第90話 聖夜の決戦(戦闘開始)

 俺達はステージを挟んでエイモックと相対する。


「俺達には得意の精神操作は効かないぜ?」


 俺は口調を幾人に戻してエイモックを挑発する。

 女口調も自然に出てくるようになったけど、戦いに際しては本能を剥き出しにする本来の俺の口調の方がしっくりくる。


「精神操作が闇魔法の本質とでも思ったか? 闇が司るは破壊の力、本当の闇魔法というものを見せてやろう」


 以前の俺は闇の祝福を受けていたが、神官が居なかった為に闇魔法の教授を受けていない。その為、闇魔法の知識は敵が使ってくる魔法を幾つか見知っているくらいだ。


『いずれにしても祝福の無いこの世界では、大規模な魔法は使えないはずです』


 アリシアが念話で俺と蒼汰に現状を伝える。ちなみに、エイモックとの念話は既に切ってある。


『魔法を牽制に使いつつ物理戦闘を行うのが基本になると思います。相手の手札が見えるまでは、やられない事を第一でいきましょう』


『『おう!』』


 俺は自分に身体能力向上インクリスフィジカル(小)を詠唱して臨戦態勢に入る。

 対峙するエイモックは先程同様に影を操作する魔法を使っているようで、足元の闇が隆起して鎌首をもたげたヘビのように俺達を威嚇していた。


「影の手数は厄介だな……まずは牽制するか」


 俺は魔法を詠唱する。一メートル程長さの氷の槍が五本、俺の周囲の空中に現れた。


「いくぞ、氷の槍アイスランス!」


 俺の言葉に応えて、エイモックに向けて一直線に槍が放たれた。


「ふん、そんなもの……!」


 エイモックが腕を真っ直ぐ前方に伸ばすと、エイモックの足元の闇が左右から多数伸びてきて、エイモックの前方をすくい上げるように半円を描き格子を作りあげた。

 俺の放った槍は全て闇の格子に当たり、弾かれて爆ぜる。


 視界が氷片で満たされたその一瞬、俺は大地を蹴って一気にエイモックとの間合いを詰める。そのままの勢いで、目の前に広がる闇の格子を長く持った世界樹の杖で大上段で斬りつけた。

 目の前の闇はバターを切り裂くようにあっさりと引き裂かれて、間近にエイモックの姿が迫る。


「もらったぁ!!」


 さらに一歩踏み込んで、横薙にエイモックに杖を叩きつける。

 打ちつける手応えがして、だが、俺の一撃はエイモックの腕に阻まれていた。

 ただ腕で防いだだけなら、腕の骨の一本も持っていけたのだろうが、エイモックの腕は暗い焔のようなものに包まれていて有効打にはなっていない。


「……我の影を引き裂くか」


「これは世界樹から作られた杖でね、光属性の加護がついてるのさ……その腕のは打ち消せなかったみたいだけどな」


「この闇の腕シャドウアームは我の暗黒格闘術が真髄、闇を纏う概念武装である。容易く消せるなどとは思わぬ事だ」


「これはまた、厨二病を拗らせたような武器だこと……っとぉ!」


 袈裟がけに一撃、さらに振り子のごとく返して一撃、常人の目には止まらない速度での連撃を加える。

 だが、その全てはエイモックの暗く燃える腕によって防がれていた。

 当たり前だが、俺と同様にエイモックも身体強化を使っているようだ。故に身体能力の優位性は無く、逆に体が小さい分劣っていると言っていいだろう。

 絶え間なく何度も打ち込んでいるが、いずれも完全に捌かれてしまっていた。


『イクトさん、踏み込みすぎです! 一度引いて態勢を立て直しましょう!』


 アリシアの言葉を受けて俺は一旦脚を止める。狭窄してた視野が戻り、視界の端に動く気配に気付く。


「……ちぃっ!」


 俺は後方に飛んだ。先程まで俺が居た場所を影の槍が連なって突き刺さる。

 少し遅れて来ていた影が方向転換して、空中でバランスを崩している俺に向かってくる。


「やばっ……!」


 杖で薙ぎ払おうにも空中では満足に振るえない。

 眼前に影が迫ってくる。


「させるかよぉぉ!」


 次の瞬間、視界に飛び込んで来たのは、木刀を手に突っ込んでくる蒼汰の姿だった。


 俺に殺到していた影の群れに身体ごとぶつかる蒼汰。横からの衝撃を受けて影の軌道が明後日の方向に逸れた。

 俺達はエイモックから少し距離を置いて背中合わせに立つ。


「さんきゅー蒼汰、助かった」


「馬鹿、一人で突っ込みすぎだ」


「……わりぃ」


 こうして、背中合わせに話している間にも、腕くらいの太さの影が四方八方から襲って来る。

 単体の脅威はそれほどでもないが、数が多く鬱陶しい事この上ない。

 俺達は念話で手短に意見を交換する。


『とはいえ、正直幾人とエイモックとの戦闘は目で追うだけで精一杯で、俺が混じっても逆に足を引っ張り兼ねないな……どうする? やつは相当つええぞ?』


『いろいろやって隙を付くしかないさ。人の魔力で強化できるのは身体能力くらいで、防御は普通の人と大差無いはずだ。だから、一撃でも当てられたら、それで決着がつく可能性も十分ある』


『……逆に言うと一撃食らったら、それが致命傷になりかねないってことか』


『やられる前にやるしかありませんね。使える補助魔法はいくつかありますから、それで何とかするしか無いでしょう。イクトさんはエイモックを、ソウタさんは影の警戒をお願いします』


『了解だ、お前らの背中は俺に任せろ』


『頼りにしてるぜ、蒼汰。アリシアも、サポートよろしく!』


 俺達は背中合わせを止めて、再びエイモックに向き直る。


 ……さあ、第二ラウンドだ。

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