするかの予測は不可能だ。

相手は俺が取り出した物に完全に目がいっている。耳を塞ぐなんてするはずもない。いける。


魔術爆弾を発動させた瞬間、強烈な音と閃光が走る。

一瞬、世界が真っ白に染まる。


同時にその場で踏み込み、剣を持っていない方の手で握り拳を作って正拳を放つ。

普通なら届かない。けど、俺は届く。

このまま普通に踏み込んで切りつけたら防がれる可能性がある。なら近寄らなければいい。


魔術では遅い。俺は攻撃魔術には詠唱がいる。

それだと魔力の流れを感知されて防がれる可能性がある。

ミルカさんに仙術を叩き込まれた俺なら、仙術の気功を、空気を伝って相手に伝えられる!


「――いけ!」









「はあっ、はあっ、はあっ」

「く、うつつ・・」

「ふはは!すごいな少年! バルフに勝つとは!」


騎士のおじさんは笑いながら賛辞をくれる。

でも俺はとりあえずもうダメです。仙術つかいすぎて動けません。結構限界ギリギリです。

勝った俺は大の字で動けず、負けた騎士隊長さんは痛そうだが普通に起き上がってる。


やっぱ完全に格上だわ。

これ、不意打ちじゃなかったら確実に負けてる。


「ふう、本気だったんだけどな」

「はあ・・・はあ・・・こっちは、限界、ぎりぎり、です」

「それでも君は致命の一撃を入れるタイミングはあった。それをしなかっただけだ」


いや、あったかもしれないけど、多分後一撃入れに行ったらわたしシンジャウ。


「かいかぶり、すぎ、です、よ」

「ふふ、そうか、ならそういう事にしておこう」

「ふはははは! 良いな、良いな少年気に入ったぞ!」


なんか気に入られてしまった。


「おっと、そういえばまだ名乗っていなかったな。少年、私はウッブルネという。聖騎士だ」


今名乗るんですか? タイミングおかしくないですか?

ていうか聖騎士ですか。普通の騎士とは何が違うの?


「はあ、はあ、俺は」

「ああいや、喋らずともよいよい」


俺も律儀に名乗ろうとしたが、止められる。


「呼吸が整うまで頷くか首を振るかだけで良い。おそらく君の名はタロウ、であろう?」


え? 何で俺の事知ってんの?

とりあえず頷こう。


「君の持っている剣はイナイが作ったもの。そして今日はアロネスに言われてこの街に来た」


頷く。

もしかしてこの人ふたりの知り合いか。


「ふふ、実は少年が来る前に連絡を受けていてな。この腕輪に見覚えがあるだろう?」


そう言って俺が今つけてる腕輪とソックリな腕輪を見せた。

よく考えたらあの人達って公務員だっけ。

連絡取り合って、ついでに言ってたのかもしれない。


「色々話を聞いていたし、街のあの魔術を見て君の実力が気になってな。悪かった。だがあの場合付いてきて貰わねばならなかったのも本当だぞ?」


な? ってかんじでバルフさんの顔を見る。

バルフさんは「それはそうですけどね・・・」という何とも煮え切らない返事だった。

振り回されてそうっすね。





その後はウッブルネさんに安くて良い宿を紹介して貰い、ご飯も奢って貰った。

そこで聞いたのだが、聖騎士とは王を守護する最後の盾となる者に与えられる役職で二人しかなれないらしい。

なぜ二人なのか気になったので聞いてみると「大きな盾は持てても二つだけだろう?」と、答えになってる様な、なってない様な返事をされた。

いや、なって無いな。


いつか騎士隊に入らないかと言われたが、それは肌に合わなそうなので断った。

規律とかちょっと苦手。ゆったりめが良いです。


今日は疲れたのでぐっすり寝れそうだ・・・あ、観光何もできてねえ。

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