第80話
結局うやむやになってしまったまま双弥たちはまたトレーラーにて牽引されていた。
「どうしたものでしょうね、双弥様」
「何が?」
「今後をどうするか、です」
双弥的にも自分たちで行動するのがいいと思っている。
しかし共に行動することに対して不満があるわけではない。
もし共に動くのであれば全員一緒のほうがいいとも思っているのだが、それは叶わないだろうか。
全員とは他の勇者だ。ジャーヴィスはもとより鷲峰、ムスタファ、そしてフィリッポ。
そういえばフィリッポは今ごろどこで何をしているのかふと気になる。スタート以来全く会っていないのだ。
ジャーヴィスの証言では皆より遅れた場所で見かけたとされているが、それもかなり前の話でありもう既に追い抜いているかもしれない。
聖剣の話もしてやらねばならないし、鷲峰たちも含めて魔王の話をしなくてはならない。
「どうしたものかなぁ……」
双弥はぼーっとしながら窓の外を眺める。
延々と続く地平線。その向こうまで続く街道。そして街道に沿って延びる線路。
あまりにも代わり映えのない風景に、双弥はため息をつきそうになり、盛大にむせた。
「せ、せ、線路おおぉぉぉ!?」
そう。そこにあるのは線路としか言いようのないものであった。
均等の幅で並ぶ棒状の鉄がずっと先まで続いているのだ。
「どうしたのお兄さん。突然叫んで」
「おい、ありゃ線路だろ? なんでこんなところに……」
「線路とはなんですか?」
どうやらエイカとリリパールは知らないもののようだ。
2人には馴染みがないようだが、双弥には慣れ親しんだもの。日本、特に東京では大抵のところで見られ、大体の場所へ行ける交通機関だ。
どう見てもこの世界のものではない。とすると、これはシンボリックにより造られたものだ。
「ちょっと前に行ってくる」
双弥は妖刀を持つと走行中のトレーラーのドアを開け、破気を取り込むと飛び出した。
着地した瞬間、力の限り蹴りつけ前方車両との接続部へ飛び乗る。そして這うように車体上部へ登り、フロントガラスを叩く。
「うおぅ!?」
驚いたジャーヴィスが急ブレーキを踏むと慣性に従い双弥は前方へ吹っ飛んだ。危うくひかれそうになるところでなんとかフロントグリルを掴み巻き込まれるのを回避。車両が停止するまで持ち堪える。
「危ないじゃないか! 退屈かもしれないけどそういう遊びはよくないよ」
運転席の扉を開け、ジャーヴィスが呆れたように言い放つ。
「遊んでたわけじゃねぇよ。それより横にあるものを見ろよ!」
「ん? ああ、線路だね。電車に関して日本は最先端だと思っていたのに見たことないのかい?」
「あるよ! でもなんでこんなとこにあるんだよ。おかしいと思わないのか?」
「ここは異世界だからね。何があっても驚かないさ」
全くことの重大さに気付いていない様子のジャーヴィスに双弥は少し苦々しい顔をする。
驚くべき点は多々ある。それはこんな場所に発達した文明があることだ。
もちろん元々この世界にあったものではなく、シンボリックという異なる世界の文明のはずであり、それがあるということは間違いなくこの辺りに勇者か魔王のどちらかがいるということになる。
「だけどあるものを利用するのは重要だね。えーっと、どうしようかな……」
ジャーヴィスが悩みだした。何に対してどう悩んでいるのかわからないが、またとんでもないことを企んでいそうだ。
「どうしたんだよ」
「待って、今新しくシンボリック作ってるから」
「え?」
とんでもないことをさらっと言ったジャーヴィスに、双弥は思わず聞き返してしまう。
「うーん、あっ、そうだ! 連! ジャベリン!」
ジャーヴィスの叫びに応じ、線路上には6両編成の紺色をした特急が現れた。
「ひゃっほう! 一度こいつを操作してみたかったんだ!」
ジャーヴィスは大興奮である。だがそれを見ている双弥は呆気にとられてた。
シンボリックは自国のものならば好き勝手出せるものなのだと再確認させられたのだ。しかも後から考えることも可能ときたらチートの度を越えている。
ちなみにこのクラス395という車両は確かに英国で走っているものだが日本製である。もはやなんでもありの酷さっぷりだ。
「あの、なあジャーヴィス……」
「早く乗りなよ! これだけでかいものを維持できるのは僕の魔力総量だと半日くらいが限度だからね」
ジャーヴィスがどんどん荷物を積み替えていたため、双弥も慌ててエイカたちに準備させた。
