第155話 優奈のレッスン

「なんで優奈がここに……それに一肌脱ぐって、どういうこと?」


 優奈がここに来た意図がまるでわからない。

 父さんから予備の鍵を受け取っていたのは知っていたけど、今まで部屋に立ち入ることもなかったのに。


「昼休みにね、部室で蒼兄と話をしたの。そしたら、蒼兄もアリスとのセックスのことで悩んでいるらしくて、それだったら、あたしが実地で教えてあげたらいいんじゃないかなーって」


 学校の授業でわからないところを教えてあげるくらいの気軽さで、優奈はそんなことを言った。


「そんなのダメに決まってるだろ!?」


「……なんで?」


「なんでって、優奈はまだ経験もないじゃない!」


 私の知る限り男性経験は無かったはずだ。


「え? ……アリスとは何度もしてるじゃない」


 優奈がさらっと爆弾発言をして、それを聞いた蒼汰がギョッと目を剥いた。


「お前、妹と……?」


 蒼汰からの疑惑の視線を受けて私は慌てて否定する。


「ち、違う!? 優奈とそういう関係になったのは異世界から帰ってきてからで、兄として妹に手出しなんてしてないから! それに、この体になってからの優奈は、妹というよりお姉ちゃんだったというか、その……」


「そ、そうか……」


 蒼汰は聞いてはいけないものを聞いてしまったとばかりに言葉を濁して視線を逸らす。

 ……なんだか、余計に墓穴を掘ってしまった気がする。


「とにかく、優奈が蒼汰となんて絶対にダメだよ!」


「アリスはしてるのに?」


「わ、私がしているのはアリシアを救うためで――」


「その手伝いをしたいっていうのはダメなの?」


「そんな理由で初体験を済ませていい訳ないだろ!?」


「経験の有無で人生が変わる訳でもなし、アリスは大げさすぎるよ」


「とにかくダメなものはダメだ! ……蒼汰が相手なんて」


 お兄ちゃんは許しませんよ、そんなの!

 それに、父さんと母さんに申し訳が立たない。

 優奈に期待していたのはアドバイスであって、実地での指導なんて求めてない。


「なんでよ。あたしがいつ誰とするなんてあたしが決めることでしょ? ……あたしは蒼兄となら別に嫌じゃないよ」


「そこは、嫌がろうよ!? もっと、体を大切にして!」


 いくら幼馴染で気心が知れているとはいえ。

 親友としてはいいやつだけど、隠してる本性はエロ猿なんだからな! 男はみんな狼だぞ!?


「……じゃあ、あたしが蒼兄としなければいいの?」


「え……?」


「あたしは蒼兄がアリスとするのをお手伝いするだけ。それだったら問題ないでしょ? 自分だけしないままでいるのはズルかなって思ったから言ったけど、本当はあたしはする必要ないし……」


 それなら……って、


「いや、問題あるよ! 大ありだよ!?」


「なんでよ? アリスは頑固だなぁ……」


 大体こういうのは誰かと一緒になってするもんじゃないだろう。


「普通じゃないっていうか……」


「あたしたちの間で普通なことの方が少ないと思うけどね」


 今更何をと言いたげに肩をすくめる優奈。


「もし、どうしても三人が嫌だったら、あたしと蒼兄の二人で教えるのでもいいけど……?」


「なんで、そうなるのさ!?」


 そんなの余計にダメに決まってる!

 コラ、蒼汰! 人の妹をエロい視線で見るんじゃない!?

 この節操なし!!!


「翡翠姉とはちゃんと気持ちよくなってるのに、蒼兄とは苦しいままだなんて、このままじゃ、蒼兄もかわいそうだと思わない?」


「そ、それは――」


 男子にとって下半身関係で他人と比較されるというのは、とてもセンシティブな案件である。

 比べられるのが、兄妹きょうだいなら尚更だ。

 脱童したばかりの蒼汰はまだ自信もなくて、心は脱皮したての虫のように傷つきやすい状態にあると思う……多分。


「だぁぁ、もぉぉ!」


 これも、ギブアンドテイクのギブの部分だろう。

 私のせいで蒼汰のセックスが下手になったら後味が悪い。


「わかった! わかったよ! ……三人でいい」


 ……ぐぬぬ


「だけど、優奈はエッチなことは一切無し。脱いじゃダメだし、蒼汰が優奈を触るのも却下。それが最低条件」


「あたしはそれでいい……蒼兄も大丈夫?」


「お、おう。俺は相談に乗って貰ってる方だしな……」


 そう言って蒼汰は大きく息を吐いた。

 半分安堵、半分残念ってところだろう。


 ……そんないい思いばかりさせてたまるか。


「それじゃあ、まずは着替えようか」


 学校から直接だったので全員制服姿だった。

 このままくんずほぐれつなんてしたら優奈のパンツが見えてしまうかもしれない。そんなの不健全にも程がある。


「着替えって……何に?」


「そりゃあ、体操着でしょ」


「そ、そうなんだ……?」


 それからはじまるお着替えタイム。

 優奈には浴室の中で着替えてもらった。


「アリスは過保護すぎるよ。別に下着くらい見られても減るものじゃないのに……」


「減るよ!」


 蒼汰の記憶に残ったりしたら、私の心の平穏値ががりがりと削られてしまうのだ。


 浴室に優奈を押し込んだ私は手早く制服から体操着に着替えていく。ちらちらと蒼汰の視線を感じるけど、下着を見せずに体操着に着替える方法は女子の必修科目だから、残念だったね。


