第128話
「……いや、その前に聞いてくれ。もし叶うのなら、俺は自分の国を造ろうと思ってる」
双弥の出した答えはあまりにもあさっての方向過ぎて、鷲峰の思考が一時的に停止した。
「…………えーっと、それは別にどうでもいいんだが、今話していることとは違うんじゃないか?」
「いいや、関係ある」
鷲峰はなんだこいつと思いながらも、双弥が国を造った場合、どうなるかをほんの少し考えてみた。
「──なるほど、リリパール姫のことか」
鷲峰の回答に双弥は頷く。
継承権を放棄していようが、リリパールは公国の姫だ。しかも国民から絶大な人気があるアイドル的存在である。その結婚となるとかなり厄介なことになるだろう。へたしたらクーデター的なことが起こるかもしれない。
国民たちは手に武器を持ち、双弥の国へ襲い掛かる。できたばかりの国ではひとたまりもない。
そして後の歴史書に、三日天下のリリパール戦争という事件が2、3行で書かれるのだ。
これで双弥が勇者としてキルミットで暮らすのならばまた違うであろうが、双弥の意思は固い。
「今までお前、そんなこと一切言ってなかったのにどうしたんだ」
「……俺は約束したんだ」
双弥はジークフリートと約束した。この世界をロリータファッションで埋め尽くすと。
その最初の一歩、それは自分の国を造り、そこをまずロリータファッションで染めることだ。
まずは小さな国からでいい。少しずつでも力をつけ、どんどん周囲の国を取り込んでいく。目標は天下統一だ。
「…………クズが」
「なんとでも言え」
悪態を柳のように受け流す。これは本物だと鷲峰は感じた。なんの本物かはあえて言わないが。
「まあいい。そうなるとエイカを選ぶってことになるんだな」
「いやそういうわけでは……」
煮え切らない態度に鷲峰はイラッとするが、双弥の表情でなんとなく察してしまった。
この男、優柔不断の延長でハーレム作ろうとしていやがると。だから誰とは言わず言葉を濁す。
日本において浮気は悪であり、決して文化などではない。但しそれは法的に拘束されている場合だ。つまり彼氏彼女の関係ならばそのような決まりはなく、そこらへんは倫理観の問題である。
で、法で束縛されていなければ問題なく、一夫多妻が合法の国は地球にもそれなりにあり、そもそも日本だって大昔の大名などは側室などがおり、江戸時代には所謂大奥と呼ばれるものがあった。倫理観は生まれ育った環境に影響されるものであり、この世界の大半の国では一夫多妻に問題はないとしている。
一般人としては難しくとも、王室や貴族ならば普通である。しかしキルミットはそういったものを嫌う傾向に持って行っている。ならばやることは他国に渡るか建国しかない。
更に言うと女性の服装をゴスロリと固定する法を制定するとなると、領主以上になるしかない。つまり建国するのが一番手っ取り早い。
法整備など細かいところは、昔読んだ内政系ラノベと歴史ストラテジーゲームの知識でなんとかなると思っている辺り、いつ崩壊してもおかしくなさそうであるが。
「……まあ、知らない仲でもないし、お前もひとりでは寂しかろう。適当に土地を用意しておけばそこの領主くらいにはなってやる」
「言っておくが、俺の国に住むならチャーチにゴスロリ着せるからな」
「くっ……、仕方ない。法は守らなくてはいけないな」
中二病とゴスロリの親和性は高く、鷲峰も決して嫌いではない。むしろ好きな部類だ。これで合法的……いや、むしろ法的にチャーチストへロリータファッションを着させることができる。言葉とは裏腹に彼の心は踊っていた。
こうして双弥はロリータ帝国の基盤を固めていくのであった。
「でもまあ、その前にやりたいこともあるんだ」
「なんだ?」
「冒険者──この世界ではホワイトナイトって言うらしいんだけどさ、それをやってみたい」
「ほう」
折角の異世界で戦う術を持っているのだ。気ままな旅をしてみたいと思っている。
旅といえば今回こうして魔王を倒すため旅をしてきたのだが、目的のない旅や、まだ行っていないところへ行きたいというのがある。
「俺も少し興味がある。とはいえチャーチがいることだし、あまり遠方へは向かえないけどな」
特に鷲峰は稼がなくてはならない。チャーチストを養うためもあるが、彼の夢である『初めては海の見える別荘で』を実現させるため、別荘を購入しなくてはならないのだ。
それまできっと彼は少年のままである。双弥はほっと胸を撫で下ろす。
どちらにせよ双弥は旅をする必要がある。それは世界各地で破壊神信仰を広めなくてはならない。ホワイトナイトになるのも、その活動が有利になる可能性があるからだ。
大きな依頼を受けるとき、大規模なパーティと共に挑む。そこで彼らがピンチになったとき、双弥が颯爽と敵を屠る。
そこで仲間から尋ねられる。どうしてそんなに強いのかと。すると双弥はこう答える。「俺には破壊神様がついているからな」と。
破壊神と言うと聞こえは悪いが、魔物を、敵を破壊する圧倒的な力の象徴という感じに誘導する。冒険者から見れば魅力があるだろう。
ここまで双弥は想像していた。もちろん現実は甘くない。
「なんにせよまあ……、とりあえずこの町に2ヶ月いるのもどうかと思うし、王が回復したら港へ向かおうぜ」
「いや待て待て待て」
双弥の提案をハリーが止める。勇者側としてはこの大陸になんとなくアウェイ感を覚えているため、できるならば早いところあちらの大陸へ戻りたいのだ。
「一応おれらはこの大陸でそれなりにコミュニケーションをとってるんだ。知り合いとかにまず破壊神信仰のことを頼んでみることにするぜ」
「おおっ、そりゃいい」
これは以前考えていた案、魔王たちにはこちらの大陸で破壊神信仰を勧めてもらうというものに近い。
しかし急に言ったところでどのように信仰すればいいのかわからないだろう。ならばあちらの大陸から宣教師を派遣するか、入信する人物を連れて行けばいい。ついでに創造神の悪名を広めれば完璧だ。
後にこの大陸で宗教戦争が起こるのだが、双弥たちは知る由がなかった。
「だけどお前らは2ヶ月きっちりとライザってもうらうぞ」
「うん? なんだそりゃ」
「俺もよくわからん。ただ2ヶ月で贅肉ダルマがガチムチマッチョになるらしい」
よくわからないことをどうやってやらせるのだろうか。恐らく常に高負荷をかけて生活をさせるという、なめくじ星へ向かう孫◯空みたいなことをさせるつもりだ。
「そもそも魔王ってどの程度肉体強化されてるんだ?」
「さあなぁ。この世界の計測ってけっこう雑だからな。片手で1000ポンドくらいは持ち上げられるんじゃねぇか?」
「グラムで言ってくれよ」
地球にはメートル条約というものがあり、長さはメートルで重さをグラムで統一するとされている。加盟国にアメリカもあるはずなのだが未だにヤードポンド法を採用しているのは謎だ。
「とにかく、常に体へ負荷をかけて鍛える。理想を言えば減算されて元の状態になるのが理想だ」
「うへぇ……。そんなこと2ヶ月もやらねぇといけねぇのかよ」
「それと平行して破壊神信者獲得のほうも頼むぞ」
「……オーマイガ」
2ヵ月後、彼らはどのような姿になるのだろうか。
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