第142話 事後処理

 一回目は、ただただ必死だった。

 とにかく蒼汰に気を使って、事が失敗に終わらないよう気が気じゃなかった。


 二回目は少しだけ余裕ができていた。

 といっても、蒼汰はもう大丈夫だろうという安心感があっただけで、私自身は相変わらずいっぱいいっぱいだったけど……

 蒼汰は私の体を使って気持ちよくなることを覚えたらしい。両手で腰をがっちりと固定された私は、蒼汰の欲望が果てるまでただ耐えるだけだった。


 三回目は蒼汰が少し調子に乗っていた。

 ベビードールを着た姿で上に乗ってほしい。

 恥ずかしそうにそうリクエストしてくる蒼汰を、私は少し冷めた目で見てしまった。

 まるで、新しいおもちゃを買ってもらえる子供のようなはしゃぎっぷりだ。

 だけど、元男としてその気持ちはわかってしまう。蒼汰も私なら理解してくれるだろうという考えがあって言ってるのだろう。

 私は蒼汰の要望を受け入れた。


 ……だからと言って、私が上になるのが上手くできなかったのを、余裕綽々でにやにやと見ていたのは許せないと思う。

 一回目に蒼汰が散々手こずってたときは、私が必死にフォローしたり励ましたりしたのに……!

 結局、私がまごまごしているのがもどかしくなったのか、途中から体を起こした蒼汰に包みこまれるように抱かれながら、三回目も終わった。


 三回戦を終えて、私の体はもう限界だった。

 蒼汰の行為でできた傷は魔法で都度癒やしていたけど、筋肉痛やそれに類する痛みは治せなかったし、体力も使い果たしていた。それに加えて腰も抜けていて、まともに立つことすらおぼつかなかった。

 だけど、体はローションやら体液やらでべとべとの酷い有様で、どうしても帰る前にそれらを洗い流したかった。

 だから、私は蒼汰にお姫様だっこされて一緒にお風呂に入ることになったのだ。

 後ろ抱きにされて湯船に浸かること自体はもう慣れたけど、いつもより全然硬いし二重の意味で浴槽も狭い。

 さらに、感触を確かめるように遠慮なく触られるのもあまり気分の良いものではない。お尻にあたる段々と硬くなってくるモノも……

 そして、ついに蒼汰からこのまましたいだなんて要望が出た。

 ここじゃ潤滑させるものが無いからと断ろうとしたら、何故かボディーソープやシャンプーに混じって新しいローションボトルが置いているのを蒼汰が見つけて……父さんは無駄に配慮しすぎだと思う。

 後ろ抱きのまま両手で太ももを掴まれて足を広げさせられて――赤ちゃんがおしっこするような体勢で、体をひょいっと持ち上げられた。

 そのまま四回目となったのだった。


   ※ ※ ※


 先にお風呂から出た私は、普段使いの下着に着替えてベッドに入り、スマホに来ているメッセージをチェックする。

 一番新しいのは優奈のものだった。

 どうやら、優奈は翡翠と一緒に近くのファミレスで私のことを待ってくれているらしい。

 私のことを気遣うメッセージが2画面分くらい並んでいた。『決して一人にはならないでね?』とか『なにかあったら絶対にあたしのことを呼んでね?』とか、長い間音信不通にしてしまったことで、随分と不安にさせてしまったみたいだ。

 着信が入っていなかったのは、俺達のことを配慮してくれていたのだろう。

 メッセージを既読にすると直ぐ様『大丈夫?』って入って、『うん、私は平気。心配かけてごめん』と打ち返した。


 続いて翡翠からのメッセージを開いて見ると、そちらはより剣呑としていた。『アリスが蒼汰に酷いことをされていないか心配……』は最初の方で、『辛い目にあったら私が全部忘れさせてあげるね』とか『もし、蒼汰がアリスに酷いことをしてたら、私がどんな手段を使っても報復してあげるから』とか『誰かを殺したくなったら教えて下さい』とか……って、何で敬語!? 怖いよ!?

