第193話
「うおああぁぁ!」
双弥は斬りかかった。まるで恐怖を払拭するかのように。
破壊神から得た、半ば神へと作り替えられた体から繰り出す攻撃は文字通り神速である。だがそれを連続で行っても創造神へ一撃も届かない。
「おぉん? その程度か? その程度でワシに盾突いておったのか?」
「くっそおおぉぉ!」
どんどん加速させていくが、剛剣にて全て弾かれる。そして恐らく速度の限界であろう状態で加速が止まる。それでも双弥の腕は止まらない。
実は徐々に速度を遅らせており、一定の速度であると相手へ錯覚を起こさせている。相手の感覚がその遅さに慣れてきたであろう状態になったところで、一気に最速を放つ。
「……くっ」
「ふはははは、気付かぬとでも思ったか?」
双弥の刀は創造神に掴まれていた。斬れもしないし動きもしない。
やはり強い。それも圧倒的に。まるで破壊神と戦っているときと一緒ではないか。勝てる可能性が全くない。
「み……ミナカたぁん!」
双弥は助けを呼んだ。すると周囲は急に色褪せ、一切の動きが止まる。
『だから気安くチュウを呼ぶでない』
若干面倒そうな顔で天之御中主神は双弥を見ていた。
「ミナカた──」
『おお、そうであった! お前から言われたようにやってみたのだがな、これがまたえらく評判がよくて!』
「そ、それはよかったです」
『レイがな、「ミナカがいると管理が楽になるから有り難い」と言ってくれたんだ! 最初こんなんでいいのかと思っていたのだが、いざやってみると──』
「あの、その話は後にして頂けないでしょうか。創造神ポカンとしていますよ」
神である創造神は当然、この『神の時間』の中でも動ける。そして今の話の内容はよくわかっておらず、とりあえず見た目幼女が目を輝かせて興奮気味になにかを話していることだけしか理解できなかった。
『忘れておったわ。貴様がこの世界の駄神か』
「きさ……い、いえ。あなたは純神ですか。しかしいくら純神とはいえ、他世界へ干渉することは許されぬことではないのでしょうか?」
『案ずるな。チュウは戦わん』
創造神はほっと胸を撫で下ろす。いくら自分の世界とはいえ、所詮は人間上がりの神である創造神が、異世界の神だが純神の天之御中主神に勝てるはずがない。
「で、では何故このような場所に?」
『こいつこれでもチュウの世界の人間なんでな。そんであまりにも力差があってつまらんから手を貸しに来た』
「そそそそんなぁ」
『貴様も一方的になぶるより楽しかろ?』
青褪める創造神を見て天之御中主神がにやりと笑う。世界が違うとはいえ純神の天之御中主神に逆らえるだけの神位は創造神にない。
『ではいくぞ』
「いくってどこに……うごぉっ」
天之御中主神は双弥の背後へ回ると、左手を双弥の背中へ突っ込み、腰椎をしっかり握る。
『途中で手が抜けるのもなんだし掴んでおくぞ。多少痛いだろうがまあ耐えろ』
「激痛だよ! ……おぶぉっ!?」
そして双弥の全身を天之御中主神が満たしていく。まるで一体となったように。
「やっば……力が溢れ……破裂しそう」
『しっかり放出せい。その辺りのコントロールは任せるぞ』
「お、おう」
急に言われてもそんなのどうしろというのか。戸惑いながらも双弥は刀を構える。
「さて第2ラウンドだ」
「くっ、くぬぬぬぬ……」
双弥は創造神へ向かい斬りかかる。背中から幼女を生やした状態という非常にシュールな光景だが、創造神はひるまず剣を構え迎え撃つ。
「やっべ、速っ! 目が追い付かないっ」
『もっと感覚に頼れ。そして力を抜きチュウに身を任せ』
双弥の体は今、ふたりがかりで操作されているのだ。双弥が動かし、天之御中主神がそれを感知し加速させている。だがそれは非効率だ。天之御中主神がひとりで動かしたほうが速い。
とはいえ最高神なうえ純神である天之御中主神は戦いというものを知らない。全て力任せだ。戦闘方法は稚拙とも言える。
「ぬぐっ、おっ、とっ」
だというのに創造神とは均衡している。これでちゃんとした技術さえあれば確実に勝てたところだ。実に勿体ない。
そう思いつつも双弥には一案があった。
「ミナカたん! この状態だと俺はミナカたんの記憶っぽいものが少しは見れたりするんですよ!」
『ほう?』
「だったら逆に俺の知識とかも見れるんじゃないでしょうか!」
『それになんの意味があるのだ?』
「俺には戦いの知識と経験があります! それでミナカたんが強くなれるのではないでしょうか!」
『なるほどなるほど。面白い意見だ。どれどれ……ほうほう……』
