第66話

「────というわけで保護したエクイティだ」


 エイカとリリパールに双弥が経緯を話すと、勢い良く水を飲み干したエクイティは軽く会釈した。それに対し2人も自己紹介をする。

 それと同時に2人までちらちらと胸に目をやる。やはり気になるらしい。


 まだ未来へ可能性のある年頃だし、悲観することはないし、貧巨ひんきょことわりに目覚めた双弥はこの先2人の乳がどうなろうと構わないのだ。

 これは諦めや興味がないわけではない。むしろ誰よりも気にしていると言える。

 ぶるんぶるん揺れる分見た目は巨乳のほうがいい、と勘違いもしていない。その代わり大きく見せようと恥じらいながらも努力する姿が見られないのだから。


 そんな戯言を考えていると、エイカとリリパールが双弥を横目で睨むように見ている。双弥が巨乳に釘付けだと思っていたからだ。

 でもそれはただの言いがかりだ。双弥はちゃんと平等に見ているし、2人の胸のことを残念だとも思っていない。


「それで双弥様。この島のことは何かわかりましたか?」


 色々と言いたいこともあるだろうがリリパールはこの場を整えた。早いところこの島を出たいのは皆同じなため双弥へ顔を向ける。


「わかったというかわからないというか……。とにかく奇妙な島なんだ」

「と、申しますと?」


 先ほどまで歩いていた範囲で双弥が感じたことを伝えた。



 まず目立つのは山。あのように切り取られた山なんておかしいのだ。

 崖とはまた異なる。もし崩壊したというのならあの形状であれば下に岩などが積もっているはずなのだが、そういった形跡もない。

 何かが起こったとしか思えない。


 その証拠が巨大な熊型生物である。

 この島の大きさはそれなりにあるとはいえ、種別で言えば小島だ。

 生物は生息地に合わせてそのサイズを変える。食糧事情もあるし、動きやすさもある。

 大型の肉食獣はエサとなる大きさの獣を食い尽くし食べ物がなくなり滅びる。それにより中型の生物も食い尽くされている。

 繁殖に必要な空間というのはかなり必要なため、こうして小さな生物ばかり残ることになるのだ。


 では何故ここに最低でも8体いたのか。そして切り取られたような山。

 考えられるのはここが元々大陸の一部であったということ。しかも最近まで。

 ならばあの切られた場所を辿れば陸が見えるはずだ。


 一体どのような力が働き、何が起こればこのようなことになったのかわからない。ひょっとしたら魔王に関係あるのかもしれないということを伝えた。



「とてもいい考察だと思います。双弥様は意外に学があるのですね」

「お兄さんって賢かったんだ……」

「お前らなぁ……」


 この程度の地理や生物は現代日本ならばいくらでも知る機会がある。これが世界差というものだ。

 とにかくこれで脱出する方角の目処が立った。方角だけわかっていてどれだけ流されたのかわからぬまま進むのも危険であるため、目標があったほうが安全である。


 この謎な現象がどれだけの規模かわからぬが、大陸全てを消失させたわけではないだろうからいずれ着くはずだ。


 問題は山頂から眺めたところで陸らしきものが見えなかったという点だ。対して高い山ではなかったが、1日2日で着く距離ではないことはわかる。

 そしてもし予想していたように魔王の力でこうなったのならば…………どう勝てというのだろうか。


「とりあえず外の熊型生物の死体だな。解体して水袋を作ろう」

「そうですね。ではどうしましょうか」


「俺とエイカでそっちをやるよ。リリパールはアルピナと食料を集めてきてくれないかな」

「わかりました。エクイティさんはいかがなされますか?」


「ここに着いたばかりだろうし、今日は休んだほうがいいと思うよ」

「ええ。私たちよりも辛い思いをしたのでしょうし、そうしましょう」

「…………ども……」


 エクイティは軽く頭を下げると大の字にぶっ倒れた。やっと気が落ち着いたのだろう。

 そのまま寝かせておくことにし、4人はそれぞれ目的の場へ向かった。




