第2話・じいじの話
夜は暖かいたき火の前で、じいじのつくる大好きなトウモロコシパンをほおばりました。タケルにとっては、じいじといるその時間だけがおだやかなひとときでした。満腹になると、疲れ果てたからだをポンチョの上に横たえ、ほおづえをつきます。すると優しいじいじがそのわきにきて、むかしむかしの言い伝えを話して聞かせてくれました。
じいじの話はどれもすごく面白かったので、タケルは毎晩ワクワクしながら、一心に聞き入りました。しかしこの夜の話は、少し奇妙なものでした。
「えっ?・・・だって人間はそのむかし、ロボットにネジくずでつくられたんでしょ?」
「それが、実はてんででたらめなのじゃ。すべて、ロボット国が人間たちを支配するためにひろめたウソなのじゃよ。そう言い聞かせれば、人間はロボットよりも身分が下ということになるからのう」
じいじがあまりにもとっぴなことを言うので、タケルは仰天しっぱなしでした。
「だけどそんなことって・・・」
「信じられんのも無理はない。長いあいだ人間は、そのいつわりの定説にほんろうされつづけてきたからのう。ところが、これが真実というわけじゃ」
「本当のホントなんだね?」
「さよう。じゃが、このことは誰にも明かしてはならんぞ。うわさとは必ず、聞かれたくない相手の耳に入るものじゃ。こんな話を人間がかわしているとロボット王に知れれば、大変なことになるからのう」
ウソがばれると、ロボットに大変な不都合が起きるということを、じいじは言っているのです。それはすなわち、人間が帝国に反抗するきっかけになってしまう、ということでした。じいじがそれをたきつけたと知れれば、きっとひどい目にあわされるでしょう。タケルは、きっと秘密にしなければ、と心に誓いました。
だけれど、タケルの好奇心はおさまりません。
「じゃあ、このからだがこんなに柔らかいのも、温かいのも・・・」
「さよう、鉄でできてはいないからじゃ。この美しい肌がネジくれでできたなどと、とんでもない。鉄に体温はあるまい。ひとのからだは、ひと同士が触れあって心地よいように、そのようにできておるのじゃ」
「触れあって心地いい・・・」
「ロボットにはそれができん。心をかよわすということがな。だから力を振りかざして、わがまま放題をはたらきたがる」
タケルはほんの少し、自分の弱く温かいからだに自信が持てるようになりました。
「だから、ロボットのようになりたいなどと、ゆめゆめ思ってはならん。よいな、タケルや」
「うん。わかったよ、じいじ」
そしてじいじは、いにしえよりつたわる伝説を話して聞かせてくれました。それは不思議な不思議なお話でした。
「むかしむかし、あの太陽がまんまるだった頃、この国は人間が仲良く暮らす、豊かで素晴らしい国じゃった。ところが人間がキカイというものを発明してから、だんだんとすさんでいったんじゃ」
「キカイってなに?じいじ」
「ロボットのタネみたいなもんじゃよ。そこからロボットが生まれ、やがて人間は、力をつけたロボットに支配されるようになったんじゃ」
タケルは考えこみました。そして、はっと気づきました。
「まさか。それじゃ、ロボットは人間がつくったってことじゃないか!?」
「その通りじゃ。人間がロボットをつくったんじゃ。ロボットが『人間をつくってやった』などと言っては我々をさげすむのは、まったく口からでまかせのあべこべなんじゃ」
タケルはじいじの言葉に、目をくりくりさせて驚きました。ロボットは、鉄鉱石を掘るようなつらい作業をさせるために便利な人間をこしらえた、というのが常識だったからです。それがまさか、人間がロボットをつくったなんて、信じられないような話です。それだと、今まで知っていたこととは正反対ではありませんか。
それに、あの太陽がかつてまんまるだったというのも驚きでした。だとすれば、いったいなぜ、今のようにまっぷたつに割れてしまったというのでしょうか?そして、そのもう片一方はどこに消えてしまったというのでしょうか?
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