第150話 入学式

4月8日(土) 0週3日


 今日は入学式があるため、土曜日だけど登校していた。

 校内を歩いているといつもより見られている気がした。

 新入生が居るからというのもあるけれど、目立つ銀髪が今までと違うからというのも大きいかもしれない。

 トレードマークだったロングヘアーのストレートは、今はセミロングのポニーテールになっている。

 知り合いにも会う度に驚かれた。


「髪型だけじゃなくて雰囲気も休み前とは違っているね」


 と、去年に引き続きクラスメイトの純に言われた。


「何かを我慢しているような思い詰めた感じがなくなって、明るく柔らかくなった気がする」


 俺にできることが見つかって前を向けたからだと思う。

 処女じゃなくなった影響は……多分ないと信じたい。


「恋愛関係で悩んでいたのがふっきれたとか……?」


「そんなところ、かな……」


 とわざと目を伏せて言うとそれ以上は聞かれることは無かった。どうせ本当のことを話すのは絶対に無理だ。だったら、勘違いさせて置いた方が良いだろう。

 それにあながち間違ってもいなかった。


 いつもならぐいぐいと突っ込んできそうな純が控え目だったのは、自分は山崎くんと順調だからそのことで私が傷つくかもしれないと気づかってくれているのだろう。


 クラスが変わったタイミングなので、他の女子からも深く聞かれなかったのは幸いだった。

 女子達は敵と味方とそれ以外を識別する友達作りに忙しそうだ。

 私も何人かと挨拶して当たり障りのない話をしたけれど、女子達の輪に入るのは相変わらず苦手だった。社交的な優奈や純のフォローがなければクラスで浮いてしまっていたかもしれない。


 うちの学校の入学式は体育館で在校生全員が出席して行われる。二年前に新入生として参加したときと同じだった。


 去年もそうだったんだろうな。


 そのときのことを想像して胸が痛くなる。本来なら在校生の中に居るはずの俺が居ないことで、優奈にどれだけ寂しい思いをさせてしまったのだろう。


 もう、優奈を悲しませたりはしない。


 隣に立つ姉を見上げて心の中で誓いを新たにしていると、視線に気づいた優奈が不思議そうに首を傾げた。『どうしたの?』と念話で聞いてきたので、『なんでもない』と首を小さく振って、壇上で話をする校長先生に向き直った。


 入学式が終わると在校生は退場して新入生に対する部活動紹介が始まる。

 俺達ウィソ部も新入部員を勧誘するためにステージに立つことになっていたのだが……


『なんで、こんなときに大きくしてるのさ!』


 発表前の舞台袖で、俺は蒼汰に文句を言った。

 他の人に聞かれていいような内容じゃなかったので念話を使っている。


『しかたねぇだろ、治まんねぇんだから……』


 聞けば昨日くらいからずっと勃起しっぱなしらしい。

 自分と交わした約束が原因である以上、それ以上蒼汰を責めることはできなくて。


『……なんとかばれないように誤魔化してて。勧誘は私がするから』


 そうしているうちに俺達の出番がやってきた。

 俺と蒼汰の二人でステージに上がる。


 ……結果は大失敗だった。


 ステージに立った俺がマイクで部活動の紹介をしている間、蒼汰は両手をズボンのポケットに入れて、前のめりに立っていた。

 眉間に皺を寄せたその姿は、傍から見ると周囲を睨みつけて威嚇しているようにしか見えず、新入生を軒並みドン引きさせてしまったようだった。

 俺のトークで必死に誤魔化したけど、逆にちぐはぐ感が際立って、ヤバい部活と思われたに違いない。

 部活動終了後、部室への見学希望者は一人も来なかった。


「こんなことなら、女子だけで説明すれば良かったかな……」


 トレーディングカードゲームのプレイヤー人口は基本的に大きく男性に傾いている。蒼汰以外女子部員であるうちの部はその例外中の例外だった。

 だから、男子が居ないと入り辛くなるかもしれないと気を回したのが今回の敗因だ。


「すまん……全く面目もない」


「ま、まぁ、勧誘が失敗に終わったと決まった訳じゃないし……」


 まだ挽回するチャンスはあるだろう……多分。


 もともと蒼汰が俺のために作ってくれた同好会だけど、せっかくだから部活として続いていってほしいと思うから、勧誘もがんばろう。


 見学時間が終わったら、今日学校でやらないといけないことはもうない。その後は蒼汰との約束を果たすことになる。


 私は蒼汰と一旦別れて別々にマンションに向かった。

 一緒に下校して部屋に入るところを誰かに見られたらまずいので、話し合ってそうすることに決めたからだ。


 それから、蒼汰にはマンションに来る時間を一時間ほど遅らせてほしいとお願いしてある。別に焦らしている訳ではなくて、準備をしておきたかっただけだ。


 マンションについた私は、お風呂と一緒になっているトイレでナプキンを処理する。出血はほとんど止まっているみたいで安心した。

 ナプキンをここに捨てるのは嫌だったので、ナイロン袋に入れてポシェットにしまっておく。


 それから制服を脱いでシャワーを浴びた。

 髪はタオルでまとめて濡らさないようにして、体だけさっと洗う。

 バスルームから出ると、体を拭いて下着を履き替える。

 汚れが目立たないダークグレーのサニタリーショーツ。上はノーブラでキャミソール。それから、マンションに置いている着替えからシンプルな萌黄色のワンピースを取り出して着た。

 香水をつけるかどうか少し迷ったけど、なんとなく恥ずかしくてやめておいた。制汗剤だけ吹いておく。

 これで準備完了だ。


「……時間が余っちゃったな」


 まだ蒼汰が来るまで三十分ほどあった。


 ……なんだか落ち着かない。

 もう大丈夫ってメッセージするか迷ったけれど、私が待ち切れないって思われるのはなんだか癪だし。


「……ほぐしておこうかな」


 今日の蒼汰の様子を考えると、とても余裕のある扱いをされるとは思えない。それ自体は私自身が望んだことだけど、なるべく痛くない方がありがたい。

 だから、今のうちに準備をしておいた方が良いだろう。

 これは必要なことだから。

 ……私がエッチな訳じゃない。


「んっ……」


 私はワンピースの裾から手を差し入れた。


 適当なところで切り上げるつもりだった。

 だけど、場所が場所だったからか色々思い出してしまって。


 蒼汰の切なそうな表情。

 私に向けられた欲望の塊。

 快楽を求める道具にされる。

 荒々しい乱れた息づかい。

 窮屈で苦しいだけの行為。

 胎内で弾けて脈動する感覚。


「アリス……?」


 だから、いつの間にか部屋に蒼汰が居たときは頭の中が真っ白になった。


「ひゃ、ひゃい!? 蒼汰、なんで……!」


「なんでって約束の時間になったから来たんだが……」


 そんなことも気づけないほど私は行為に没頭していたらしい。


「ち、違うの! これは――」


 何か違うというのだろう。

 自分でも何を言っているのかわからないほど混乱していた。


「お前すげぇエロい……このまましてもいいか?」


「ちょっ! あっ……やぁ……!」


 蒼汰は荒々しく服を脱ぎながらベッドに上がり、私に伸し掛かってくる。そのまま押し倒されてしまう。


「ダメだ、こんな姿見せられて我慢なんてできねぇ……やるぞ、いいな?」


 蒼汰は理性を失うくらい興奮していた。

 多分絶対にこれは私の自業自得なんだろうけど、少し怖くて。


 混乱した頭でそれでも拒絶していないことを伝えないといけないと思って、私はただ頭を縦に振った。

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