第87話
「…………うべえぇぇっ、ぺっぺっ」
双弥は口の中に入った大量の砂を吐き出していた。助かったらしい。
辺りを確認すると、地盤が沈下したのがわかるように砂が崩れていた。
ジャーヴィスの出した大聖堂が大きく、周りの砂を外へと押し出していたおかげで引き戻る量が減っていたのが幸いであった。
「うえぇ、砂だらけだよぉ」
「……ですが、助かった、みたいですね……」
エイカとリリパールも布で顔をはたきながら双弥のもとへ来る。
「2人とも無事だったか」
改めて周囲を見回す。砂にまみれているがなんとかみんなの姿が覗える。アルピナはもう既に傾斜の上へ行っていた。
「エクイティ大丈夫か?」
「……ん」
双弥はエクイティの体についている砂をはたき落とす。
ぱん、ぱん。ぷるん、ぷるん。
ぱっ、ぱっ、ぷるっ、ぷるっ。
「イエス!!」
突然叫びガッツポーズをとる双弥に辺りを警戒していたエイカとリリパールはビクッと震え、何ごとかと振り返る。
「ど、どうしたの?」
「大したことじゃないよ。ひっかかりがないと楽でいいなというだけだ」
小馬鹿にしているようにも聞こえるが、双弥はフルフラットボディも大好きだ。決して悪く言うつもりはない。
それはさておきまずは救助が優先だ。顔を砂に埋めているアセットを双弥は引っ張った。
「アセット大丈夫か? ああ目はまだ開けないでくれ、砂が入る」
双弥は柔らかい布でアセットの顔についている砂を落とし、少し水を付けてやさしく拭き取る。
「ん……、ああ悪い」
アセットは少し照れたように顔を赤らめ俯く。
無事だとわかったところで双弥は改めて皆を見渡す。
エイカ、リリパール、アルピナ、エクイティ、そしてアセット。
「よし全員いるな。よかった」
「よくないよ!」
砂の中から飛び出したのは当然僕らのジャーヴィスだ。
「おっとジャーヴィスか。突然出てきたから斬りかかろうとしちまったゼ」
「わざとだ! 双弥からそんな雰囲気がする!」
もちろんわざとであり、あまりにも白々しかったためジャーヴィスにでさえバレてしまう。実に迂闊だ。
「まあ無事だってのはなんとなく察してたからいいだろ」
「それだけかい!? 双弥にとって僕はそんな扱いでいいのか!?」
いいに決っているからこういう態度であることをジャーヴィスは事実として認めたくないようだ。いや、あえて言って欲しいM体質なのかもしれない。
「何度も言うけど俺たちはこの砂漠から脱出することを再優先にしないといけないから、お前の文句を聞いている暇はないぞ」
「ならさっさと出よう! 僕は言いたいことがいくらでもあるんだ!」
ここから脱出したらそのことに感激し、きっと忘れるだろうことを念頭に双弥は頷いた。
それにはどうしたらいいかはまずアルピナに着いて行くしかないだろうという結論が既に出ている。あとはその手段が重要だ。
時刻は──時計があるわけではないためわからない。太陽が地平線の近くにあるため、朝か夕方であると推測できる。
あとの判断材料は砂だ。まだ高い温度を残しているから先ほどまで日にさらされていたのがわかる。つまり今は夕方。
「という推理をしてみたよワトソン君」
「ハハッ、双弥は大事なことを見逃しているね」
「なんだと?」
「だって双弥はコンパスを持っているじゃないか。つまりきみは無駄な推理をしただけなのさ」
双弥はがくりと膝をついた。ジャーヴィスに真っ当な指摘をされてしまったことで己の間抜けさを更に際立たせてしまった。
当初の予定ではこれをみんなの前で披露し、「素敵! 抱いて!」くらい言われると思っていたのだ。いやジャーヴィスから言われたいわけではないが。
「ま、まあまあまあ、それはともかくとしてエイカ。アルピナに案内を──」
「待って双弥。僕のアイデアを聞いてよ」
「……ふむ」
ジャーヴィスにしてやられたことで自分の考えに自信を失っていた双弥は、とりあえずでもジャーヴィスの戯言に耳を傾けてみようと思った。
「やっぱりシンボリックを使うべきだよ。ここで僕はしっかりと休養を取り魔力を回復させるのがいいと思うんだ」
