第202話
バチェラーパーティーも無事終わり、本日とうとうふたりの結婚式。だというのに双弥は朝から走り回っていた。
「ど、どうしよう双弥! 僕は緊張しっぱなしだよ!」
「お前が緊張してどうすんだ。座って飯でも食ってりゃいいんだよ」
「お兄さん、私変じゃないよね? ……ちゃんと歌えるかなぁ」
「エイカは大丈夫、いつも通りかわいいから」
面倒そうに言う双弥に対し、かわいいと言われたことでエイカはにやけだした。そんなちょっといい雰囲気が出そうになるとき颯爽と現れるリリヘイヘ。
「双弥様、私もちゃんと歌えるか不安です」
「リリパールは問題ない、いつもとちってるじゃん」
リリパールはとても恨めしそうな目を双弥へ向ける。だがこれは自業自得だ。明らかにタイミングが悪い。今の双弥はそんなことに構っていられないのだから。
「双弥、引き出物がないぞ」
「それはゴスロリシスターズに任せてあるって言っただろ! なんで俺ばかり忙しいんだよ!」
あちこちから引っ張りだこだ。モテモテである。
「そりゃお前が仕切ってるからだろ」
「他に仕切るやつがいなかったからだろ! 少しは助けようと思ってくれ!」
みんなは双弥に押し付けるのが好きなのだ。楽だしチョロいし文句言いつつちゃんとやるし。そしてみんな自分で仕切るのが嫌なのである。
あとはいつも文句を言いつつ手を貸してくれる鷲峰は本日の主役だ。雑用なんてやらせられるわけがない。
そのうえたちの悪いことに、エイカは忙しく働いている双弥が大好きなのだ。特に戦っているときの双弥なんか見ているだけで幸せになれる危ない子なのだ。
「私も手伝うよ」
「エイカは友人代表なんだから座って待ってて。それに折角のドレスなんだから大人しくしてないと」
「そんなこと言ったらお兄さんだって友人代表だよ」
「……誰も代わってくれないからな」
「なんだよ双弥、水臭いなぁ。友人代表だったら喜んで代わるさ」
「ちげえよ式場の仕切りの話だ!」
そもそもこの世界で双弥ほど鷲峰の友人代表に相応しい人間はいないのだ。ジャーヴィスは代わってなにがしたかったのだろうか。
「よー双弥、来たぜー」
「待ってたジーク!」
ジークフリート、ハリー、王がやって来た。3人は別に向こうの大陸へ帰っていたわけではなく、宿に泊まっていたため少し遅れたようだ。
「おれっちになんか用あったのか?」
「俺の代わりに仕切りやってくれ」
「またおれっちに頼るのか? そろそろ自分でなんとかするようにしてくれよ」
双弥、ブチ切れそうになるのを必死で堪える。今日はめでたい日なのだ。
「俺はちょっと友人代表で色々しないといけないんだ。段取りが悪くて済まない」
「しょうがねえな。んじゃ貸しといてやるか」
ちなみにジークは双弥に30倍は借りがあるのだが、全て踏み倒している。双弥もそれに倣い踏み倒す予定だ。
「──ふぅ、ようやく解放された」
「お疲れ様。それじゃ早速行こうか」
「別にいいよ」
「そんなこと言わないで。行こっ。ねっ」
「うー……まあいいか」
エイカはワクテカしながら双弥と控室へ向かう。友人代表の特権だ。
ウエディングドレスを着て化粧をし、今日最も美しい親友をいち早く見られる。そして自分もこうなるのかと妄想に浸るのだ。
対して男はドライである。タキシードを来た友人を見たところでうっとりなんてしない。とっとと終わらせて2次会行きたいなと考える程度だ。
ちなみにキルミットの結婚式だと2次会はない。この後屋根なしの馬車でガラガラ音を立て町を走るのが一般的だからだ。しかし今回はアイドルであるチャーチが乗るため、ある程度の安全を考え
「……綺麗……」
花嫁衣裳を纏ったチャーチストを目にしたエイカの素直な感想がこれだ。感想というよりも、自然と口からこぼれてしまったと言ってもいい。
それに気付いたチャーチストは頬を赤くする。
「……かなり恥ずい」
「大丈夫、気にしないで」
キルミティドレスは伸縮のよい生地で本人よりも少し小さめに作るのが特徴だ。そのため体のラインは裸並みにくっきりする。腰から下は広がっているため足の太さなどは隠せるが、上は線が出てしまうため下着すら着用できない。
「……なんでこんなドレスなの」
「えっ? えっと……」
「それは『私はなにも隠していません』ということを見せるためです」
友人代表でもないのに権力を使いりりっぽんがのこのこやって来る。というのはさておき、今回の着付けはリリパールのメイドたちが行い、最後の確認のため来たのだ。
「なにもってことは……暗器とか?」
「いえもっと精神的なものなのですが」
エイカが徐々に脳筋化してきているのではないかと危惧する。普通の女の子は暗器とか言わない。
そもそも魔法があるのだから素手であれば安全ということはない。しかも今回は政略結婚ではなく純恋愛結婚だ。この場でなにかすることはない。
「それより、アンダーバストはもっと絞ったほうがよさそうですね」
「……それだとくっきり」
「胸の形はしっかり見えるほうがいいんです。さあ」
キルミティドレスは背中の編み紐で調節し、そこをケープのようなもので隠す。リリパール監修のもと、メイドたちが微調整を始める。
「これで完成です。少し動いてください」
動くことでより体に馴染ませ、更に体のラインがはっきりするようになる。とても恥ずかしい。
「キルミティドレスって着るの大変なんだね」
「ええ。結婚式を専門で商売している方もいるくらいですから」
結婚式は週末しか行えないが、首都ともなれば最低10組は来る。とはいえここへ専門家を呼び出すことも時間的に無理だし、だからといって新幹線へ乗せるわけにもいかない。彼らは一般市民だ。
ならばその技能を持つリリパールのメイドたちがこうして着付けをし、友人代表でもないリリパールがこの場にいてもなんら不思議はない。
とはいえキルミティドレスを押し通したのはリリパールとかいうどこぞの姫であることを忘れてはならない。
「でもさリリパール様」
「どうしましたか?」
「これ、お兄さんに見せちゃ駄目なやつじゃない?」
「あ……」
CKBというか、ポッチというか、外国人なら気にしないどころかむしろ見せているような部分がくっきりと出ている。
こんなものが見えていたら双弥は大興奮し、その様子に鷲峰がガチ切れしてその場は血の結婚式となってしまう。
「こうなったら少し大きめのブーケを持たせて隠れるようにする?」
「助かる」
チャーチストもそれに同意した。そもそも体型にあまり自信のない彼女としては、体のラインを隠せるものならなんでもいい。むしろ着ぐるみでもいいとすら思っているだろう。
「それはない」
「えっ、急にどうしたの?」
「エイカ今、私に自前のヘンテコパジャマ15点セットのどれかを着させようと考えてた」
「考えてないよ!」
「でも持ってる」
「も、持ってないよ!」
顔を真っ赤にして否定するエイカだが、チャーチストには全て見えてしまうため、にやりと笑われる。エイカは今、持っている表情をしていた。
こうして着付けが終わり、エイカたちはこの場から出ていった。
あとはチャーチストが出番を待つだけだ。
聖剣の勇者たち ※俺だけ妖刀 狐付き @kitsunetsuki
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