夜行列車に乗って
立山登山に行って以来、すっかり北アルプスの景色に魅せられた。夏でも雪が所々残り連なる連山の景色は、見てて飽きない。美しく雄大であり思わず行きたい、登ってみたいと思わせる魅力的な山の宝庫であった。
美しい、綺麗な景色を求めて次は、長野県の「白馬八方尾根」ポストカードのように、八方池に映り込む白馬三山の景色にK子が魅せられ、
「ここに行ってみたいね」と、例の付箋が数カ所ついている本を持ってきて私に見せた。
もう、K子の行きたいと思う場所は、私も行きたいと思う場所になり、何回か一緒に山に登って、興味をそそられる場所まで同じになってきた。「素敵」と思う感性が似てきたようだ。
もう、ワクワク感が止まらない。今度は先にコースタイム、交通機関を確認してから、山行計画をたてた。当たり前の事なのだが。
今回は、前の日の夜に新宿駅から23時54分発、期間限定夜行列車「ムーンライト信州81号」に乗って、途中バスを乗り継ぎ起点の八方バスターミナルに午前6時に到着して登山開始し、 夕方5時30分の今度はバスに乗って新宿まで 戻るという計画。一泊列車泊だ。週末を有効利用したかったので、金曜日の夜出発して、朝一に到着する夜行での移動を選んだ。
2014年9月出発。期間限定の夜行列車。発車時間が近くなると、駅のホームには、私達と同じような格好をした、登山スタイルの人達が23時30分過ぎてから増えてきた。ほとんど登山客のようだ。私達も同じ仲間が沢山いる事に、思わず微笑んだ。
「皆んな、考える事は同じだ」
寝台車ではないので、熟睡は出来なかったが、朝の目覚めは凄く良かった。 行きたい所に行くパワー凄い。前回の立山もそうだが、こんなエネルギーが私に、K子にあったんだ。とてもイキイキしていた。
起点の八方バスターミナルまで、移動してきて、リフト券を購入。買ってあったパンを食べて身支度整えいざ出発。ゴンドラ、リフトを乗り継ぎ八方池山荘まで行く。八方池山荘、朝8時登山スタート。
朝は視界が悪くガスっていて、ちょっと残念な気持ちで「途中から晴れてくれないかな~」と思いながら登っていた。
八方池まで幾つかのケルンがあるのだが、1つ目の「八方山ケルン」に到着。ケルンをバック写真を撮りあっていると、既に多くの登山者がいたのだが、歓声が上がった。
「何、K子、何皆んな見て歓声あげてるんだろうね」と言って皆んなの視線の先を追って見ると、
「凄い、凄い、綺麗だよ」
K子が興奮して私の方を見る。
「凄い。綺麗」
これしか言葉が出てこない。
「雲海」が広がっていた。ずっとガスってたせいで雲海に気付かなかった。雲海の上に、白馬三山のてっぺんが顔をだしていた。もし、「雲海の上を歩けたなら白馬三山まで行けるのに」と、思える程、白い分厚い絨毯の様に広がっている。
ここから暫く、周りを見渡すと雲海が見え、別世界に来てしまったようで、楽しみながらの登山となった。
八方池に着き、途中細かい石が多く足元をとらわれ、以外と体力奪われヘトヘトだった。が、天気が物凄く良くて、あの本で見た様な、八方池に白馬三山が映り込む景色が今、目の前にあった。
一気に力がみなぎる。
「本当にあの景色そのままだ」
「ポストカードみたいだね」と、K子が言った。
「本当に、ズバリそのままの景色だね」
綺麗な写真が撮れ、感無縁、言葉は出てこない。暫し、休憩しながら眺めていた。
本当は、この先の唐松岳まで行きたかったのだが、私達のコースタイムでは帰りのバスに間に合わなくなる為、その手前の「丸山ケルン」ま迄行く事にした。正直、かなりの体力使い、途中の「扇雪渓」で、見た目の涼しさで癒され、休憩とり再び出発。上を見上げると、「あそこが頂上」らしいと分かるのだが、そこまでかなりの登りで、見た目で気が滅入った。
「今の状態で、あの登りはきついな」
K子も辛そうだ。黙々と登る。
「丸山ケルン」に到着。写真を撮りもうくたくたで座り込もうと思い場所を探していると、雲海の上に、初めの時より更に更に大きく、まじかに白馬三山が姿を現していた。凄い迫力だ。
「K子、ここまで来て良かったね!」
「私、もう途中辛くて、何度も引き返そうと言いたい気持ちを抑えてたの。でも、諦めないでここまで来て良かった」
私も、K子と同じ様に辛く苦しかったが、せっかくここまで夜行列車乗ってきたので、「唐松岳」を諦めた変わりに、どうしても「丸山ケルン」まで行きたいという強い欲望があった。
あのまま、八方池で、満足していたら、この景色に出会う事はなかったと思うと、
「本当に、ここまで来て良かった」と思った。
2人で大きな石に座り、手が届きそうな程迫力迫る白馬三山をみていた。雲海と連山がとても幻想的で、この場にいられた事に感謝する。四、五分も座って眺めていると、身体の体温がどんどん奪われ、もう限界。寒さに負けて、後ろ髪を引かれる思いで、下山する事にした。見えなくなるまで、何度も何度も振り返った。
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