第114話 闇の禁呪(中編)

「では、上を脱いで横になれ」


「……は?」


 何でもない事のように告げられたエイモックの言葉に、俺は思わずそんな言葉で聞き返す。


魂操作ソウル・マニピュレータは直接胸元に手を触れる必要があるだけだ。実際に使って体で憶えるのが手っ取り早いであろう?」


「わ、わかった……」


 一応理由に納得した俺は、制服の上に着ていたハーフコートから脱ぎ始める。

 丁度良い具合にベッドサイドの壁にハンガーがかかっていたので使わせて貰うことにした。

 靴を脱いでベッドにあがりハンガーを手に取る。制服のブレザーも脱いでハンガーに一緒に掛けた。


「じろじろ見るなよな……興味なんて無いんだろ?」


 先程からエイモックの無遠慮な視線を感じていた俺は文句を言った。

 ……女の子の着替えをガン見とか普通に失礼だと思う。


「我は我の好きなようにさせて貰う。別段その体に興味は無いが、貴様が恥じらう姿を見るのは一興だ」


「……くっ!」


 悪趣味の変態野郎がっ!


 と俺は心の中で罵る。

 教えて貰う立場である以上、奴に悪態をつく事はできない。心変わりをされたら元も子もないからだ。


 ……こうなったら、さっさと着替えて終わらせてしまおう。

 要は健康診断のようなものだと思えばいいのだ。


 俺はエイモックに背を向けてから、胸元にある制服のリボンを取り、カッターシャツのボタンを上から外していく。

 ボタンを外し終わるとカッターシャツを両腕から脱ぎ、キャミソールの紐を手に取って片方づつ肩から落とした。


「しかし、なんと色気の無い下着よ。そんな有様で色仕掛けを考えていたとは……正気か貴様」


 背中から何か聞こえてくるが、無視だ無視。

 ……でも、全く飾り気の無い白のハーフトップは油断しすぎだったかもしれない。今日は体育も無かったので、何も考えずに着心地が良い楽な下着を選んでしまっていた。


 そういうことをするなら、下着も当然見られるんだよな。

 ……そりゃそうか。


 覚悟を決めてここに来たつもりだったけど、本当のところ俺は何も理解わかっちゃいなかったんじゃないだろうか……?


 そんな事を考えながら、両腕を上げてハーフトップを脱いだ。

 これで上半身は裸となる。

 暖房が効いている部屋でもさすがに肌寒くて、俺はぶるっと体を震わせた。


「……ほぅ」


 胸こそ見られてはいないものの、背中にエイモックのいやらしい視線をひしひしと感じる。

 俺はさっき脱いだカッターシャツを手に取ると、そそくさと再び腕を通して羽織った。


「ふぅ……」


 ……肌を隠せて、ようやく少し落ち着いた。

 俺はエイモックに向きあう前に、脱いだ下着類を畳んでスクールバッグに片付けていく。


「……これでいいか?」


 準備ができた俺は振り返り、ニヤニヤと笑っているエイモックを睨みながら言った。

 今の俺の格好は、上半身にカッターシャツのみを羽織っていて、前ははだけないように手で押さえている。下は制服のスカートだ。


「全くもって色気が足らぬが、まあ、仕方あるまい……では、そこに横になれ」


 あんまりな言い方にイラっとしつつ、俺はエイモックの指示に従ってベッドに仰向けに横たわる。

 覆いかぶさってきたエイモックが視界に入ってきて、俺の頭の横に手を着いた。

 片手を伸ばした距離のところに奴の顔がある。

 壁ドンならぬ、ベッドドン……とでも言えばいいのだろうか?

 しかし、何が悲しくて野郎とこんなシチュエーションで見つめ合わなければならないのか。


「ああ、言い忘れていたが、魂に触れさせるというのは生殺与奪を我に委ねるという事だ」


 ――って、聞いてないよ!?


 そんな大事な事を忘れるなよ!

 こいつ、ワザとか! ワザとなのか!?