「ところでお兄さん。水袋ってどう作ればいいの?」

「確か……胃袋をひっくり返して作れたはずだよ」

「ほんとなんでも知ってるよねぇ」


 エイカが関心しながら腹を裂き、内臓を取り出そうとしている。

 こんなことを平然とやっているエイカのほうが凄いと関心している双弥は、戦いで獣を殺すことができても解体はきつそうであった。


 エイカは町娘とはいえ小さな町で育ち、親が鳥や獣を捌いているところを見たことがある。さすがにやったことはないようだが抵抗はないようだ。

 逆に生きている動物を殺すことにはまだ少し抵抗があるみたいだ。


 周囲にいた5体。体のサイズからしてかなりの量が入りそうだ。2人は解体を終え、川に行く。



「ねえお兄さん」

「どうした?」

「お兄さんって不思議な人だよね」


 双弥とエイカは肩を並べ、川岸で取り出した胃袋を念入りに洗う。

 その姿もまた不思議な光景だ。兄妹には見えないため一体どういう経緯でこの組み合わせなのか傍から見たら首を傾げるだろう。


「不思議ねえ。どんな風に?」

「なんていうのかなぁ。なんかさ、戦うと強いけど賢かったりするし……」


 文武両道と言いたいのだろうが、実際双弥はそこまで賢くはない。

 学力で言えば普通程度だ。ただちょっと数年前にこじらせた病のせいで雑学に詳しいだけだ。


 この世界では戦えるものイコール筋肉バカなのだろう。頭もよく戦えるのは所謂キャリア組というやつで、前線に出て戦うというよりも戦略を立てる側の人間であろうか。


「俺は多分エイカが思っているほど大層な人間じゃないよ」

「ううん。お兄さんは凄いんだよ!」


 エイカは嬉しそうな、期待に満ちているような顔で言う。

 どうも双弥を超人の類だと思っているようだ。


 それにしても何故かエイカは双弥が強いことを誇らしく思っているらしい。


 考えて見ればこの世界で最も長く一緒にいるのがエイカであり、そしてこれほどまで共に過ごした他人なんて存在しない。

 意識のないころの記憶はないだろうが、それでもいつも傍にいたことには変わりない。


 つまりどんなに双弥が否定しようが、長いこと見てきた自分の目を信じているのだ。


 そう考えると少し恥ずかしいものがあり、照れを隠すようにバシャバシャと水をたてる。


「エイカはさ」

「うん?」

「俺と一緒にいてきつくないか?」


 話題を変えねば空気がきついため、今更なことを尋ねる。

 思い返せば散々な旅だった。エイカだって何度も危険な目に合っている。今回のこれもそうだ。

 もはや惰性だけでついて来れるようなものではない。いい加減考えなおしてもいい時期だ。


「きついよ」

「お、おう」


「だけどね。なんか、すっごく楽しいよ。充実しているっていうのかな。…………きっと、お父さんやお母さんも文句言わないと思う……」

「……そっか」


 これを言われてしまうと何も言い返せない。エイカが満足しているのならそれでいいかと思うしかない。



「双弥、大変きゃ!」


 ちょっといい雰囲気になりかけていた空気を打ち破ったのは毎度おなじみのアルピナであった。何かとても慌てている様子だ。


「どうした?」

「りりっぱが倒れて起き上がれないのきゃ! なんとかしてきゃ!」

「なんだと!?」


 リリパール1人置いてここへ来たのに多少言いたいことはあるが、アルピナに何を言っても意味がないし、きっと周囲に危険がないことを確認し、急いで来たはずだ。


「わかった。場所は昨日のとこか?」

「そうきゃ! 早くしてきゃ!」



 エイカを1人にしておくわけにいかず、アルピナに残ってもらうようにし双弥は破気をできる限り体に通し、一気に走りだした。




 そこには自力で持てないだけの果物をリュックに詰め込み、潰れてもがいているリリパールの姿があった。

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