「ふぅむ……。エアコンも効いているから日中でも走りやすいか。歩くよりは距離が稼げそうだし……。ちなみに今から明日の朝まで休んでどれくらい回復するんだ?」
「12時間も寝れば半分は回復するから1日以上走れるよ。その間双弥が運転してくれれば僕は魔力を回復できるから……」
「え!? 俺運転していいの?」
双弥は免許を取得できる年齢ではないため当然運転したことがない。しかしそれなりには興味があり、この機会に運転できるのがちょっと嬉しかった。
こんな障害物のないような場所だから事故も気にせず飛ばせるだろうし、きっと気分がいいぞと楽しみになっていた。実際に砂漠というのは起伏が激しく、簡単に転倒してしまう危険な場所なのだがまだそこには気付いていない。
「というわけで寝袋を貸してくれよ。そして僕が起きるまで周りを警戒しておいてくれ」
「そういうことならしゃあねぇな。お前はちゃんと寝て回復させろよ」
ワクワク少年はジャーヴィスたちをとっとと寝かせ、1人エア運転で妄想を馳せていた。
「お兄さん、代わろうか?」
日が落ちて暫く経過したところでエイカが目覚め、双弥の近くに来た。地面がすっかり冷えてしまっていたため起きてしまったのだろう。
「大丈夫だよ。エイカも休めるうちに休んでおきな」
「うん。だけど眠くなるまで少しいい?」
エイカは双弥の横に座る。双弥も特に抵抗なくそのまま座り続ける。
そして横に座ったはいいが、エイカは何を話したらいいかわからず思考を巡らせる。
無言でいる時間が長くなるとだんだん顔が赤くなっていく。星明かりのみの暗がりのためそれがわからないのが救いであった。
何を話そう。考えれば考える程焦ってしまう。少し挙動不審になっており、双弥もそれが気になってきた。
「どうした?」
「えっ!? えっと、その……ね。あっ、そうだ! あの穴結局なんだったんだろうね」
「ああ……。色々予想してみたんだけどわかりづらいよなぁ」
慌てて出した言葉だが双弥の興味をひくことができ、少し安心した。
「どんな予想したの?」
「トレマーズみたいなのがいるんじゃないかなって」
当然エイカがトレマーズを知っているわけがない。双弥も子供のころテレビで見たことがあるだけなので詳しくは説明できなかったが、超巨大な人喰いミミズみたいなものだと説明した。
ミミズであれば体を粘液質で覆っているから通った後にそれが残り崩さず穴が残っているのではないかと予想している。
だがミミズは砂地ではなく土におり、乾燥には弱い生物だ。そうなると特殊な進化を遂げたこの世界独特のミミズ的生物と考えたほうがいいだろう。
「なんか怖そうだね」
「まあ物語だから実際にそんなのいないんだけどね」
「ふぅん」
そこでまた会話が止まってしまう。こうなると双弥も多少気まずさを感じてくるのだが、先ほどまでうろうろしていたアルピナがじっと立ち止まり耳を細かく動かしていることに気付いた。
「どうしたんだろうな」
「何か見つけたのかな」
そんな話をしていると、急にアルピナは伏せ威嚇するように構えた。
「なんかまずそうだ。ちょっと行ってくる」
双弥が立ち上がりアルピナの傍へ向かおうとしたとき刃喰が反応した。
『ご主人、なんかでかいもんがいるぜ』
「でかい? どれくらいだ? パーフェクトドラゴンよりもか?」
『ああ、もっとでかいな』
双弥は戦慄し、アルピナのもとへ駈け出した。そのとき遠くで地面が盛り上がり、それが勢いよくこちらへ向かってきたのが視認できた。
こいつがあの穴の正体だと断定した双弥は、妖刀を構えその向かう先に立つ。
ドズザアアアと音を響かせ地面を突き破るように、そいつが姿を表した。
「てえええぇぇぇ!?」
そこに現れたのは10メートルを越す巨大な手であった。一瞬超巨人でも出てくるかと思ったが、気を落ち着かせて理解した。
「超巨大……ハンドスネーク……?」
双弥は目の前の化け物に慄きつつ立ち向かっていった。
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