第129話 決意

「……ふぅ」


 俺はトイレに腰を下ろして考えにふける。


「早く決めないといけないんだよな……」


 翡翠から聞いた話によると、生理というものは排卵日から約二週間くらいで来るそうだ。

 排卵日とは文字通り卵子が生まれる日のことで、卵子は産まれてから24時間くらいの間に精子と出会い受精すれば妊娠し、出会わなければ生理のときに体外に排出される仕組みとなっているとのことだ。

 俺の生理周期が一定していないのは、女性ホルモンだかなんだかの影響で排卵日がずれるのが原因らしい。

 つまり、生理周期が不安定な俺は、今日が排卵日で妊娠できる可能性も有り得るということだ。


「本当は今すぐにでも妊娠を試みた方がいいんだろうけど……」


 アリシアを救うために俺に与えられた妊娠の機会は限られている。


「去年まであれだけ無駄に出してきた精子を乞う日が来るなんて思いもしなかったぜ」


 体を前方に折り曲げて肘をつくと、用を足すために下ろしたショーツとナプキンが視界に入る。いつ生理が来ても大丈夫なようにつけている薄いやつだ。

 もちろんまだ生理は来ていない。


「妊娠かぁ……」


 人工授精を頼れない以上、誰かに種を貰う必要がある。

 種を貰うということは、つまりセックスするということだ。


「こんなことを誰に頼めるってんだよ……」


 異世界人とこの世界の人との間で子供が産まれることは実証されている。過去に俺と同じ方法で異世界に召喚された勇者が、あちらに残って貴族となり、子孫を残しているという話をアリシアから聞いたことがあるからだ。

 だから、相手は異世界人に限られるといったことはない。


 問題となるのは、知り合いに頼むのか、それとも見知らぬ他人に頼むのか、だ。


 心情的にはやっぱり知り合いの方が安心はできる。

 だけど、魂がアリシアにするとはいえ、相手を父親にしてしまうことを考えると気軽にお願いできることではない。


 それに、俺が求めるのは子作りのためのセックスだ。知人を誘うにしても、積極的に生で中出しを求められるのって普通に考えてありえないと思う。俺なら怖い。

 生理がまだ来てないことにしようにも、授業中の教室で初潮が来たことは学校では割りと知られている話だと思うし……


 そう考えると、知り合いに頼むにしても事情を話せる相手に限られるだろう。その条件に当てはまる男は、蒼汰、エイモック……それから、親父くらいか。


「蒼汰は……却下だな」


 心情的には一番頼みやすい相手で……多分頼み込めば蒼汰は嫌とは言わないと思う。

 だけど、こいつを父親にしてしまうことは問題だ。

 別に認知してもらうつもりも必要もないけれど、産まれてきたアリシアのことを蒼汰が他人として見られるかどうか……あいつはきっと責任を感じてしまうんじゃないかと思う。

 そのことが、将来蒼汰が女性と付き合ったり結婚したいと思ったときに、足枷となってしまう可能性は高い。

 俺の事情でそこまで迷惑を掛ける訳にはいかないだろう。

 それに、蒼汰は俺が男として付き合える唯一無二の親友だ。それが、セックスをしてしまって関係が変わってしまったらと考えると怖かった。


「次は父さん……か」


 父親にしてしまうことだけを考えるなら、一番支障が少ないのは父さんだろう。なにせすでに俺達の父親だから、アリシアの親になることに対する負担は少ないと思われる。

 世間にばれたら社会的に死ぬことになるけれど、子供の父親が誰かなんて俺が話さなければわからないだろうし、どうにでもなるはずだ。

 ただ、心情的には一番抵抗がある。

 なにせ俺にとっては実の親だ。体の遺伝子的には他人とはいえ、親とそういうことをするなんて想像もしたくもない。一緒にお風呂に入るのとは話が違う。

 それに、父さんには母さんがいる。

 浮気……になるかどうかはわからないけど、夫が家族とそういうことをして気分が良いはずもない。

 家庭に不和をもたらす原因になるくらいなら、他の誰かに頼んだ方がマシだ。


「エイモック……は良くわからないな」


 案外、お願いすれば面白がって協力してくれるかもしれない。倫理観が違うので父親になることで責任を感じさせることもないだろう。

 デメリットは、やつに大きな借りを作ってしまうことになるのと、アリシアの記憶が戻ってエイモックが遺伝子上の父親であると知ったときの反応が少し怖いくらいか……


「いっそ見知らぬ他人の方が良いのかもしれないな」


 そうすれば相手を父親にする心配なんてしなくていい。それに、名前も知らない相手なら、無責任に中出しをすることに対するハードルは下がるはずだ。それこそ、まだ生理が来てないことにしてもいい。


「問題は相手をどうやって探すかだけど……」


 探せばいくらでも俺とそういうことをしたい相手はいるだろう。だけど、具体的にどうしたらいいのだろう。


 真っ先に思いついたのは出会い系だった。

 詳しくはわからないけど、そういう相手を求める場所としては一番手っ取り早い方法だと思う。


 問題は警察に見つかったら確実に補導されるということ。

 そして、それが学校に知られたら俺は退学になるだろう。俺自身は育児で高校を続けられなくなるから構わないけど、同じ学校に行っている優奈に迷惑をかけることになる。さらに、もし近所にまで噂が広まれば、最悪家族全員で別のところに引っ越さなければいけなくなるかもしれない。

 それに、不特定の相手と関係すると、性病にかかる危険があると聞いたことがある。出会い系はそのリスクが高いイメージだ。


「……性病はやだなぁ」


 他に探すとすればSNSとか……?

 出会い系と違って発言で相手の人柄をある程度知ることができるので比較的安心できそうだ。優しそうなロリコンの変態を探して、エロ写メ付きのメッセージで誘ってみるとか?


「……なんか、そういうエロ漫画を最近読んだ気がする」


 見知らぬロリが中出しをお願いしてくるとか怪しいどころの話じゃないだろう。だけど、釣れるかどうかと言えば釣れるんだろうなぁ……だって、男だからね。


「知り合いならエイモック、そうでないならSNSで探すかのどちらかかな……」


 知り合いとするのは難しいけど、かと言って不特定の相手も嫌だ。ある程度身元がわかる他人がちょうどいいと思う。

 男に抱かれること自体は、もう医療行為とでも思って割り切るしかないだろう。


「おっきいお注射しましょうねーってやつかな……ふふっ、全く笑えないな」


 俺は自嘲気味につぶやくのだった。

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