自由のための死

@kitagayumu

第1話

そのビジネススーツは俺のサイズにあっていなかった。だが俺はこれしか持っていなかった。窮屈な気分のまま面接室に入った。窮屈さは卑屈になりつつあった。

面接官はこの会社に何十年と勤めているって顔をしたジジイが数人だった。なぜか奴らは俺を睨んでいた。俺は作った笑顔のままで筋肉が痛んだ。

奴らは俺に質問してきた。一番右の白髪のハゲが言う。「じゃあまず当社の志望動機を教えてください」そんなもんねえよ、と心で思った。頭で考えても何も思いつかなかった。俺はこの面接に来たことを後悔した。俺は「そんなものありません。義務感で来ました」と言おうかと思ったが、自信のない俺がそれを引き止めた。とはいえその自信のない俺も何を言えばいいか分かってないようだった。だが本心は本当に動機なんて義務感でしかなかった。

俺が黙っていると面接官が「早く言ってください」と急かしてきた。俺は奴らを撃ち殺したくなった。ビジネスバッグに入った拳銃で奴らの胸肉に銃弾をブチ込んでやりたいと思った。だがあいにくビジネスバッグに拳銃は入っていない。

面接官は言った。「もういいです。お帰りください」俺は立ち上がり、何も言わずにそそくさと外に出た。外に出た瞬間スーツのジャケットを脱ぎ捨て、白シャツも脱いでそこらへんの茂みに放り込んだ。スーツパンツも脱ぎたかったがそれはさすがにカッコ悪くてできなかった。俺はTシャツとスーツパンツで電車に乗って帰った。気分はここに来る時よりもすこぶる爽快だった。

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