第98話 クリスマスパーティ

「本日は生徒会主催のクリスマスパーティに良く来てくれた!」


 壇上にはつい先日選出されたばかりの生徒会長の女生徒が立っている。このクリスマスパーティは毎年新旧生徒会の引き継ぎも兼ねていると聞いたことがある。


「勝ち組のカップルの諸君! 周りに羨ましがられながら楽しんでくれたまえ。……ああ、不純異性交友はほどほどに、くれぐれも人生計画を崩さないようにな」


 随分とざっくばらんな言い草の生徒会長だ。個人的にこういう雰囲気は嫌いじゃない。


「そして、独り身の諸君! このパーティで最後の足掻きをしてみるのも良し、友人達と楽しむのも良しだ。もし、一人で来ていても楽しめるように、生徒会ではいろいろ企画を考えてある。是非参加して私達と一緒に盛り上げてくれると嬉しい」


 最前列にいる集団から歓声があがった。ノリと調子が良い運動部を中心とした野郎共だ。


「とにかく、それぞれがこのパーティを楽しんで貰えたらと思っている。それでは、皆グラスを掲げてくれ……メリークリスマス!」


「「「メリークリスマース!!」」」


 ノンアルコールのシャンパンが入ったグラスが掲げられて打ち合わされた。パーティの開始を告げるかん高い音が体育館に鳴り響く。

 俺は近くにいるウィソ部のメンバー達で乾杯してから、グラスに口をつけた。ほんのりと甘い炭酸飲料が喉を潤していく。


 パーティは立食スタイルだった。

 中央に並んだテーブルにはクリスマスケーキの他に大盛りのオードブルにおにぎりやおかし、それからジュース等が用意されていて、生徒会メンバーや料理部等の有志がそれらを提供していた。


「やあやあアリス、ボクだよ。飲んでるかーい?」

 

 ご機嫌で絡んで来たのはクラスメイトの純。


「飲んでると言ってもノンアルコールでしょうに……」


 隣には同じくクラスメイトの文佳が呆れた顔でトレードマークのポニーテールを揺らしていた。


「それにしてもすごく本格的な衣装だねぇ……まるで、ゲームに出てくる司祭みたい、素敵!」


 この格好は俺が異世界で一年間見続けて来たアリシアの姿そのものだったから、アリシアを褒められるようで素直に嬉しい。


「ありがとう! ところで、純は仮装しないの?」


 純達は普段通りの制服だった。パーティのドレスコードは制服かドレス又は仮装という何でもありで、参加者の半数くらいは制服を着用していたので違和感は無い。


「んー、そういうのはボクの柄じゃないからさ!」


 メイド喫茶のときのメイド服は似合ってたし、そんな事は無いと思うんだけどなぁ……


「私は衣装を買うお金があるなら本を買うわ」


 文佳は相変わらず本の虫のようだ。


「ところで、優奈も随分本格的な巫女さんのコスプレだねぇ!」


 お揃いの巫女の格好で並んでいる優奈と翡翠を見て感嘆の声をあげる純。


「あたし達のはコスプレなんかじゃないよ!」


 腰に両手を当てて胸を張りながら優奈は言った。


「これは私の家の神社で使っている本物の巫女服よ。興味があるならあなた達も年末年始にうちで巫女のアルバイトをしてみない?」


 と翡翠が早速勧誘している。二人は年末年始は既に予定が入っているようでバイトは難しいとの返答だった。


「こんばんわ、如月さん。それすごく似合ってるね! 写真を撮らせてもらってもいいかな!?」


「あ、山崎くん。私でよければどうぞ」


 テンション高く声を掛けてきたのは制服に写真部の腕章をつけた山崎くんだった。

 彼は俺がアリスになってからの数少ない男子の友達だ。

 写真の被写体として頼まれて話するようになり、以前俺のことを好きと告白してくれたことがある。

 告白を断った後はどう接すれば良いのか不安だったが、向こうから今まで通りに話かけてくれたので以前と変わらず友達でいる事ができていた。


 ただ、友達と言っても俺が幾人だったときと同じような関係ではない。性別という壁は大きくて、蒼汰以外の男子とは以前のような気安い関係は望めなかった。

 山崎くんはいい奴で、もし俺が男のままだったらもっと仲良くなれたかもしれないと思うと少し寂しい気持ちになる。


「山崎。あなた、それってどうなのよ……」


「ちょっ、文佳いいから……!」


 山崎くんを何故だか白い目で見る文佳。そして、純はそんな文佳を慌てて止めようとしている。


「あ、いや、これは……生徒会の依頼で仮装した生徒を中心に撮影するように言われてて……」


 文佳に言われてしどろもどろになる山崎くん。同じクラスだけど、あまり教室では関わりの無さそうな三人の様子に意外に思っていると、文佳から出てきたのは、さらに思いもよらぬ言葉だった。


「だからって付き合い始めた彼女を放っておいて別の女の写真を撮るのに夢中っていうのはどうかと思うわ」


「だから文佳、ボクはいいってば!」


 純は顔を真っ赤にしている。


 え……? 付き合っているって山崎くんが? ……純と?