天之御中主神は双弥の記憶などをまさぐった。そして苦笑いを浮かべる。
『お前、なかなかの助平だな』
「えっ!? な、なんでそんなところまで!」
『隠すな隠すな。栄えてこそ人間ぞ。恥じることはない。むしろ……ああいや、お前は2次元キャラとの交尾妄想が多すぎるのではないか? これは繁栄にほど遠いぞ』
「やめてええぇぇ!!」
記憶どころか妄想まで全て見られてしまった。これは恥ずかしいのレベルを遥かに超えてしまっている。もうやめてくれと涙ながらに懇願した。
「こ、このっ。ワシをなめくさりおって!」
くだらないやりとりの間も手は動いており、創造神と互角の戦いを行っていた。余計なことをしつつも天之御中主神は他に気を取られたりしない。それが余計に創造神に苛立ちを与える。
『ふむふむ、ほうほう。これはなかなか……こうか!』
天之御中主神が左手をにぎにぎして双弥を操作する。一瞬できた隙を狙って横なぎに斬りかかった創造神の剣を掬うように跳ね上げ、そのまま袈裟斬り。一度鞘へ戻すと居合にて胴を真っ二つに切り裂いた。
「やったか!?」
『いやまだだろ』
上半身と下半身が分離されたくらいで死ぬほど神はやわじゃない。切り口から蜘蛛の巣のようなものを張り巡らせると上半身をその上へ鎮座させた。
「貴様ら……! 絶対に許さんぞ!」
創造神はそう言い、手を横へ振る。すると双弥らの周囲に人型の魔物が現れた。
「おー、こいつらか。今更こんなのいくつ用意したって俺には勝てないぞ」
「ほぉーそうか」
人型の魔物は一斉に火炎弾を放った。双弥は以前のように鞘を使い消そうとするが、その火炎弾は消えることはなかった。
「おぅわっ」
『危ない!』
天之御中主神は自らへ飛んできた火炎弾を咄嗟に双弥を使い身を守った。
「あづあづあづづ!」
『我慢せい。チュウに当たったらどうする』
「俺に当たってるよ!」
『そういうこともある』
酷い。
天之御中主神は盾のように双弥を振り回し、飛んでくる火炎弾から自らを守る。
「俺の身が持たないから!」
『半神というのは軟弱だな』
「だったら自分でなんとかしてよ!」
『チュウだって熱いのは嫌だ』
理不尽極まりないが、それでも双弥は耐えるしかないのだ。とはいえ破壊神の力を宿したこの体、高温だろうと滅びるどころか力になる。それは死を迎えられず延々と拷問されるのに等しい。精神的におかしくなってしまう。
でもどこかに起死回生の一手があると信じ、我慢をしていたところ、急にその火炎弾が消えていく。
『ミナカ! 私の勇者をそれ以上いじめないで!』
「破壊神様!」
『ようやく来たか。遅いぞ』
異変に気付いたようで破壊神はエイカの体を使い覗きに来たようだ。
『そう思うなら呼んで下さいな!』
『自分の世界のことくらいすぐさま感じれ。チュウの世ではないのだぞ』
『い、今更それを言っても仕方がありません。それよりこちらは私に任せて、私の勇者は早くその
「了解!」
双弥は背中から幼女を生やしたまま、創造神へ斬りかかる。
「行くぞ第3ラウンド!」
「小癪なぁ!」
創造神が手を上へ掲げると、双弥の足下から大量の槍が生えてきた。
「おっとぉ!」
『むぎぎ、この駄神め。さっきの炎といい、チュウまで倒す気だな!』
「ここで負ければ全てが終わり! ならば純神だろうと滅ぼしてやる!」
そう言った瞬間、破壊神が双弥と創造神に割り込む位置へ立った。
『はぁーげ! 終わったわ!』
「なんだと!?」
『滅びの力は私の力。あなたは今、禁忌をおかしたわ!』
「なっ!? しまったああああぁぁ!」
創造神が自ら破壊行動をしてはいけない。これは禁忌であった。
だからこそ魔王と呼べる人間を召喚した。破壊の象徴を自ら作るわけにはいかないから。そして勇者を召喚した。自らの世界の人間では異世界の知識を持つ魔王に叶わないから。全てがグレーゾーンで成り立っていたのだ。
創造神は剣を手放し、両手で顔を抑えた。創造神としての力が失われていくのが双弥ですら理解できた。このまま放っておけば普通の人間に戻るだろう。
『そうはいかんぞ』
「へべしっ」
人へと戻る瞬間、天之御中主神は双弥を使い、創造神を切り裂いた。
「あ、あのー、ミナカたん?」
『まあせめてもの情けだ。あやつを神のまま死なせてやろうかとな』
その情けは必要だったのだろうか。双弥は怪訝な顔をした。
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