槙原先生のお節介が凄過ぎて僕の恋がヤバい!

山下ひろかず

第1話 彼氏宣告

「おめでとう。八嶋君はこの子の彼氏になりました」

…………………………

 放課後の部室で、僕は突然の彼氏宣告を受けたのだった。



「拍手~」

 パチパチと先生の拍手の音が部室に響く。

 そうか、僕にもついに彼女ができたのか。

 思えば今まで16年、灰色の人生だった。

 幼い頃から人と話すことが苦手で、同性の友達さえまともにできなかった。

 ましてや彼女なんか夢のまた夢だと思っていた。


 でも、そんな日々とは今日でお別れだ。

 これからはこの子と楽しいバラ色の学生生活を………って、


 !!!


 そもそも僕に女の子の知り合いなんかいないんですけど!

 落ち着け、どうしてこんなことになったんだ?

 僕は混乱する中、今日のことを振り返った。


 今日は新学期初日、

 始業式後のホームルームが終わると、去年に続き僕のクラスの担任になった槙原美樹まきはらみき先生に声をかけられた。

 僕が所属する生物部に入部希望者が来たらしい。

 ちなみに生物部の部員は僕1人だけで、去年の入学初日、これまた顧問である槙原先生に無理矢理入部させられた。


 部室に待たせてあるからとりあえず会って欲しいと連れて来られた部室には女の子が一人いて、

 そして先程の彼氏宣告、

 めでたく僕は名前も知らない女の子の彼氏になりました。

 ……いやいや待て待て、


「あの、槙原先生?すみませんがもう一回言ってもらえますか?」

 何かの間違いかと思った僕は先生に聞き直した。

「だから、あなた八嶋誠やしままこと君はこの子、渡辺結依わたなべゆいさんの彼氏になりました。OK?」

 槙原先生は左手をポンと隣にいる女の子の肩に置く。

 どうやら聞き間違いではなく、僕はこの子の彼氏になったようだ。


 身長は平均より少し低く痩せ気味、

 髪は短めで肩にかからないくらい、

 気が弱く大人しそうな顔つきをしていて小動物のような、か弱い雰囲気をまとっている。

 状況だけを見れば、密かに恋心を抱いている内気な女子が友達の力を借りて告白にこぎつけた感じだ。

 だが、一つ引っ掛かるのが、


「…………………………」

 結依と呼ばれた女の子の表情だ。

 普通なら告白の返事にドキドキしているような期待と不安が入り混じった表情をするはずなんだけど、

 何と言うか驚きのあまり固まっているように見える。

 何かおかしい。


「OK?じゃないですよ!話省き過ぎです!ちゃんと説明してください!この子誰なんですか?渡辺なんて子僕知らないですよ!」

 僕は何一つ話が見えない状況に槙原先生に待ったをかけた。


「え~っ?面倒臭いから嫌だ」

「嫌だじゃないです!説明してもらわないと返事のしようがないですよ」

「も~分かったわようるさいわねぇ。一回しか言わないからちゃんと聞きなさいよ。まずこの子の名前は渡辺結依、この学校の新入生で私の従姉妹ね」

「ああ、先生の親戚なんですか」


「で、今から誠君の彼女になります。良い子だから仲良くしてあげてね」

「いや何の説明にもなってないですよ!何で?何で僕とこの子が付き合うことになるんですか?この子僕のこと好きなんですか?」

「違うわよ。あたし、結依にあんたの事話したことないし」


「は!!?ということは彼女も僕のこと知らないんですか?」

 道理であんな顔になるわけだ。

 何の前触れもなく突然、初対面の先輩と付き合えって言われてるんだからな。


「まあ、そんなことはどうでも良いとして……」

「良くないです!!先生何考えてるんですか!?会ったこともない男女が付き合うとかおかしいですよ!!」

「うるさい!いいからあたしの質問に答えなさい!あんたはこの子と付き合えるの?付き合えないの?」


「……え?」

 話の矛先が自分に向けられ、僕の反論が止まる。

 そして僕は失礼だと分かりながら品定めするように女の子、渡辺さんをジッと見た。

 パッと見た感じ、素直で良い子そうに見える。

 顔もちょっと地味めだが可愛い部類に入ると思うし、守ってあげたい、大事にしたいと思わせる女の子だ。


「……付き合えますね。普通に……って違いますよ!僕が良くても彼女の方がダメでしょうが!本人の気持ち無視して付き合わせるとか可哀想でしょ!」

「じゃあ聞いてみる?結依、あんたこの人の彼女になりなさい。できる?」


 先生の言葉を聞いて、渡辺さんは怯えた目で僕を見た。

 その後助けを求めるように一度先生を見たが先生は何も言わず、代わりに何か目で合図をした。

 何を意味するのか僕には分からなかったが、彼女には意味が伝わったようで、顔から次第に不安の色が消えていき、

 コクリと小さく頷いた。

 ……嘘だろ?


「二人の了解がとれたので、二人は恋人になりました。おめでと~」

 そう言って先生が祝福するが、実感が全く湧かない。

 一応恋人になる意思表示はしたものの、本人達に好意や恋愛感情が一切ないからだ。

 形だけの恋人、恋人ごっこも良いところだ。


「じゃあ恋人になった証として最後はキスしてもらいましょう」

「はああああっ!!!?」

 どこまでも非常識な先生の発言に僕は叫んだ。


「先生、もういい加減にしてください!キ、キスだなんて、流石にこれは悪ふざけじゃ済まされないですよ!」

「あんた達恋人同士でしょ?恋人だったらいつかするんだから遡って今しても問題ないでしょ?」


「凄い理屈だ!その理屈が通ったら大概の無茶が許されちゃいますよ!」

「あ~もう、あんたは黙ってなさい。いいからさっさとキスしなさい。キスするまで今日は帰さないからね」

「ええ~っ……」

 ダメだこの人、会話にならない。

 黙れと言われたらもうどうすることもできないじゃないか……

 大人しくキスするしかないのか?

 百歩譲って僕は良いとしても渡辺さんが……

 流石に好きでもない人とのキスは酷過ぎる。

 どうしたらいいんだ……

 八方塞がりの状況に僕が頭を抱える中、この空気を破ったのは、


「あの~……」

 他でもない渡辺さんだった。

 そう言えば今初めて喋ったんじゃないか?

「先輩……帰れないと……困りますよね?」

「そうだなぁ……困るなぁ……」

「そう……ですよね……」

 困り果てた僕を見た渡辺さんは少し考えた後、


「……分かりました」

「……え?」

 ゆっくり僕に歩みより、


 チュッ


っ!!!!!?

 僕の肩に手を置いて背伸びし、目を閉じて僕の唇に自分の唇を重ねた。


 時間が止まった気がした。

 重ねていた時間はほんの数秒だったと思う。

 でも、僕にとっては5分にも10分にも感じる程長かった。

 唇が触れているだけなのに、そこから何かが体の中に流れ込んでくるような感覚がして、ふわふわした気持ちになった僕は何も考えられなくなってしまった。


「……ふぅ」

 唇を離した渡辺さんは一つ息を吐くと先生を見た。

「結依偉い!良くできました。じゃあ今日はここまで。次の予定を決めたらまた呼び出すから、じゃあ結依、帰るよ」

 槙原先生は渡辺さんの手を引いて部室を出ていった。


 ………………………

 僕は先程のキスの衝撃でしばらく部室で惚けていた。

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