「そ、そのごめん海江田さん……」


 文佳に言われた山崎くんが慌てて純に謝罪する。


「き、気にしないでいいよ!? 写真に一生懸命なところは山崎くんのいいところだとボクは思ってるから! それに、その……ボクなんかよりアリスの方が全然かわいいし……」


「そんなことない! 僕は海江田さんが一番かわいいって思うよ! だから、その……」


 言っているうちに恥ずかしくなったのか、山崎くんの言葉は途中で途切れ、二人して向き合って顔を真っ赤にして固まってしまう。


「山崎くん、カメラ貸して」


 見かねた俺は山崎くんに声をかける。


「き、如月さん……?」


「二人で撮ってあげるから……よかったね」


 俺は軽く山崎くんの背中を叩いて祝福した。


「あ、うん……じゃあ……」


 山崎くんからカメラを受け取る。使い方は以前教えて貰っていた。

 ある程度離れてから、振り返りカメラを二人に向ける。


「何でそんなに離れてるの? 遠いわよ、もっと近づいて。手も繋いで……そうそう」


 と、文佳に指示されて近づいて手を取る二人。

 カメラの小さな液晶には遠慮がちに手を繋いで恥ずかしそうに微笑む二人が写っていた。


「はい、チーズ!」


 フラッシュが焚かれて二人の姿が記憶される。何度かシャッターを押して何枚か続けて撮る。俺のような素人でも枚数撮れば良い瞬間が撮れる可能性が上がると山崎くんに教えて貰っていた。


 写真を撮った後、山崎くんは俺に礼を言ってカメラを受け取る。純と二人で撮った写真を見てまた顔を赤くしていた。


 それから山崎くんはパーティの様子を撮影するからと移動する事になり、他の二人も別の生徒に話かけられて、自然と別れることになった。

 クラスメイトと二人別れてから、俺は優奈に問いかける。


「まさか、あの二人が付き合うなんてね……優奈は知ってた?」


 クラスメイト達と別れて少しして、俺は優奈に話しかける。


「ううん、あたしも初耳でびっくりしたよ。今度、経緯を詳しく――根掘り葉掘り聞かせてもらわないと」


「……そうだね」


 優奈に問い詰められるであろう純に同情する気持ちは無くはないが、幸せのお裾分けって事で諦めて貰おう。何より俺もどうして二人が付き合うようになったのか興味がある。


「しかし、見ているこっちが恥ずかしくなるほどの初々しさだったわね……」


 翡翠が俺に話しかけてくる。


「そうだねぇ……いいなぁ」


 純のあの大きいおっぱいを自由にできるなんて羨ましい……胸には男の浪漫が詰まっていると思う。


「ねぇ、アリス。この後なんだけど私の家で二次会とか如何かしら? 父さんは親戚の家に行っていて今晩は家に誰も居ないの。一人だと私ちょっと不安で……」


 俺の邪な考えを見抜いたのか、翡翠は俺の耳元でそんな言葉を囁く。


「……いや、俺は外出する予定無いから大丈夫だぞ?」


 隣で翡翠の囁きを聞いていた蒼汰が口を挟んでくる。


「……蒼汰は夜通しネカフェで遊ぶ用事があるって言ってたじゃない」


 翡翠の詰問するような冷たい声が、双子の兄である蒼汰にかけられた。蒼汰はそんな翡翠の様子にたじろぎながらも反論する。


「そんな予定知らねーよ。アリスと二次会するなら俺も一緒に参加させろよ? 今日の戦勝会をやろうぜ!」


「今日はイブなのよ? 私はアリスと二人で過ごしたいって言ってるの! 空気読みなさい、この唐変木!」


 ここまで言われて蒼汰はようやく翡翠がどういう意図で俺を誘っているのか理解したらしい。


「アリスと二人でって……お前らまさか……」


 妹と友人の関係を知って動揺する蒼汰。


「だったらどうだと言うの? 私とアリスの関係よ、あなたに口出しされる謂れは無いわ」


「そ、それはそうだが……」


「それに、涼花から聞いたわよ。あなた涼花からお誘いを受けて置いてちゃんと返事してないんでしょ? ちゃんと答えを出してあげなさいよね。あ、別に今日は家に帰ってこなくていいから」


「そ、それは……」


 痛いところを突かれて蒼汰は顔をそらす。

 その先には涼花がいて。


「ふえ……わ、わたくし、ですの? あわわ、翡翠さん……」


 と、突然自分の事に触れられて動揺していた。


 ……しかし、涼花のお誘いの話、もう翡翠に伝わっているのな。


「ごめん、翡翠。私は今晩アリシアと二人で過ごしたいから……」


 俺はそう言って翡翠に断りを入れる。


「……そう。それなら、仕方ないわね」


 翡翠は食い下がる事はなく素直に引き下がった。温泉旅行のときの一回だけという約束は今も有効のようだった。


「……俺もごめん。涼花のことは嫌いじゃない。だけど、もう少し待って貰えないか? 俺自身まだ答えを出せていないんだ。中途半端な気持ちで涼花と付き合うのは不誠実だと思うから……」


 蒼汰は改めて涼花に向き直ってそう言った。

 人生がかかっているので慎重になるのはわかるが、目の前のおっぱいに負けない蒼汰を正直尊敬する。


「わかりました。わたくし蒼汰さんが結論を出すのを待ちますわ……いつまでも」


 涼花は健気に微笑んで応えた。

 がんばった涼花に、俺は心の中でエールを贈る。その想いが報われる事を祈りながら……


 その後生徒会主催の仮装コンテストがあって、半強制的にエントリーさせられていた俺は舞台で一芸を披露することになった。

 俺はアリシアが良く歌っていた異世界の歌をアリシアと一緒に歌い、なんと大賞を得る事ができた。

 祝福の言葉にくすぐったい気持ちになりながらも、アリシアが認められたような気がして嬉しかった。

 他にも細々した催し物に参加したりして、パーティが終わるまで俺達の間に笑顔は絶えなかった。

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