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 意識の断続が糸のような繋がりのみを残して場面空間が切り替わる。この感覚、私は一つ思い当たることがあった。夢を見て、眠りから目覚める時に似ている。ここは仮想箱の中。仕組みは違うのかも知れない、確信は無いけれど、ある仮説が思い浮かんだ。


――ヒトには夢の世界から持ち帰れるものがたった一つだけ存在する


 あの女性――無数意識の集合総意が生み出した一片には、この仮説が通用するのかどうかを聞かなかった。



* * * *



 色の落ちた髪髭を蓄えた白衣の老人の横姿。私が主観を重ねた誰かに向き直った。少し頬がこけているが、窪んだ鋭い両眼からは意欲探求心が漏れ出るようだ。妙な覇気迫力がある。老人は難解な演算図式が描かれたスクリーンを背に両手を広げた。


「自分が生きていられると思う時間を超えて未来を想像し好奇心や探求心を得られることが何を意味すると思うかね? 極めて非科学的な幸運であると否定することはこの歳になって尚できないでいたよ」


 演算図式のそれぞれが書き殴りの配置から意思を持つように剥がれ始めた。螺旋を描き交差増幅を繰り返し大渦奔流となって私を目がけて押し寄せる。

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