第83話 300歩の距離で

昨日、電車乗ったりバス乗ったり歩いたりしたので、今日は倒れると思っていた。

が、朝起きてみたら、思いのほか動けた。

調子に乗ったので、投薬しつつ、ウォークマンなしで外出してみた。


行先は、近所のコンビニ。

わずか300歩の距離にある。

これは往路で外界の音から意識を遠ざけるため、1歩ずつ数えながら歩いたら、ちょうど300歩だったという次第。

昨日14km歩いたことに比べたら、なんと短い距離だろう。


それでも。

往路は、何とかなった。

復路で、タイミングの悪いことに、救急車のサイレンの音が聞こえてきた。

とたん、条件反射にも等しく、とっさにしゃがみ込んで耳を塞いだ。


救急車が通り過ぎても、しばらくは動けなかった。

買ったアイスカフェラテは、気が付いたときには放り出されたあとで、道端にこぼれていた。


這う這うの体で自宅に帰ってきてから、膝を抱えて数時間過ごした。

夕方、相方から電話がかかってくるまで、ずっと。

震えていたかも知れない、よく覚えていない。

すくなくとも、しょんぼりとしていた。


今日は折角朝から動けたから、良い1日にしようと思っていた。

だが、昼間にそんなことがあったために、ダメな1日になりそうだった。


相方は電話で、「どんな日にするかはキミ自身で決めることだよ(意訳)」と言った。

俺は、ダメな1日にはしたくないと思った。


電話を切ってから、再び外出した。

勿論、ウォークマンを聴きながら、別のコンビニへ。

無事に、往復できた。


少しだけ、元気になった。

再び外出できたことで、とはいえ2,3分の距離だが、今日はダメな1日にはならずに済みそうだ。

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