「我が気まぐれで魂を握り潰せばそれで貴様の生は終わる……それでも貴様は我に魂を委ねるというのか?」


「うっ……」


 即答できず、俺は一瞬息を飲む。


「……どうする? 我は止めても一向に構わぬぞ。真っ当な理性があれば、魂を他人に晒すなど、到底できる事では無いのだ」


 挑発的に言うエイモックを真正面に睨み返して、半分やけっぱちな気分で俺は言い放つ。


「上等だよ。男に二言は無ぇ……さぁ、やってくれ」


 大体、エイモックが俺に何かしようと思えば、機会なんていくらでもあった。こいつは性格は悪いが、騙し打ちのような卑怯な事はしない……と思う。

 そもそも、何かする気があったなら、こんな忠告なんてしなければ良いだけの話だ。


「……いい返事だ」


 エイモックが手を着いていない側である右手を掲げ、俺の胸元に押し当てて来る。


「……んっ」


 指がカッターシャツの中に侵入してきて、直接肌に触れる冷たい手の感触に俺は思わず体を震わせる。


「魔力の膜を開いて、我の魔力を受け入れよ」


 異世界の住人であれば無意識に体表に纏っている魔力の膜は、他者の魔力に抵抗する最後の砦でもある。

 精神に干渉する魔法を得意とするエイモックの前で、それを開放するのは、普通に考えればあり得ない行為だ。


「……わかった」


 だけど、今の俺はまな板の上の鯉である。

 素直にエイモックの言葉に従い、体を覆っている魔力の膜に意図的に穴を開けて待つ。


魂操作ソウル・マニピュレータ


 エイモックが詠唱すると、俺の肌に触れたエイモックの右手に闇の魔力が編み込まれていき、擬似的な手が作成されていく。

 エイモックはゆっくりと紡いで魔力の流れを見せてくれているようで、俺は必至にその行程を脳裏に焼き付ける。

 幸い魔力の消費も少なさそうで、闇魔法に適正の無いこの体でもなんとか使う事ができそうだ。

 腕から先の部分が作られた半透明の疑似手は、エイモックの手を包み込んでぼんやりと光っている。


「では、貴様の魂に触れるぞ」


「……おう」


 胸元のエイモックの疑似手が、音も立てずに俺の中に埋まっていく。


「っ……!?」


 埋まっていく部分が、まるで実際に押し広げられているかのような錯覚。俺の中に異物エイモックが入ってくるのが理解わかる。


「ぐっ……うぇ……」


 ……きもち、わるい。


 体の中を直接まさぐられているような。

 エイモックの指が体の中を掻き分けて進む都度、得体も知れない感覚がして悪寒がゾゾっと走る。


「気分はどうだ?」


「……最悪、だよ……くぅぅ……」


 なんとか弱音に聞こえないように返したものの、正直かなりキツい。


「くっ! ……あぅ……!?」


 エイモックが指を動かして俺の体を探る度に、体がビクビクと反応して跳ねてしまう。

 無意識に逃げ出そうと体を捩らせるけれど、俺の体に入りこんだ疑似手が、まるで杭にでもなっているかように身動きが取れなかった。


「ほう、本当に魂がふたつあるのだな……」


 どういう仕掛けになっているのかわからないが、体内の疑似手から、俺の魂の様子がわかるらしい。


 エイモックは好奇心のまま、遠慮なく俺の中を弄っているようだ。


 ……くそっ……少しは俺に気を遣えよな……!


 俺は耐えるのに精一杯で、抗議の言葉を出す余裕すら無い。


「貴様の魂はこれか?」


「ひゃぅ!?」


 エイモックの指が俺の魂に触れた瞬間、電撃が走ったように頭が真っ白になる。


「ふぁ……あ、あぁ……!!?」


 人差し指がつつーっと魂を撫であげてきて。

 ゾクゾクとしたナニかが込み上げてくる。


 ……この感覚はやばい。


 それは、まるで翡翠や優奈にされたときのようで――


「ほぅ……魂に触れられた者は、こんな反応をするのだな」


 エイモックはまるで実験動物を見るように俺の様子を観察していた。


「くっ……って、お前、魂に触るの初めてなのかよ……!」


「禁忌の魔法と言っただろう? 無闇に使う訳にはいかぬ。それに、魂を他人に触れさせるなどという馬鹿な真似をするような奴も今まで居なかったからな」


「……だ、大丈夫なんだろうな……やっ……あぁぁ!?」


 前置きなく、エイモックの手が俺の魂を手で包み込むように触れてきて。

 頭の中で火花がスパークしたかのような衝撃に、俺は意識が一瞬弾けて飛んだ。


「手荒く扱うと危険だろうな……だから、光栄に思うがいい。特別に優しく扱ってやる」


「な、ちょ!? ……ばっ……!」


 俺が止めるのも聞かず、エイモックは俺の魂に触れた五本の指を這わせるように動かした。


「やぁ!? あっ、ふっ……ああっ!」


 直接すぎる刺激に、俺はただされるがままに悲鳴をあげる事しかできなかった。

 優しく扱うといったエイモックの言葉は嘘じゃなくて、指が俺の魂を包み込んで蠢いて、その一挙一動に甘い感情が強制的に引き出されてこぼれ堕ちる。


「や、やめっ……! あ……くぅ……」


 俺の痴態をエイモックは相変わらずの冷静さで見下ろしていて、それがまるで侮蔑されているように思えて、俺は必死に流されないように抗って心の手綱を握り直す。


 くっ……こんなのに、負けるかよ……!


 ばたつかせた足がエイモックな当たって蹴っているが、体格に大きな差がある為、押し退けるどころかビクともしない。


「……わ、わかった! もう十分魔法の使い方は理解したから! だから……もう、やめ……んんっ!?」


 なんとか声を絞り出して懇願するが、エイモックは我関せずと魂を弄ぶのを止める事はなかった。


「んっ! ちゃ、マジでヤバ……や、やめぇ……!?」


 魂を優しく揉みしだかれる。

 狭い室内は、ひたすら俺の嬌声のみが響き渡っていて。

 無理矢理に溶かされるような甘い刺激で思考が混濁してくる。


「あっ! ふぁ、ああぁ……い、いやぁ……!?」


 体が弓の様に反って痙攣し、最大の波がやってきて。


「……んぁ、ああぁっ!?」


 視界が白濁して思考も真っ白に染め上げられる。

 体はガクガクと痙攣して張り詰めた後、弛緩する。

 じんわりと股間が暖かくなっていく感触がして、チロチロと漏れ出ているそれに気がついた。


「や、やぁぁ……」


 一度堰を切って溢れ出したそれは、俺の意思に反して止まらない。

 ショーツの股布からお尻にかけて濡れた感触が広がり、太股にも溢れ出した飛沫が散っていく。


「あ、ああ……ぁ……」


 俺は両手を眼前で組んでエイモックの視界から顔を隠して、ただひたすら、それが早く終わるように願った。

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