第41話 夜

 プールの後の着替えは大きな問題もなく終わった。

 人が多いうちに上さえ着替えておいて、後はスカートを履いてしまえば、その後は視線が気になることもなかった。

 優奈のタオルは濡れてしまったので、俺のタオルを渡して自分はトイレの個室で魔法を使って乾かした。


 午後の授業はプールの疲れがもろに出て、ほとんど寝て過ごした。放課後になっても疲れは抜けず、俺は同好会を休む旨のメッセージを同好会のグループに送ってまっすぐ家に帰った。


 自分の部屋に戻ると、俺は制服を脱いでハンガーに掛けて、下着姿のままでベッドに潜り込んだ。正直、寝間着を着るのすら億劫だった。

 軽い頭痛に倦怠感、そして睡魔が襲ってきて、俺は抗うことなく身を任せる。


   ※ ※ ※


 ……夢を見た。


 夢の中の俺はイクトのままで、アリシアが転校してくるところからそれは始まる。

 教室に入って来たアリシアは、イクトの姿を見つけるやいなや抱きついて喜びを表す。そんなハプニングにクラス全体が騒然とする。

 その後、自己紹介をするアリシア。話の途中でアリシアはイクトを見て顔を赤らめたり微笑んだりで、その度にクラスが盛り上がりをみせる。

 そんなアリシアに翡翠が突っかかり、蒼汰がからかい、何故か同じクラスの優奈が苦笑したりして、とても賑やかな……あり得たかもしれない光景がそこにはあった。


   ※ ※ ※


 ……寝起きは最悪だった。


 体のだるさは相変わらずで、何故かは知らないが心が酷く波立っていた。理解できない感情が込み上げてきて心が付いてこない。

 俺は体を起こす。周囲はもう暗くなっていて、今が何時なのかわからない。俺は手探りで枕元のスマホを手に取り画面を表示させる。


「もう、12時回ってるや……」


 画面には時間の他に優奈からのメッセージが通知されていた。


『なんだか、しんどそうだったから起こさないでおくね。お腹空いたならご飯は冷蔵庫に入ってるから食べて。おやすみ』


 2時間くらい前にそんな内容のメッセージが入っていた。俺は『ありがと、おやすみ』とだけ返事を打っておいた。


 食事を意識したからか、お腹が音をたてて鳴る。

 食欲はあるようだ。


『……お腹空きましたねぇ』


 アリシアの声が頭の中に聞こえてきた。

 のんびりとした口調はいつものアリシアで、何だか少し安心した。


『ご飯食べようか』


 俺は寝間着を着てから、音を立てないように気をつけつつ一階のリビングに降りる。リビングは既に照明が落とされていて、俺は最小限の電気だけ点けた。

 冷蔵庫の中に用意されていたのはご飯と豚シャブで、さっぱりとしていて美味しく食べられた。


『何だか体が重いけど、風邪でも引いたかな?』


 食器を洗いながら俺は脳内でアリシアに話しかける。


『そうかもしれませんね、今朝くらいからなんだか調子が良くないですし』


『やっぱり、アリシアも体はしんどく感じてるの?』


『そうですね……イクトさんと同じふうに感じてるはずです。まあ、私は意識同調を切れば、これを感じなくすることはできますけれど』


『そんなことできたんだ』


 ……なんかずるい。


『同調を切ってしまうと五感全部が感じられなくなってしまいますので、あまり切ることはありませんけどね』


『そっか……』


 気持ち悪いのだけ切るとか、そんな都合良くはいかないらしい。


『まあ、こんな日はお風呂に入って、さっさと寝てしまうに限るな』


 台所で追い焚きのスイッチを操作してお湯の温度を上げる。

 その後、俺は一旦部屋に戻り、着替えを用意してから浴室に向かった。


 その違和感に気付いたのは、お風呂で体を洗っているときのことだった。


 ……いつもよりも肌が敏感になっている気がする。


 泡立たせた石鹸をつけた手で自分の体に触れると、くすぐったくてむずむずした気持ちになる。我慢して洗い進めるけれど、俺よりもくすぐったく感じるアリシアは堪えるのが大変なようだ。


