第32話 Wizard's Soil turn 02

 ゲームが終わって橋本さんと俺が固まっている中、蒼汰は黙々とデッキのシャッフルをしていた。


「橋本さんってウィソ始めてどれくらいになるんですか?」


 すっかりしょんぼりとしてしまった橋本さんに俺は話しかける。


「……半年くらいですわ」


「蒼汰! なんで初心者をコントロールデッキでふるぼっこしてんのさ!?」


 コントロールデッキは相手のやりたいことを妨害することに特化したデッキで、一般的に初心者相手に使うのは推奨されていない。

 やりたいことをひたすら妨害された初心者はフラストレーションが溜まり、そのゲーム自体をつまらなく思ってしまうからだ。


「涼花にウィソ強くなりたいってお願いされたから、強くなれるように真剣に相手しているだけなんだが……」


「だからって、初心者にそんな本気ガチデッキ使うのはあり得ないでしょ……ちゃんと段階を踏んで経験させないと強くなる前に折れちゃうよ?」


「俺、コントロールしか使いたくないし……」


 そうだった。こいつは根っからのコントロール馬鹿だった。


「ちゃんと手加減もしているぞ。レアは3枚、アンコモンは9枚、残りはコモンという縛りでデッキを作っているからな」


「なんで、そんなに中途半端な縛りなんだよ」


「これ以上縛ると勝てるデッキに仕上がりそうになかったからな」


「いや、縛れよ。なんで、練習用のデッキで相手に完勝しようと思ってるんだよ!?」


「勝てないデッキはデッキじゃないというか……」


 だめだ、こいつデッキ構築の才能はあっても、人にものを教える才能は皆無だ。


「そんなことより、アリスはそこそこやれるんだろ? 俺と一戦やろうぜ」


「悪いけど、私はデッキを持ってきていないから戦えないよ」


「そうか……」


 少し残念そうにする蒼汰。


「あの……良かったらわたくしのデッキを貸しましょうか?」


 そんな蒼汰の様子を見て、橋本さんがそう申し出てくれた。

 久しぶりにウィソをやっているのを見て自分もプレイしてみたいと思っていたので正直ありがたい。


「それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます。デッキ見せて貰っても構いませんか?」


「はい、こちらですわ」


 彼女から、デッキを受け取る。

 扇状にカードの束をバラけさせて親指でカードを送りながら入っているカードを確認する。

 彼女のデッキは緑と赤の生物クリーチャー主体のデッキで、森に生息する地上生物と山に住む飛行龍種でほとんどが占められている素直な構成だ。

 ……正直、蒼汰とのデッキ相性は厳しそうだ。


「別にデッキを組み直して頂いても構いませんわよ、カードはこちらにございます」


 そう言って彼女が手渡してくれたのは二冊のバインダーで、それぞれ赤と緑のカードが整理されて収まっていた。


「これは……すごいですね」


「執事が用意してくれましたの」


 こともなげに出てくる執事、俺はその優秀さに舌を巻く。バインダーには全てのカードがコンプリートされていて、一枚数千円するであろうカードも当然のように4枚づつ揃っていた。4枚なのはデッキに入れられる同名のカードの上限が4枚だったからだ。

 ともあれ、現役を離れていたここ2年くらいで出たカードは知らない効果ばかりで、俺は一枚一枚胸を踊らせながらカードテキストを確認し、入れ換える候補に目星をつけていく。


 一通りカードを見終わった後で、俺はデッキをテーブルにカードの種類と詠唱コスト毎に並べて、橋本さんに意図を説明しながらカードを入れ替えていく。

 結果いろんなカードを試してみたくなって、最終的にデッキの三分の一くらい入れ替えてしまった。

 その後、デッキのカードを保護する為のスリーブを二人で入れ替える。彼女が使っているのは、ド派手な真紅の薔薇スリーブだった。……特注だったりしないよな。


「おまたせー」


 俺達のデッキの情報がネタバレしないように一人でデッキを回していた蒼汰に、完成したデッキを持って話しかける。

 そのまま俺は蒼汰とテーブルに向き合って座り、デッキのシャッフルを開始する。

 だが、手が小さくなっていてなかなか上手くいかず、カードを何度もぼろぼろとこぼしてしまう。


「……本当に大丈夫なのか? ここまで期待させといてがっかりさせんなよ?」


 蒼汰が2つのダイスを取り出して振る。先手後手決めのダイスロールだ。

 出た数字は7。


「久し振りだったから、シャッフルの感覚が思い出せていないだけだよ。ご期待には添えると思うよ」


 ダイスをつまんで軽く転がす。出た数字は11。


「先手は私が貰うね」


 悪戦苦闘しながらシャッフルを終えたデッキを、俺はテーブルの中央に差し出すと、蒼汰も同じように彼のデッキを差し出して中央に置く。

 その後お互いのデッキを手にとって軽くシャッフルして返し、自分のデッキからカードを7枚引く。


 ――決闘デュエルスタートだ!


