第46話
双弥による突然の告白に、その場にいる勇者全員が固まった。
今まで少しおかしいなとは思いつつも、同じ勇者だと思っていたのだ。それが実は違うと知ってどうすればいいのか戸惑っている。
「だけど──」
双弥は言葉を続ける。聞けば答えがわかるだろうし、考えても無駄になりそうなため皆は話を聞こうとする。
「俺がそれを知ったのはタォクォでみんなと再会する直前だったんだ。それまで自分自身でもみんなと同じ勇者だと思い込んでいた。だから騙していたわけじゃないのはわかって欲しい」
皆が最も知りたかったであろう情報を先に教える。
これに関して嘘は全くないし、駆け引きもない。再会したときはスタート直前でごたごたしており説明しているヒマなんてなかった。
あとは先ほどのようにムスタファが一方的に悪と決め付け、話にならなかった可能性もあった。
「そしてさっきの話からわかる通り、俺は破壊神の勇者として魔王を倒さねばならない」
「ちょっと待て双弥」
遮ったのは鷲峰だ。何か気になる点があるのか、考えつつ訊ねているといった表情をしている。
「どうした?」
「先ほどの主教の話からすると、破壊神とコンタクトを取るには古代の神殿へ行く必要があるようだが、その点はどうなんだ?」
そう言い鷲峰は主教に顔を向けた。
「確かにその通りです。ここから北北西へ向かい20日くらい馬車で揺られて行ける場所です」
「かなり遠いな……。するとタォクォからだとそれ以上かかるだろうな。少なく見積もっても往復で1ヶ月半だ。お前はどうやってその神殿の情報を知り、そこまで辿り着けた? それ以前に何のために行った? そしてその距離をどうやって移動した?」
鷲峰が理解できない点をきつく問いただす。
「それは……」
「その先を話す必要はありませんよ。私の勇者」
突然扉を開け、中に入ってきたのはエイカであった。
だが雰囲気が違うし、双弥のことをお兄さんではなく私の勇者と呼ぶ。それに該当するのはもちろん──
「え、エイ……いや、破壊神なのか?」
「はい。……っと、お初にお目にかかりますわね、ハゲの勇者ども」
エイカは鷲峰らを見下しながら鼻で笑った。
酷い言われ方だ。鷲峰たちは何言ってんだこいつといった顔でエイカを見る。
「ほ、本当に破壊神様……なのでしょうか……」
「ええ主教。いつも祈りをありがたく戴いていますわ」
今度は主教に対し、とても可愛らしい笑顔を見せた。といっても肉体はエイカなため、その笑顔もエイカであるが。
「しかし破壊神様。貴方様は神殿から動けないのでは……」
「それはこの少女がエイカ・リッジだからです」
「リッジ!? なるほど、そういうことですか」
主教は納得したように頷いた。
『リッジ家の娘』という伝承がこの世界にはある。
この家系は古くからあり、何故かほとんど男しか生まれない。
だが極稀に女が生まれることがある。
その女は『媒体の巫女』と呼ばれ、この世界で唯一その身に神を降ろすことができるのだ。
この世界の信仰は創造神と破壊神だけではない。たくさんの宗教があり、祀る神もそれぞれ違う。神託を求めるものたちは彼女を奪い合い戦争を起こす。
聖戦である。たったひとりの少女を得るためだけに、何十万という人間が命を落とす。
以前現れたのは300年くらい前。もはやそんなことを誰もが忘れていた頃に生まれたのがエイカである。
ただ降ろせるのは1人で1体のみ。つまりエイカは強制的に破壊神の巫女とされてしまった。
「エイカにそんな秘密があったのか……」
「ええ。それに私の眷属である刃喰も一緒にいるなんて、私の勇者を選んだ私はなんて素晴らしいのかしら」
うっとりするように悦に入るエイカを横目に、双弥は皆の方を向く。
刃喰も破壊神と繋がりがあるため、話すことができたのだ。
