お題:君の声

 スピーカーが不機嫌そうな溜め息を再生した。私はベッドの上で体勢を変えて、一応「大丈夫?」などと聞いてみた。聞いてみたはいいけれど、理由など聞かなくてももう大体わかる。半年前にインターネットで知り合って、こうして仕事終わりの時間を共有する日々を繰り返し……なんとなくではあるが、彼の人柄や地雷なんかは分かってくるものだ。上司の愚痴、彼女の思わせぶりな態度への食傷……あと、先日は「食べに行った店の店員に対してキレる老人」への愚痴だったかな。


 彼は私の言葉に対し、なんだかよくわからないごにょごにょした音を出している。言うか言わないかで悩んだ時のクセ。そんなクセすら把握しているなんて、我ながら自分のコミュニケーション能力が怖い。


「あの……さ」

「なんだよー、彼女がらみかー?」


 沈黙。図星だったのか。内心、嬉しいような怖いような。


「……なあ、あのさ」

「要件言えって。男同士だし遠慮要らんだろ」


 嘘。ほんとは、ちょっと怖い。最近の彼の様子を聞いていれば、なんとなくわかる。できれば、このままごまかしていてほしいとさえ……。


「笑わないで、聞いてほしいんだけど」

「んっとに今更なんだよ。ちょっとこええんだけど」


 本音。そんな私の想定を超えてくるのが、君なのだろうって……知っている。


「……俺、お前が好きになったみたい」

「…………笑えねえんだけど」


 そう、多分そう来るのだろうなって、思ってた。同じ気持ちであることも、悟られないようにしていた。だから、彼女の愚痴を聞けたときの感情は安堵と嫉妬だったし、このままの関係でいたいって思っていたのに――。


「返事は、今度でいいから」


 そういって、通話が終了した。身勝手なやつ。言うだけ言っておいて……。


「返事、な……」


 今すぐにでも君の声が聞きたい、なんて言葉が頭をよぎった時点で……返事なんて決まっているというのに、私のこころは、ただ揺れるだけだった――。

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