お題:雲のまにまに

 ――景色が、重力に逆らって上へ、上へ昇る。幾多もの雲が、航空船が、そして見下ろしてくる太陽が舞い上げられて――…………?

 違う、重力に従えられているのは僕で、この星に絡めとられているわけで……っ!?


「――ぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!?」


 ああ、そうだ。僕は落ちてるんだ。あれ、なんで落ちてるんだっけ。遠のく景色に向けてほとばしる叫び声と裏腹に、心は冷静に今日を思い出していた。





回想そうまとう。昨日の夕刻‡


 確か、母さんが「今日はだから気を付けるのよ」とかなんとか言うのを背中に、友人との散歩に出かけたんだった。学校が終わった後、いつもみたいに帰宅後校門前に待ち合わせ。の調子も悪くはなかった……はず。

この惑星くには90%以上が大気で構成されている。星の中心にある星核の強い引力で、辛うじて星として維持できてはいるけど、僕ら"飛べない方"には"雲渡りの靴"がなければ生活ができない世界だ。だからメンテナンスを怠るなんてあるわけないんだけれど……。


‡回想終了‡













『……あ、今のが走馬灯か』


 イクスの星核に引っ張られるのを感じる。確か、人生で二度目。小さいころに一度やらかして、たまたま通りがかった空挺にキャッチしてもらえた。今日は確か祭りの日だから……空挺も中央に集まっているだろうし、安全ネットの点検があるだろうから……二度目は、ないか。

 僕が、"飛べる方"に生まれていさえすれば――。


 そこで、僕はやっとまばたきができた。シャッターを押したみたいに、透き通る空と人工雲の群れ、人影が脳裏に焼き付く…………人影?


 引っ張られるような衝撃で、頭が大きくのけぞった。同時に、意識が黒く塗りつぶされていく……。














 がたっと、大きな音を立てて僕の足元で椅子が倒れた。ほんの少しの静寂と、クラスメイトの笑い声。


「この俺の授業中に寝るとは、いい度胸だな?」


 黒板から僕に視線を向けたこの学園の名物鬼教師が、にっこりと笑っている。

……本格的にやばいかもしれない。

苦笑いを浮かべながら、あるクラスメイトと視線が合った。同時に、先ほどまでの夢が……昨日起きた現実だったと思い出す。


 透き通るほど白い肌と、夜よりも暗い瞳。有翼種の中でも特に子供の少ない"天使"。数少ない僕の親友が『助けたお礼、忘れんなよ』と書いたカンペをこちらに向けながら、にやにや笑っていた。

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