世間では魔獣と呼ばれているが、それは単に人間がそう呼んでいるだけである。遺憾なことであるが、刃喰はそんなことを気にしない。おおらかなのではなく大雑把なのだ。
「とりあえず、こんなわけだ」
「わかったら魔王に手出しをしないでくださいな、ハゲの勇者ども」
余計なちゃちゃを入れる
「だから俺は俺で魔王を倒さないといけない。それをわかって欲しい」
「それで何が言いたいんだ?」
黙って聞いていたムスタファが口を開く。双弥の真意をはかりかねているようだ。
「俺は恐らく帰れない。そして魔王と戦うことでみんなが帰れる可能性をなくしてしまう。それでもやらなくてはいけないことを理解して欲しかったんだ」
双弥はもう覚悟を決めていた。
元の世界へ戻りたくないというわけではない。だが戻ったところできっと行方不明から死亡扱いになっているだろう。
さもなくば転移したところまで戻されるパターンだが、きっとあの振ったクラスメイトがうわさを流し、学校に居辛くなってしまうと思われる。
ならばこの世界で生きるのも悪くはない。ケモミミパラダイスを築く基盤は固めつつあるし、ハーレム計画もある。万全と言えよう。
「あら、やるべきことが済んだらちゃんと帰して差し上げますわ。私の勇者よ」
「なっ」
破壊神から直々に帰してもらえると言われてしまった。
そのせいで3人からはとんでもないほどの殺意を持った目で睨まれる。
一番最悪のタイミングで言われてしまった。皆はもう双弥の言うことなんて信用してくれないだろう。
「いっ、いや、これは、だな……」
「見損なったぞ双弥!」
「貴様、私を騙したのだな! 最低だ!」
「ファアック! おまえは
失墜。まさに裏切りである。これにはさすがの双弥も慌てふためく。
どうにかして巻き返しをしなければ煩わしい目にあうため、急いで取り繕うとする。
「そ、そうだ! 破壊神! もし俺が魔王を倒したら、みんなも一緒に──」
「あーぁ、私、もう疲れてしまいました……ごめんなさいね、後は宜しく頼みますわ。私の勇者よ……」
と最後に残し、エイカは崩れるように倒れる。双弥はエイカが床へぶつかる前に慌てて抱きとめ、自分の座っていた場所にそっと置いた。
肝心なところで消えてしまうのはいつものことだが、ここまで窮地に追いやられるのは初めてだ。彼女は双弥たちの仲まで破壊しようというのだろうか。
「さ、さて、それで……」
「もういい! 早く聖剣を寄越せ!」
「そうだ! とっととしろ!」
「……わかった。みんな荷物を纏めろ。主教、色々お世話になりました」
双弥は頭を下げ、セィルインメイを後にした。
それから全員、一切口を開くことなく町を出て双弥の後をついていった。
一歩一歩、それが重たく伸し掛かっていく。
ここで別れて、次に会ったときは敵だ。殺し合う必要があるかもしれない。
自分が帰るためだ。そしてたとえ負けたほうが生きていたとしても再び会うことは永遠にない。
文字通り住む世界が違ってしまうからだ。
あと少しで聖剣を置いた場所というところで双弥は足を止め、振り返る。
「もし俺が魔王を倒した場合、破壊神にみんなも帰してもらえるよう話をしてみるつもりだ」
「……そう言って譲ってもらい、自分だけ帰ろうというのだろう?」
「信じてもらおうなんて思っていない。それでも俺はやろうと思う。ただそれだけだ」
皆聖剣を手にし、それぞれの進む方向へ行った。
「さて俺らも急ごうか」
双弥の言葉にエイカは頷き、荷物を抱える。
と、そこへ馬車がやってきた。御者はセィルインメイで見たことのある男であった。
「お乗りください。我々セィルインメイ、双弥様をサポートさせて戴きます」
「ありがとう、助かる」
双弥とエイカ、そしてアルピナを乗せた馬車は一路東へと進んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます