第10話 一日の終わりに

「ところで、お兄ちゃん。魔法の中にテレパシーみたいなのは無いの?」


 不意に優奈が俺にそんなことを聞いてきた。


「ん? あるよ」


 基本魔法に念話は存在している。

 今俺がアリシアと脳内で会話しているのも念話の応用魔法である。


「それじゃあ、その魔法でアリシアさんとお話することって出来ないかな?」


「そりゃ、それが出来たら便利そうだけど……」


『ダメです。今のわたしは体も魔力も動かすことが出来ませんから』


「無理みたいだ。今のアリシアは魔法を使うことは出来ないみたいなんだ」


「……お兄ちゃんが魔法を使って、アリシアさんとのテレパシーを私に中継することは出来ない?」


『どうだろう、アリシア?』


『確かに……その方法なら出来るかもしれません』


「……ちょっと、やってみる」


 念話の術式をちょっといじって送り先を追加した。

 それから、念話の相手を個別に指定できるようにすれば……


『あ~、聞こえますか~』


「おお!? 頭の中に声が聞こえてきた! お兄ちゃんと一緒の声だけど、この可愛さはアリシアさんね!」


『そんな、可愛いだなんて……』


『頭の中で話すようにすれば念話で会話もできるよ』


『あーてすてす……あら、これは便利ね』


「俺が念話を起動してるときに限るけどね。このくらいの魔法なら大した負担はないから、常時起動しておくのも大丈夫だね」


『ユウナさんのお蔭でお話出来るようになりました! 嬉しいです!』


『あたしもアリシアさんとお話出来て嬉しい!』


「俺がラインを切り替えれば任意の相手と一対一で話すことも出来るよ。ラインは一本しか作れないから誰かと個別に念話しているときに他の人と話したりは出来ないけど、全員の間でラインを作る事は出来るよ」


「二人で話しているときにお兄ちゃんに話の内容って筒抜けにならないの?」


「内容は解らないようにしといたよ。俺に聞かれたくない相談事とかもあるだろうし」


「お兄ちゃんを信じるよ……? 盗み聞きなんてしようものならお兄ちゃんの事を心底軽蔑するから」


「おうよ、信じてくれ」


「それじゃあ、しばらくアリシアさんとお話してもいい?」


「わかったよ」


 それから、しばらく二人で話しているようだった。


「お兄ちゃん、わたしとアリシアさんとママの3人にライン切り替えて貰える?」


「出来るけど、俺は仲間外れかよ……」


「お兄ちゃんの体のことで確認しておかないといけないことがあるの。だから、お願い」


「わかったよ」


『イクトさん、ごめんなさい』


「いいってば、俺はアニメの続きでもみてるから」


「……さみしいなら、あたしが後ろから抱き締めてあげようか?」


 それはお前がただアリシアを抱きしめたいだけだろう。


「要らんわ」


 そういって俺はDVDのリモコンを手に取った。

 ……さて、寝落ちしたのは何話だったか。


   ※ ※ ※


 しばらくして話は終わり、俺は歯磨きをして、二階の自室に引き揚げた。

 まだ、日も変わっていないくらいの時間だが、異世界では日が暮れたらアリシアと交互に休む生活習慣が身についていたので既に大分眠い。

 俺は電気を点けるのも億劫で、そのままベッドにダイブする。


 うつ伏せの状態のまま、慌ただしかった今日一日を振り返る。


 魔王との決戦が相討ちに終わって異世界から帰還したと思ったら、俺はアリシアの体になってて、なんとか自宅に帰ってきて家族と再会。それから、お風呂でアリシアの裸を見て……


「どう考えても、イベント盛りすぎだろ……」


 改めて今日起こった出来事の多さに嘆息する。どっと疲労が襲ってきた。


「ふぁ……さすがに疲れた」


 俺がやってきた眠気に任せて瞼を閉じようとしたとき、頭の中に声がした。


『イクトさん、今日はお疲れ様でした』


 今日一日ですっかり馴染んだアリシアの声だ。


「ん、アリシア……」


『眠いのにごめんなさい。どうしても、今日のうちにお礼を言っておきたくて……ありがとうございました』


「ぜんぜん大丈夫。アリシアもお疲れ様……どうだった、俺の家族は。賑やかだったろう?」


『はい、とても暖かくて素敵な人達でした。皆さん親切で……イクトさんの事をとても大切に思ってるのがわかりました』


 アリシアは子供の頃から親元から離されて、巫女として育てられてきた。だから、わたしは本物家族というのが良くわからないんです、と笑いながら言っていたことを思い出した。


「……母さんも言ってたけど、アリシアはもう俺の家族みたいなものなんだからな。ほら、なんてったって、アリシアと俺は死ぬまで一緒なんだし……だから、なんでも遠慮なく頼って欲しい。みんなアリシアの事を大切に思ってるんだ」


『……そうですね。皆さんがわたしの事を受け入れてくれたこと、すごく嬉しかったです……絶対に忘れません』


 アリシアは使命を終えて、何もかも失って日本に来た。だから、俺の家族が彼女の居場所になれたらと思うんだ。


「……それじゃあ、そろそろ寝るよ」


『イクトさん、おやすみなさい』


「……ああ、おやすみ……アリシア」


 そう言い残して瞼をとじる。

 明日になれば海外勤めの父さんが帰ってくるはずだ。

 その前にみんなで買い物にも行くみたいだし、明日も忙しくなりそうだった。

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