 振動もしないマナーモードにしてたから気づかなかったけど、着信も何回か来ていたようだ。

 そして、最後のメッセージは『後10分たっても連絡がなければ優奈と二人で様子を見に行きます』というものが五分前に入っていて……危ないところだった。

 とりあえず、『大丈夫だから心配しないで』と打ち込んでおいた。


 もし、もう一回とかいうことになってたら、最中に乱入されていたかもしれない。そうなっていたらどんな惨劇が起こっていたのか。下手したら包丁片手にとか……いや、流石に無いか。無い……よね?

 そんなことを考えてしまい一人背筋を冷やす思いをしていると、何も知らない蒼汰が手に持った二本のペットボトルのコーラのうち一本を差し出してくれていた。


「ほいっ、そこの冷蔵庫に冷えてたやつ」


「ん……ありがと」


 ……本当にいろいろ準備怠りないのな、この部屋。

 少し複雑な気持ちになりながら、受け取ろうと体を起こす。


「――っ!」


 と、筋肉が悲鳴をあげて、声にならない声が漏れた。


「大丈夫か?」


 蒼汰が心配そうに顔を覗き込んでくる。

 他人事みたいな顔をしているけど、全部お前のせいだからな。

 ……ちょっとムカつく。


「大丈夫だと思う? あれだけ好き放題されたのに」


 やや大げさに恨みがましくそう言うと、


「すまん……」


 とたんに蒼汰は顔色を変えて、申し訳なさそうに謝った。

 そんな姿を見たら少しは溜飲が下がったので、これ以上の意地悪はやめておいてあげよう。


「冗談、体は平気だよ――痛みはまだあるけどね」


 そう言って私はにへらっと笑って見せる。


「そ、そうか」


 心底ほっとした表情を見せる蒼汰。

 私は改めて礼を言ってコーラを受け取った。


 気がつけば随分と喉が乾いていたようで、キンキンに冷えた炭酸飲料が心地良い。

 体が良い感じにクールダウンされて、ようやくほっと一息ついた感じがした。


 蒼汰もベッドに体を投げ出すように腰を下ろす。

 上半身裸で下半身はトランクスだけという姿、かつては見慣れた蒼汰の体。

 それなのに、なんだか見慣れないものを見るようで落ち着かない。背中がでっかく思えて……いや、実際に今の私と比べたら大きいけれど。


「それにしても、優奈と翡翠にずいぶん心配かけたみたいだね」


「そ、そうか……」


 蒼汰は二人のことを完全に失念していたようで、困った顔になる。なんと言い訳しようか考えている顔だ。

 せいぜい良い言い訳を考えるがいいさ……フォローくらいはしてあげようかね。


「そう言えば俺にもメッセージが来てるようだな……」


 蒼汰は何気なくヘッドボードに手を伸ばし、ランプが明滅するスマホを手に取った。


「――ひぃっ!?」


 スマホを開いた瞬間、蒼汰から悲鳴があがった。

 そんな様子が気になって背中にくっついて覗き込むと、そこには翡翠のメッセージが表示されていた。

 興味本位で蒼汰のスマホの画面を指で弾いてみて後悔した。

 蒼汰に対する愚痴や憎まれ口が、段々と恨み言になり、終盤は呪詛と言ってもいいような文章が連なっていて、文字だけなのに禍々しさがあふれていた。

 ……不在着信が続いた後の『デンワデロ』マジ怖い。


 私に送られていたのをカレーの甘口とするなら、蒼汰に送られていたのは駅前にあるインド人経営のカレー屋の5辛ゴカラに相当すると言っていい激辛だ。

 ちなみに私は3辛サンカラですら空前絶後の辛さに挫けて残しそうになったものだ。私が幾人だったときは、辛いものは比較的得意だったというのに。


「そ、蒼汰は悪くないよ! ほら、私からして欲しいってお願いしたことだし……大丈夫だよ、そのへんは二人にちゃんと説明するから」


 と。必至にフォローして、ようやく蒼汰は正気に戻れたのだった。

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