盗賊と二号さん1『最高の気分だ……』
ニッサンの町を出て、俺は時速百キロで街道を爆走していた。
背中には新しく旅のお供に加わった幼女を乗せている。
そう、俺は走っている。人を乗せ、山道ではなく、平らな道路を全力で走っているのだ!
誰かを乗せている重量感と体に纏わりつく風圧は俺に生きている実感を与えてくれる。
「最高の気分だ……」
リリンと近場の森に行ったりもしたが、長距離走行となるとまた気分が違ってくるものだ。
「どうだ? 心が晴れ晴れするだろう?」
「うえーきぼちわるいよー」
「…………」
乗客は同じ気持ちではないようだった。
今世の俺の乗り心地はあまりよくないのだろうか?
だとしたら軽くショックだ。
一つ村を通過し、二つ村を通過し、三つ目の村を通過してしばらくした地点。
対向車の心配もなく、スピード制限もない平和な道。
「くーすぴーくーすぴー」
「…………」
なんだかんだ言いながら、リュキアは俺の背中で心地よさそうに寝ていた。途中休憩で一度、酸っぱいスプラッシュをしたのがよかったのかな。
最初に酔っていたのは振動に慣れていなかっただけなのかもしれない。
そうなら嬉しいんだけど。
「お……?」
快適な走路で、俺は進行方向の先で停まっている馬車があることに気が付く。
華美な装飾はないが、しっかりとした造り。
恐らく貴族かそれに類する金持ちが使用する馬車だろう。
そして、その馬車は武器を持った薄汚い身なりの男たちに囲まれていた。
男どもは盗賊だろうか? トラブルの香りがするぜ……。
「つか、どっかで見た展開だな……」
「どうしたのぉ……?」
眠たげな声を上げ、リュキアが目を覚ます。
「ああ、すまんが、ちょっと厄介なことになるかもしれない」
俺は徐々に速度を落としながら接近していった。
最悪の場合、平和な街道で再びトマト祭りが開催されることになる。
……ならないといいなぁ。
そろりそろりと馬車の物陰から覗き込む。
「うへへ、あのメイドはかなりの上物だぜ……」
「馬車に乗ってるのは貴族の令嬢らしいじゃねえか」
「楽しみで仕方ねえぜぇ……!」
盗賊は十人ほど。
一方、襲われている馬車の側は護衛の騎士とメイド服を着た女性の二人だけだった。
二人の会話に耳をそばだてる。
「やれやれ、本当に出てきちまうとはなぁ……」
「お嬢様の命令ですからね、皆殺しは避けるようにしましょう」
客観的に見れば多勢に無勢。襲われている側が圧倒的に劣勢である。
しかし、騎士とメイドは実に落ち着いたものだった。
「少し様子を見るべきか……?」
助っ人に入ることも考えていたが、彼らの態度を見るに勝算がありそうだ。
なら、ここで介入するのは盗賊をいたずらに刺激するだけかもしれない。
レグル嬢たちのときと同じく最初は静観してみよう。
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