 さあ、約二年ぶりのウィソだ。

 俺は手札に来たカードを確認してゲーム開始を宣言する。


「私のターン、『飛びかかる豹』を召喚してターン終了」


「ほう、速攻デッキにしてきたのか……ターンエンドだ」


 蒼汰は俺がデッキを調整した意図を正確に読み取る。

 ウィソはターンが経過するにつれて使えるマナが増えてコストの重いカードを使えるようになる。

 コントロールデッキは序盤を凌いで後半にコストの重い強力なカードをプレイして勝つデッキだ。ならば、こちらは相手が手札を有効に使えない序盤に速攻を仕掛けて相手のライフを削り切るのが常道だ。


「『飛びかかる豹』で攻撃! 2点与えてライフ18。『筋肉熊』を召喚してターン終了


「ドローしてターンエンド」


 蒼汰は淡々とマナの源である土壌ソイルを伸ばして行く。


「クリーチャー2体で攻撃!」


「『正義の勅令』をプレイ、対戦相手は攻撃クリーチャー1体を選んで生贄にする」


「私は『飛びかかる豹』を生贄にするよ。2点入って蒼汰のライフ16点だね。戦闘後、追加の『筋肉熊』を召喚して終了」


「ドローしてターンエンド」


「『筋肉熊』2体で攻撃。4点入って残り12点。『飢えた狼』を召喚……何も無いなら終了」


 ……ふむ、何も動かなかった? ということは返しにアレが来るのか?


「俺のターンだな、『聖戦ジハード』をプレイ。場に出ているクリーチャーは全て破壊される」


 うわ、こいつレアカードの全体除去呪文を入れてやがる。

 初心者を相手するデッキにそんなもの突っ込むなよ……ドヤ顔なのがなんかムカつくし。

 ……しかし、カード1枚で3枚の生物を除去されたのは痛いな。

 だが、まあ想定内ではある。蒼汰は聖戦ジハードをプレイするためマナを使いきっている、次のターンの妨害は無い。


「5マナを払って『旋風のワイバーン』をプレイするよ。速攻持ちのワイバーンは出たターンにアタック出来る!」


「……残りライフは9だ。俺のターン、『聖戦ジハード』をプレイしてエンド」


 2枚目かよっ!?

 だけど、ワイバーン単体に対して隙の大きい全体除去を使ってくるのは本意では無いはずだ。

 続けて攻めよう。


「私のターン、『筋肉熊』と『飢えた狼』を召喚するよ」


「俺のターン、『聖戦ジハード』をプレイ」


「って、入ってるレア3枚全部『聖戦ジハード』かよっ!? どんだけだよ!?」


「……負け惜しみか?」


 ちげーよ。

 さすがの本気ガチ構築っぷりに俺はドン引きだ。ずっとこんなデッキを相手にしなければいけなかった橋本さん可哀想すぎる。なんとかしてこのコントロール馬鹿の鼻っ柱を折りたい。

 だが、今のでこちらの手札は1枚になってしまった。対する相手は3枚と状況はかなり厳しい。だけど、追加で引かれていなければ今のでクリーチャー除去カードが尽きた可能性は高い。ここから追加で叩き込むことが出来れば……


「『刃のワイバーン』を召喚」


「『存在の否定』で打ち消しだ」


 マナに余裕が出てきて『聖戦ジハード』をプレイた後でも打ち消し呪文カウンターを構えられていた。うーん……まずいな。


「俺のターン、ドローしてターンエンドだ」


 ドローゴー、自分のターンに動かず相手のターンに動くコントロールデッキの典型的なプレイスタイルはそのように呼ばれる事がある。


「私のターンドロー……ターン終了」


 引いたカードは単体では使い所の無いカードで、いよいよ攻め手が止まってしまう。


「俺のターン、ドローしてターンエンドだ」


 一見均衡しているように見える。だが、こちらのデッキのカードは軽く効果の低いカードばかりで、蒼汰のデッキは重いカードを使っていく構成になっている。このままではジリ貧になるのは確実だった。


「私のターン、ドロー……これは!」


 引き当てたのは橋本さんの魂のカード『真紅のヴァーミリオン古代竜エンシェントドラゴンアルゲランテ』。コストが重いから抜こうかとも思ったのだけど、抜こうとしたときの橋本さんの何とも言えない表情を見てそのままにしたカードだった。

 丁度マナを使いきってプレイすることは出来る。だが、マナを温存して構えている相手にプレイして通るかどうかは怪しい。

 けれど、どちらにしてもこのままではジリ貧なので、プレイしない選択肢は無い。

 覚悟を決めよう、俺はこのカードと心中することにした。


「『アルゲランテ』をプレイ……通るか!?」


『……幾人さん口上忘れてますよ』


「……通すぜ」


 何とか通ったか。けれど、除去される可能性はあるし最悪はさっきみたいに――


「俺のターン、『隷属魔法』をプレイ。『アルゲランテ』のコントロールを貰う」


 ――コントロールを奪われる。


「どうやら、このゲーム貰ったみたいだな。ターンエンドだ」


「……まだ、勝負は終わっちゃいないよ」


 俺はデッキを右手の甲で軽くノックする。

 ……特に意味は無い、ただの願掛けである。

 俺はそのまま指をまっすぐ伸ばしてデッキのトップに置き、勢い良くカードをドローする。


 ……引いたカードは脳内でイメージした通りのカードで。

 俺は計算にミスが無いか改めて場を確認する。場には蒼汰が奪った『アルゲランテ』のみ。蒼汰のマナは『隷属魔法』で消耗しており、打ち消し呪文は構えられていない。ライフは9。


「『惑乱の言葉』をプレイするよ」


「そのカードは……!」


 『惑乱の言葉』は対戦相手のコントロールするクリーチャー1体のコントロールを1ターンだけ得る。

 永続的にコントロールを得る『隷属魔法』と違い一時的にしかコントロールを奪えないが、その代わりにコントロールを奪ったクリーチャーはそのターンに攻撃可能となる。


「『アルゲランテ』でアタック!」


「くっ……残りライフ3だ……ターンエンドか?」


「いいや、ゲームエンドだ。俺は『稲妻の槍』をプレイ。好きな対象に3点のダメージを与える。対象は蒼汰プレイヤーだ!」


 そして、蒼汰のライフは0となりゲームは俺の勝利で終わった。

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