『ん……ふぁ……』


 悩ましい吐息混じりの声が頭の中に聞こえてきて、何とも言えないもやもやが込み上げてくる。

 そのもやもやをなるべく意識しないように、いつもより手早く体を洗い終えたら、髪を纏めてタオルでくるんで湯船に入り、浴槽に体を預ける。


 心地の良い暖かさが体を包み込んで染み入ってくる。

 それで、ようやく落ち着いた気分になれて、俺は安堵の溜息をついた。


 しばらくまったりと湯船を堪能してから、俺はふとした疑問をアリシアに投げかけてみる。


『ねえ、アリシア……今日の俺ってなんだか変じゃないかな?』


『体の調子は悪いですね……』


 うんざりしたように言うアリシア。お風呂に入って少しはましになっているが体調は相変わらず良くは無い。


『そうじゃなくて、感情の面で。なんだか不安定っていうか、振れ幅が大きくて制御できてないような、そんな気がする。アリシアから見てどうだった?』


『言われてみればそう思わなくも無いですけれど……その、いろいろありましたし仕方ないのでは……?』


 昼間の事を思い浮かべたのだろう。話しづらそうにしながら、アリシアはそう言った。

 俺は昼間の痴態を思い出していたたまれない気持ちになり、俺は水面に顔を埋もらせる。


『た、体調がよくないと気持ちは落ち込みやすくなりますし! 仕方ないですよ!』


 アリシアのフォローが優しくて辛い。

 なにせアリシアには何もかもばれているのだ。

 ……俺が粗相そそうをしてしまった時、背徳感と開放感の中で少しだけいけない気持ちになってしまい、僅かに体が反応しちゃっていたこととかも。

 俺はその事実にいまさら気がついて、恥ずかしさで頭が赤く染まるのを感じた。


 お風呂からあがった後、俺は歯磨きやら洗顔やら寝る前の準備を終えて部屋に戻った。


 こんな日はさっさと寝るに限る。

 俺はまっすぐベッドに入ると電気を消して目を閉じた。


 だが、お風呂で長湯したからか、体が熱っぽく眠りにつくことが出来ない。

 それに、目を閉じると刺激的だった昼間のあれやこれやの光景が頭の中をぐるぐるしてしまう。

 脳裏によぎる女子のはだけた制服に下着。それから、純の胸の感触……


 ……眠れない。


 いろいろ思い出しているうちにすっかり体が反応して火照ってしまっていた。

 このままではまずいと思い、なんとか別のことを考えて体の熱を冷まそうとするが、寝返りをうった際に服越しに固くなっている胸の先端部が腕に擦れて、そこから伝わる甘い刺激に体が反応してしまう。


「んっ……!」


 お腹の下あたりに熱がこもってうごめいていて、お風呂上がりに穿き替えたばかりのショーツの股布の部分がわずかに湿り気を帯びてきている。

 俺は無意識に太ももを擦り合わせて刺激を求めるように動かしていた。


『ひゃ……!?』


 脳内に響くアリシアの声に俺は冷水を浴びせられたかのように我に返る。

 俺はアリシアの体でなんてことを――


『イクトさん……その……』


 俺の体の状況は当然アリシアにも筒抜けな訳で、言い繕うことは難しそうだった。


『ご、ごめん……俺……』


『あ、その……謝らなくて大丈夫です。その、こちらこそごめんなさい』


『……どうしてアリシアが謝るの?』


『わたしがずっと一緒だったから……その、イクトさんはずっとそういうこと出来なかったんですよね。わたし今まで気がつかなくて……』


『そ、それは……』


『だ、大丈夫です! 今日から夜の間は精神同調を切るようにしますから……その間は遠慮なくイクトさんの好きなようにしていただいて構いませんので!』


『好きなようにって言うけど、アリシアは、その……どんなことをするのか知ってて言ってるの?』


『それくらい知ってます! ……わ、わたしだって成人した女性なんですから、我慢出来ないときに自分で慰めることくらいします』


『そ、そうなんだ……』


 う……やばい。その告白は反則だ。

 つまりは、俺との旅の間もしてたということか、そうなのか。


『と、とにかく、そういうことなので遠慮せずなさって下さい! わたしだって、こんなもやもやしたままでいるのは嫌ですから』


『わ、わかった……』


 何故か押し切られるようにして、俺はアリシアの体で自慰行為をする事になった。


『……だけど、ひとつだけお願いしたいことがあるんですがいいですか?』


   ※ ※ ※


 俺は、電気をつけて部屋の鍵を閉める。

 それから、ティッシュと替えのショーツを枕元に準備して、姿見をベッドの脇に移動してベッドの上が映るように設置した。

 準備を終えたら、ベッドに腰を下ろす。


 姿見に映ったのは、これから起こることに期待して頬を上気させている少女の姿だった。

 外見の幼さと裏腹に全身から発せられる発情した雌の雰囲気はアンバランスで、正直とてもエロい。

 すでにその体の奥は深い熱を帯びていて、まだ触っても居ないのに下着がしっとりと濡れてしまっているのがわかる。


『イクトさん、わたしの我侭わがままを聞いてくれてありがとうございます』


 アリシアのお願いごと。それは、『最初の一回だけでいいのでわたしの体を見て、わたしのことだけを考えながらして貰えませんか?』というものだった。

 『純さんのように胸が無いですし、文佳さんのようにスタイルもよくありませんけど……』と申し訳なさそうに言うアリシアだったが、俺にとっては願ったり叶ったりの申し出だ。

 鏡にアリシアの姿を映しながら俺はアリシアの体を弄れるのだ。鏡に映るのが自分と思うとちょっとどうかと思うところもあるが、そのくらいで男子高校生の性欲は止まらない。


『……それじゃあ、精神同調を切りますね。イクトさんおやすみなさい』


『おやすみ、アリシア』


 俺は姿見に向かって挨拶をした。

 そしてアリシアの声が聞こえなくなる。


『……アリシア?』


 返事は無い。

 俺は、もう我慢できなかった。

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