第1話・タケル
村にひとりの少年がいて、名前をタケルといいました。10歳になったばかりのタケル少年には父母がなく、小さなあばら屋をすみかに、村の長老であるじいじとふたりで暮らしていました。
タケルはじいじを助けるために、昼間は採掘場で働きました。まわりの大人たちと同様に、細い腕でツルハシを振り上げては、かたい岩盤に打ちこみます。すると刃の先が衝撃ではね返って、小さなからだははじき飛ばされました。それでもタケルは何度も何度も起きあがり、むだに思えるような作業をくり返します。こんなぐあいでも、コロコロと転がり出た鉱物片を手の平でかき集めると、ちょっとした量になるのです。ひろうその手は、マメだらけでした。
「ようし、今日はたくさんとれたぞ」
タケルは、ありったけの鉱石のかけらをモッコに乗せ、背中にかつぎました。ずっしりとした重量に、歯を食いしばります。それを鉱物管理所まで運ばなければならないのです。
管理所のロボット親方は、こすっからい上に、えらそうにいばりくさっていました。いつも、大切に運んできた鉱物をガリガリとかじってはペッと吐き出し、成分の質が悪い、と文句をつけました。そして、うなりを上げてしなるムチで、お尻をいやというほど叩くのです。
負けん気の強いタケルは、そのたびにキッと目をむいて、ロボット親方をにらみつけました。すると相手は必ず、かみ合わせの悪い超合金製の歯を気味悪くすりあわせながら言いました。
「ギリギリ。なんだその目は。ネジ以下の分際で、オレさまに刃向かおうってのか?おまえら人間は、さびたネジくずを溶かしてつくられたリサイクル品だってことを忘れるな、ギリギリ」
親方はそうしてカタカタきいきいと笑い、またムチを振るいました。お尻につながった太いコードからエネルギーをもらっている親方は、人間が太刀打ちできないほどのすごい力です。そんな力で、小さな少年をようしゃなく打ちすえるのです。
「しょせん、おまえらはロボットさまたちとは材料がちがうんだギリ。立場をわきまえろい、ギリギリ」
タケルはくやしい気持ちでいっぱいになりました。しかしそれはしかたのないことでした。人間は、ロボットをつくった後に出るはいき物からつくられているらしいのです。知識のない人間たちは、自らのそのいやしい身分を認めるよりほかありませんでした。
(ネジくずでつくられたこのからだは、どうしてこんなに柔らかくて、もろくて、弱いんだろう・・・)
タケルは自分の手の平を見つめました。不思議でしかたがありません。ぽわぽわと温かい皮膚の下を、血が巡っているのを感じました。それはまるで、木イチゴのジャムがつまったうすい皮袋のようで、いかにも壊れやすそうに思えました。
(鉄のよろいをまとったロボットのようなからだになりたいな・・・)
小さくて柔らかい手の平には、マメがふくらんではつぶれた無数の傷がついていました。
(あのかたくて冷たい鋼鉄の指なら、一日中でもツルハシが振るえるのに・・・)
そう夢想して、タケルはいつも悔しさとみじめさに打ちのめされました。そして樹の幹のようにこり固まった背中に、ひんやりとした夜の空気が落ちてくるのを感じながら、じいじの待つあばら屋へともどるのでした。
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