妖しげな魅力の詰まった定番ホラー

誰もいないはずの邸で明かりがついたり音楽が聞こえたりする、というのは怪談としてよくあるといえばよくありますが、料理の仕方は十人十色。
この作品では様々な謂れのある邸、現れる謎の幼い少女など、
典型的だけれど読み手の興味を惹き付ける妖しげな魅力が詰まっていて、
最後までそれに引っ張られるようにするするすると読み進めることができました。
ホラーとして奇抜なことがあるわけではありませんが、先を読ませない展開もとても良かったと思います。
また、「雀色」「戦慄く」「まろび出る」「翳す」など、やや古めかしい印象の語彙やの使い方や漢字の閉じ方が、
作品の怪談的要素にあっていて、文章から雰囲気を匂い立たせる、ということに成功していると思います。
終盤の化物の造形にも臨場感がありました。

ただ、小さな瑕疵も少し感じました。
全体に構成が弱いような気がしたことです。
冒頭のオカルト研究部の件がラストとリンクしていないため、読み終わってみると蛇足に感じられてしまったり、
化物と邸の謂れにもつながりが見いだせず、ラストの真相がはっきりした時点でも、なんだかすっきりとしない印象が残りました。
ホラーなので、「分からないままだから怖い」という部分も当然ありますから、すべてを説明する必要はないと思いますが、
それであればもう少し謎の部分を際立たせないと、邸の謂れ自体が物語の中で機能しなくなってしまうように思います。

イベント参加作ということで、もしかしたらいろいろな制約があってのことなのかもしれませんが。

ともあれ、ホラーは普段私の書かないジャンルで、こういった作風の良作に触れることができて、とても良かったと思えました。