こうして双弥たちは更なるスピードアップが可能となった。
「お兄さんのいた世界ではこんなのが普通なの?」
窓から見える異常な速度で流れる景色を見ながらエイカはこの異様な状況に混乱しかかっていた。
「普通っていうか……まあ、特別ってほどじゃないかな」
新幹線は高額であるが大抵の人間が乗れる一般的なものである。もしこの世界でも車両が存在していたとしたら恐らく貴族あるいは王族だけで独占するだろう。
馬車の数十倍の速度で移動できるのだ。緊急時などに使用できるよう一般に使わせることは有り得ない。
レールはどこまで行ってもまっすぐであり、振動なんか道を走るのに比べれば圧倒的にない。そしてこの時速200キロを超える速度だ。
こんなものあってはいけない世界だ。ここの王たちはなんでもかんでも戦争に利用しようとするだろう。
だからシンボリックはすぐ消えて正解である。いや、むしろ消えなくてはならない。
「うん……?」
双弥は顔をしかめ頭を傾ける。何かひっかかっている。
シンボリックは消える。これは絶対らしい。だというのに今消えていないような……。
「しまっ……!」
双弥は慌てて一番後ろまで走る。扉を開け、後部運転席から下を見る。
すると予想通りレールが後方から徐々に消えていく。
「ジャーヴィス! 聞こえるか!」
双弥はマイクを取り、車内放送で叫ぶ。リリパールたちにも丸聞こえであるがしょうがない。
『どうしたんだよ突然。あまりの快適さに叫びたくでもなったかい?』
「そんな場合じゃない! レールが消えてきているんだ! シンボリックの時間切れだ!」
『マジで!?』
最悪な状況である。
減速したらレールが消え脱線する。加速が間に合わなくても脱線する。どうにもならない。
「ジャーヴィス! 速度を上げられないか!?」
『もうこれが限界だよ! これ以上の速度なんて……』
双弥とジャーヴィスは同時に理解した。
このレールを出現させたのは鷲峰かフィリッポのどちらかだということを。
新幹線もTGVも同じ
だが今それがわかったからといってどうにもなるわけではない。ジャーヴィスのところへ行く前にマイクへ向かって叫んだ。
「全員、対衝撃姿勢をとれ!」
そして後部運転席から飛び出し、前方へと駆け出した。
そこで双弥が見たものは、何をしていいのかわからずおろおろとするエイカとリリパールの姿であった。
「2人ともなにしてんだよ!」
「あ、あの、対衝撃姿勢ってなんですか? これから何が起こるのですか?」
座席に座りシートベルトを締め、頭を下げる。そんな常識はこの世界に存在しない。
そのうえこの列車にはシートベルトがない。そして双弥はこういう場合どうしたらいいのかわからない。
「と、とにかく何かにしがみついてて!」
「う、うん!」
「これから危ないことが起こるから注意して! ってエクイティはなんでそんなに落ち着いてるんだよ!」
「……え?」
だからなんだという風にエクイティは読んでいた本から目を離し、双弥を見た。
「いや、いい。ちょっとジャーヴィスのところへ行ってくる!」
走り出そうとしたとき、ちらっとアルピナに目を向ける。暢気に寝ているが一番放っておいても大丈夫だろうと思い先へ急ぐ。
「おいジャーヴィス!」
「ああ双弥。僕はどうすればいいんだ!?」
「えーっと……そうだ、こいつで飛べないか!?」
「双弥はアニメの見すぎだよ。電車が空を飛べるわけないじゃないか」
「モンサンミッシェルだって飛んでただろうがよお!」
非常識の最中で常識的なことを考えてはいけない。自らの動きが制限されてしまう。
シンボリック自体が馬鹿げた代物なのだから電車だろうがパンツだろうが空を飛ばしてしまえばいいのだ。
「こうなったら後部車両を切り離そう!」
「双弥、今どきの電車は各車両にモーターが入っていて──」
「じゃあ最終手段だ! 走行しながら消えているレールをシンボリックで出せ!」
「それはさすがに無茶じゃ……」
「いいからやれ! 前を走ってる奴もやってるんだ! お前ならできる!」
言ってみるもので、7人を乗せた車両は20分後、なんとか無事停車することができた。
気付くと道は既になく、砂漠のど真ん中にいたため喜びは一瞬で終わったのだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます