第30話 スイートトーク

 居酒屋から出てきた俺達は駅前の商店街に向かう。

 少し歩いたところで友人二人からさっきのことについての追求を受けることになった。


「……で、さっきのかっこいい男の人は誰なのかな?」


「う……」


 やっぱり突っ込まれるよな。

 ……どうしよう、上手くごまかせないだろうか。

 さっきはどうせ面識なんて無いからと思って強く否定しなかったのが仇になった。

 でも、男友達ってだけで蒼汰に繋がる訳じゃないから大丈夫かな。


「ピンと来ちゃった! 今のがアリスの気になっている人なんでしょ?」


 思った側からバレてるー!?


「そ、そんなコトないよ……?」


「嘘ね」


 文佳がばっさりと切り捨てる。


「な、なんで……?」


「なんでってさっきの光景みたら誰だってそう思うわよ」


「名前を呼んでって言ったときのアリスのちょっと拗ねたような上目遣いの表情、あれは反則だったね! 可愛すぎでしょ!」


 幼馴染の蒼汰にぞんざいに扱われたのが嫌でムッとしたのは事実だけど、なんでそうなる。


「彼に子供に見られてると知ったときのもどかしげな表情も良かったわね。自分をちゃんと見てもらいたいっていう気持ちがひしひしと伝わってきたわ……」


 だから、なんでそうなるんだ。あの時は自分が男だったときの身長を懐かしんでいただけなのに。


 なんとかこの流れを変えられないか……そうだ!


「そ、そういえば、蒼汰は優奈の幼馴染になるんだよ!」


「そうなの!? まさか、姉妹と彼との間で禁断の三角関係が……」


「ないない、蒼兄とは確かに幼馴染だけど、そんな関係ありえないよ……それに、あたしはアリスのこと応援してるしね!」


 キャーっとまた盛り上がる二人。優奈のだめ押しで決定的になった状況に俺は茫然とする。優奈は二人に蒼汰のことを話しながら、俺を横目で見て念話で告げる。


『あたしをダシにしようだなんて百年早いよ』


 かくして、友人達の中でアリスは蒼汰に一途な想いを寄せる健気な少女ということになったようだ。

 ……クラスの男に迫られたときに断る、いい口実が出来たと思うようにしておこう。


 その後は、アリシアと約束したスイーツ巡りである。ただ、俺以外の3人にとっては、その行程にウィンドウショッピングは当然の如く含まれているようだった。

 以前の俺ならげんなりしてただろうけど、最近は俺も自分を着飾ることに慣れてきて、どう組み合わせたらかわいいかとか考えながら服を見るのは、苦にならなくなってきていた。アリシアと相談しながら部屋を飾る小物を買ったりするのも楽しかった。

 そして、スイーツのお店。アリシアが図書室に置いてあったタウン誌で調べたベルギーワッフルのお店に決めてある。


「……良い雰囲気のお店ね」


 文佳は店に入ると明らかにほっとした様子だった。……それほど、居酒屋がトラウマになってたのだろうか?


 みんなでメニューを見てワイワイしながら注文を選ぶ。

 それから、さっきみた服や小物の事を話しているうちに甘い匂いを伴って注文の品がやって来た。


『はぅ……甘いです……暖かいワッフルにたっぷりと甘いメイプルシロッブやチョコレート。イチゴや冷たいアイスクリームも楽しめてまるで甘味の宝石箱みたいです……』


 アリシアもご満悦で何よりだ。俺も美味しくいただいている。ご飯はあんなに入らないのにデザートならたらふく食べられるこの体はどうなっているのかと思わなくもないが、別腹というやつなのだろう。


「今日は来てよかったわ。アリスのこと色々知ることが出来たし」


 上品にナイフとフォークでワッフルを口に運びながら文佳。


「意外性の塊だよね、アリスってば」


 ワッフルを大雑把に切って頬張るようにして食べる純。


「……そうかなぁ? 私って変?」


「外国に居たからかしらね? 随分と感性が違っているところがあって楽しいわ。最初はお嬢様なのかなって思ってたんだけど全然違ってた。借りた本も面白かったし、意外な店を知ってるし、乙女な一面もあるし、一日だけでいろんな発見が出来てとても興味深いわ。これからも仲良くしたいわね」


「こちらこそ、よろしくお願いするよ」


「それに優奈とも一緒に遊ぶことが出来て良かったわ」


「……ふぇ、あたし?」


「入学してからしばらく優奈って、なんだか他人を拒絶するような雰囲気があって、誰とも親しくしようとしなかったじゃない?」


「あはは……そうだっけ……?」


文佳の言う優奈は俺の知る彼女のイメージと一致しない。俺の知る優奈は今も昔も人なつっこいお調子者だったはずだ。


「6月に髪を黒く染め直してからは、険が取れたように明るくなってびっくりしたわ。面倒見もよくなって、まるで別人かと思ったわよ」


 6月と言えば俺が異世界から帰ってきたときだ。俺が行方不明になっていたときの優奈は他人を拒絶してた……のか?


「6月にこの娘がうちに来てあたしはお姉ちゃんになったからさ。しっかりしないとって思ったんだ」


「優奈と仲良くしたいってずっと思ってたけど、優奈ってば、放課後は誰の誘いも断って、真っ直ぐ家に帰っちゃうし……」


「優奈、毎日私に勉強教えてくれてたから……」


俺が転入試験の勉強を始めたからだ。優奈は俺に勉強を教える為にまっすぐ家に帰って来てくれていた。


「あたしがやりたくてしたことよ……アリスが気にすることはないわ」


「優奈って本当に良いお姉ちゃんなんだね!」


「私の自慢のお姉ちゃんだからね」


 優奈は無言でワッフルを口に運んでいる。

 どうやら照れているらしい。


「じゃあ、アリスが学校に来るようになった今は、優奈とも一緒に遊べるようになるのかな?」


「そうだね、これからはみんなとも遊べるようになると思うよ。改めてよろしくね、ふたりとも」


「こちらこそ、よろしくお願いするわ」


「よろしく~!」


『わたしも、よろしくお願いします。皆さんとお話することはないとは思いますけれど……』


 聞こえてくるアリシアの声は少しだけ寂しそうに響いて、


「わたしも、よろしくお願いします」


 だから、二人分の気持ちを込めて、挨拶だけでも伝わったらって思ったんだ。

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