第55話 文化祭二日目(メイド喫茶再び)

 日が変わり学園祭の2日目が始まる。まずは昨日と同じくクラスのメイド喫茶の手伝いが2時間ある。女子の更衣スペースとなっているカーテンで隔離された教室の一角で、俺はパンチラ対策をどうするか思案していた。

 俺の手には昨日履いたアンダースコートがある。昨日の今日では他に案も思いつかず、とりあえず持ってきたものだ。体操着のショートパンツを履こうにも、ミニスカの裾からがっつり見えてしまうのはどうにも不格好すぎる。


「アリス、どうしたの? それ、昨日チラチラしてたかわいいのだよね」


 純が興味津々といった風に話しかけてきた。俺はなんだか恥ずかしくなって、手に持ったアンスコを胸元に握りこんで隠しながら応える。


「ええと……今日もこれ履こうかどうか迷ってて……」


 うーん、でもやっぱりパンツそのものを見られるよりは、アンスコの方がダメージ少ないかな、やっぱり……。

 うう、スカートの長さが膝丈まである純が羨ましい。


「そうだ、アリスの為にボク良いものを持って来たんだ!」


 純はナップサックからビニール袋に入った物を取り出して俺に手渡してくれた。

 受けとったビニール袋の中身を確認すると、濃い紺色の下着のような物が入っていた。


「……これって?」


「中学のとき陸上部で使ってたブルマだよ。ボクにはもう小さくて履けなくなっちゃったから、あげるね」


 ……同級生女子の使用したブルマ。下着に近い形状の物だけになんだかいいのかな、という気持ちになってしまう。勿論、洗濯はしてはあるのだろうけど。


「これならミニスカの下に着れるしパンツには見えないと思うけど、どうかな? ……ボクのお古で嫌だったらごめん!」


 俺は一瞬湧いたよこしまな思いを誤魔化すように、大きく首を振った。


「ううん、全然嫌じゃない! ありがとう、純」


 俺は早速受け取ったブルマを履いてみた。ぴっちりとした履き心地で、アンスコよりもしっかりとした作りはとても心強く思える。


「ど、どうかな?」


 俺はミニスカートの裾を少し持ち上げブルマを晒した状態で、純に感想を聞いてみる。


「う、うん、凄くいい……じゃなくて、これならパンツには見えないから大丈夫だと思うよ?」


「そっか。じゃあこれでいくね! ありがとう、純!」


「どういたしましてだよ」


   ※ ※ ※


 メイド喫茶2日目は、相変わらず忙しかった。だけど、純の用意してくれたブルマのおかげてスカートの裾を気にせずに存分に動きまわって接客することが出来た。

 相変わらず視線は感じるけど、見られちゃダメな部分はブルマでガードされているから問題無し!


「あ、蒼汰!」


 新しくお店に入ってきたお客さんごしゅじんさまを見て、俺は思わず素の声をあげてしまう。

 入ってきたのは、居心地が悪そうに手で首の後ろを押さえている蒼汰だった。


「よ、よう……」


「おかえりなさいませ、ご主人様! ……珍しいね、蒼汰がこんなところに来るなんて」


「他の二人がお前や優奈を見てみたいって聞かなくてな……」


 蒼汰の後ろには父親の光博おじさんと妹の翡翠がいて、「こんにちは、アリスちゃん」「……こんにちわ」と、それぞれ挨拶してくれた。


「翡翠こんにちは……光博おじさんもご無沙汰しております。後で優奈にも挨拶させますね」


 俺は席に案内しながら俺は二人に挨拶を返す。


「それにしても賑わってるな。結構並んだぞ」


「ほんと、朝からお客さんがひっきりなしで大変だよ……」


「きっとあなたの魅力のおかげね……蒼汰なんて、待ってる間じーっとあなたのスカートの裾を見てたのよ、いやらしい」


「ちょ、ちょっと待て! 俺は危なっかしいと思って見ていただけで、やましい気持ちはないからな!? それにブルマだったから!」


「……ええと、蒼汰。……その、私がブルマ履いてるの知ってるんだね」


 俺は片手でスカートの裾を抑えながら、もう一方の手で口元を隠し困った顔でそう言ってみる。

 別段ブルマを見られてもどうということは無いのだけれど、つい蒼汰をからかってみたくなったのだ。


「ち、違う……見えてしまっただけで、見ようとした訳じゃ……!」


 俺の演技は効果覿面のようで、蒼汰の狼狽っぷりは見ていて気の毒になる程だった。

 妹である翡翠が蒼汰を見る視線は氷点下を割って絶対零度に届きそうだ……少しやり過ぎたかもしれない。


「スカート捲れたら目がいっちゃうのは男のサガだもんね。私は気にしてないから大丈夫だよ」


 と、フォローしておいた。だけど、蒼汰は微妙そうな表情のままで、あまり効果は無かったようだった。……何故だろう?


「そうだ、アリスちゃん。今度の正月にうちの神社でお姉さんと一緒に巫女のバイトをしてみませんか?」


 話の流れを変えようとしたのか、光博おじさんがそんな話を持ちかけて来た。

 毎年光博おじさんの家の神社では、年末年始に何人か巫女のバイトを雇っている。娘の翡翠だけでは巫女の人手が到底足りないからだ。女性限定だったので、これまではバイトしていたのは優奈くらいだった。と言っても今まで優奈は中学生だったので、日中の短い時間に翡翠と一緒にお手伝いしていたくらいだったが。


「ええと、私黒髪じゃないんですが、いいんでしょうか?」


「全然大丈夫です。最近はそこまで厳密にしていると人が来ませんから」


 うーん巫女のバイトかぁ……正直ちょっと心を惹かれるものはある。光博おじさんの助けにもなるし、やってみたいかも。

 だけど、とりあえず優奈と相談してからかな。


「それじゃあ、お姉ちゃんと相談して返事しますね」


「前向きに検討していただけると助かります……すみません、忙しい中引き止めてしまって」


「いえいえ、大丈夫ですから!」


 元より給金の発生するアルバイトではない、学生のお祭りなのだ。友人知人が来店した際には他の人がフォローするのが暗黙の了解となっている。また、昨日の反省もあり、急遽スタッフの人数も増員されている。

 とはいえ、あんまり油を売りすぎるのも良くはない。本来の役割をこなすとしよう。


「それではご主人様方、ドリンクの注文お伺いしてもよろしいですか?」

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