 着替え終えて、私と優奈はベッドに、蒼汰はベッドサイドにあるミニデスクの椅子に腰を下ろした。

 室内に微妙な空気が流れる。

 それにしても、狭い室内に三人が体操着姿で座っているというのは、どうにも不自然な光景だ。


「それじゃあ、はじめようか?」


 ベッドを膝歩きで移動した優奈が、私の背後から両肩に手を置いてそう宣言した。


「それでは蒼兄に問題です。女の子を気持ち良くさせるにはどこに触るのが良いでしょうか?」


「えっと……それは、胸とかアソコとか……?」


「んー」


 優奈は両手の人差し指で小さくばってんを作った。


「答えは全身です。そこは敏感なところだからね、いきなり触っても刺激が強くて痛かったりするんだよ。だから最初は、いろんなところに触れてあげるの」


 優奈の指が首元に触れた。そのまま表面を撫でるように首の根本を滑っていき鎖骨に到達する。

 触れるか触れないかの微妙な力加減に体がゾクッと震えた。


「やさしく、焦らずに、ね? アリスは首の裏とか耳たぶの後ろとかも気持ちいいんだ」


 自分の弱いところを口に出して指摘されるというのは、恥ずかしいにも程がある。


「こうやって言葉で指摘してあげるのもいいね。アリスは恥ずかしがり屋さんで、その恥ずかしいが気持ちいいになる娘だから」


「わ、私はそんなこと――」


 ないって言おうとした口を優奈の人差し指で塞がれる。


「ふふっ、違うって言うの? もうこんなに体が反応しているのに……?」


 耳元で囁かれると頭の中に優奈の言葉が響いてジンジンする。


「蒼兄に見られるの、恥ずかしくて、嬉しいんでしょ?」


「ち、違う!?」


 私はそんな変態じゃないっ!


「蒼汰もそんなに見るなよぉ……」


 蒼汰はさっきから私たちのことをガン見している。

 瞬きひとつしていない気がする。


「いや、見るだろ」


 無慈悲な返答。

 せめてもの抵抗として、両手で顔を隠して視線から逃げる。


「だから、いっぱい恥ずかしい気持ちにしてあげるといいよ」


「なるほど……」


 なるほどじゃないよ。

 ばかぁ……


「男の子は体の準備ができたらいいみたいだけど、女の子は心の準備も一緒にしてあげないとダメなの」


「お、おう」


 そこからは優奈にされるがまま。

 優奈は私の弱点を熟知していて、普通じゃない状況で頭が混乱していることもあって、すぐに私はふにゃふにゃになってしまい。やがて、優奈に促された蒼汰も私に触れてきて。


 二人にされるというのは予想もできないところからの刺激に絶え間なく襲われるということだった。

 最初はたどたどしかった蒼汰の触り方も優奈の指使いを真似て直ぐに修正してきて、相変わらず物覚えの良さはチート級だなとなんだか悔しく思ったりした。


「焦って強くする必要なんてないから。ゆっくり弱火でコトコト煮込むように高めて上げるの」


 それから優奈のレッスンは続いて。

 与えられる快感の連続で、時間の感覚が曖昧になる。


「話には聞いていたけど、蒼兄のすごい……」


 気がついたら、蒼汰が体操着を脱いでいた。

 私もいつの間にか全部脱がされていたけど、そんなことはどうでもよくて。


「ちょ!? 優奈こんなの見ちゃダメ!」


 なんてものを優奈に見せてるんだ、この馬鹿!?


「こんなのってなぁ……」


 私の物言いに蒼汰は苦笑して、人差し指で頬を掻く。


 いいから早く隠せ!

 優奈に悪影響が出たらどうするんだ!?


「わかったよ……見えなくなるようにすればいいんだろ?」


 そう言って蒼汰が伸し掛かってきた。

 確かに剣を鞘に収めてしまえば刃は見えなくなるけど、そう言うことじゃない。


「ちょ、ちょっと待て! 馬鹿ぁ!?」


「わぁ……♡」


 ローションを使わなかったのははじめてで、だけど、体の抵抗は少なかった。むしろ、軽く……その、ダメになった。


 今日の蒼汰はいつもと違っていた。

 どうやら、自分が気持ちなることよりも、どうすれば私が気持ちよくなるのか探ることを優先していているようだ。


 ――それから、少し時間が経って。


 何やってるんだ、優奈のやつ!?


 ベッドの横に居る優奈が体操着のハーフパンツに手を入れていることに気がついた。

 指で抑えた口元から切なげな声が漏れている。


 こんな優奈の姿を蒼汰に見られる訳にはいかない。

 私は両手を伸ばして蒼汰の顔を自分に固定した。


「蒼汰、私だけを見て(優奈を見たら殺す)」


「お、おう……」


 言外に込めた気迫が伝わったのか、蒼汰は戸惑いながら私の要請に応じる。


 これでよしっと……


 私は蒼汰の目をじーっと見て監視する。

 行為が再開された。


 あれ……?

 これって、結構恥ずかしい――かも?


 当たり前ではあるけれど、蒼汰の顔が近い。

 目を合わせたままでいると蒼汰の反応が丸わかりで、それは、逆に言うと私の反応も蒼汰に筒抜けということでもある。


 だけど、蒼汰のことを監視しないわけにはいかない。

 視線を逸したくなるのをぐっとこらえた。

 視界も心も体も全部が蒼汰で埋め尽くされてしまう。


 蒼汰の表情はとても気持ちよさそうに蕩けていた。


 ……自分は今どんな顔をしているのだろう?

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