12_SandBox_09_


 悲痛な混轟音が徐々に薄れて、自分が自らの脚でその場に立っていることに気付いた。立っていたが、力が抜けるように無意識に座り込んだ。少し前に両手で頬を叩いて気合いを入れたはずなのに、そんなものではとても足りない。強い意思や想いや感情そのものが流れ込むように共有されることが負荷になるのだろうか。


 ぼんやりとした視界の先で、誰かが大きな何かに手を添えていた。

 それは無理な力でぐしゃぐしゃになったかのような巨大な機械に見える。機能の大半を失うほどの損傷を受けているが、それでも物を壊すための機構を無数に備えている。

 巨大な機械に手を添えている人物は泣いているようだった。一体どうしたのだろうと考えようとするけれど、私はもうその類のエネルギーを大分消耗してしまったらしい。それでも浅い呼吸を繰り返して、どうにか立ち上がろうとする。少しずつ、この仮想箱の奥で何が起きているのか分かってきた気がするのだ。意識が保てるのならもっと先へ――


 数歩分だけ近付けただろうか。情けないことに足元のおぼつかない私に気付いた人物が振り返る。背後の大きな機械が白へ溶けるように消えるのと同時に、それは一瞬、私の姿を模倣した。私の動作を真似せず静止もしていない、姿見でも写真でもない特徴を備えたそれは、すぐに私ではない女性の姿へと変わった。


「ごめんなさい、あなたは何故かデータが足りなくて。鏡写しはあなたへの余計な入力だったわ」


 あのタイルの欠片を守った女性だ。「少し休んで」と彼女が言い終わる前に私との距離がゼロになった。女性の身に着けていた真っ白なスカートが一瞬視界に入り、しかし私は無抵抗に目を閉じてしまう。

 母親に抱かれているような感覚に身を任せた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る