第3章 反攻作戦

第20話 呪縛

 トゥレッグと荷馬車が出発した一方。フォレングス城。

 アキラたちの出発を見送ったヒィスリードだったが、その身体はまだ治療を必要としていた。

 一刻も早く戦列に復帰せねばと言う強い思いが彼にあったが、まともに走ることすらも禁じられた身とあっては、ひたすらに回復を待つより他は無い。

 そして、今。彼の体を蝕んでいるのは、ひびの入った胸の骨だけでなかった。

 最愛の人。何よりも守りたいと思っていたルレィを失った悲しみは、剣を取ることのできない時間が過ぎるたびに、彼の中で重くなっていったのだ。

 彼の心を癒してくれるアキラはいない。かと言って、復讐と憎しみの心を滾らせることも、今は出来ないでいた。


「ヒィスリード。お体の方は大丈夫ですか?」


 そんなヒィスリードの元へ現れたのは、彼にとっての主君、ウロド・フォレングスの長女、ライティ姫だった。


「姫様。こんなところに来てはいけません。他の兵の目に触れます」

「ならば、少し、場所を変えましょう。歩けますか?」

「ハッ。お望みとあれば」


 ヒィスリードは立ち上がり、病室を出た。

 歩けなくは無いが、胸はまだ痛む。だが、それでもあの場所でライティ姫を負傷兵達の好奇的な目に晒させておくことは、彼には出来なかった。


「ヒィスリード。防衛戦時に出発した援軍要請の使者が帰ってきました。イロー国王からの援軍は来ません。他の領からも」

「……予感はしていましたが」


 誰もいない、城の一室。

 ヒィスリードはフォレングスと言う土地が、全く孤立してしまったことを知る。

 他領や本国は、蛮族の力を過小評価しているのだ。

 また、ウロド・フォレングスと言う優れた人物の窮地を眺めて楽しんでいるに違いなかった。

 過去の戦争。二代に渡って勇名を轟かせていたフォレングスが権勢を失うのを望んですらいるのだろう。


「父は、イロー国内に敵を作り過ぎました。今まで私兵や物資で支援してくれていた、私の個人的な知己でさえも、見返りに私の身柄を要求してきている」

「それは」

「今まで父上がもらった返事と同じです。親族の端女や妾として、家に入れと」


 妾。この美しい姫が、子を生むためだけの部屋に入る。


「それはいけません」

「はい。元より、それに応じるつもりはありません。ですが、断りの返事をしてから、連絡は途絶えました。まだ、応援のメッセージをくださる、本当の意味での友人はいますが」


 ライティは言葉を切って、ヒィスリードの目を見つめた。


「私には、お慕いしている方がいます。その方の心には、昔から別の女性がいることも知っています。その女性が、今回の戦火で犠牲になった事も、それでも」

「……いけません」


 ヒィスリードはそれを口にする。

 ライティ・フォレングスの熱い視線。上気して赤くなった頬。

 僅かに潤んだ瞳。

 ライティは震える声でヒィスリードに言った。


「……騎士を愛してはいけませんか?」

「私には、アキラと共に蛮族と戦わなければならないと言う義務があります。今は、それ以外のことを考えるわけには――」


 その時、部屋の外より声がかかった。


「失礼する」

「……ウィリアム様!?」


 ドアが開かれ、現れたのはまさしくウィリアム・カーペンターであった。


「ウィリアム様、今の話は」

「何か大事な話をしていたかね? それは失礼したが、こちらも急用だ。すまない」


 どうやら聞かれていなかったと二人はホッとしたが、それよりもウィリアムである。


「ヒィスリード、君を探していた」

「私を、ですか?」

「では、私は席を外しましょう。それでは」


 ライティが礼をして、部屋を出て行く。

 残されたヒィスリードは、怪訝な目でこの発明家の顔を見返した。

 一体、何の用なのだろうか。


「新型のトゥレッグが完成したのだ。量産タイプだ。試作機よりも一回り小さくなったが、その分、異邦の人の霊力でなくとも動かせるように改良した。もちろん、彼らが操縦したものよりは能力は落ちるし、動かすのに素質も必要だがな。とにかくすでに量産は開始された。すぐに組みあがるだろう」

「……なるほど。それで私に話ということは、私の部下を借りたいと言うことですね?」

「話が早くて助かる。実際に動かせるかどうかは、座ってみて試してみるしかない。出来れば君にもやってもらいたいが、出来るか?」

「私にも、ですか?」


 ウィリアム・カーペンターは、その冷静な目で彼の目を真っ直ぐに見た。


「私の感だ。アキラと長く過ごして、君は変わった。私には君の中にある素質が彼に触発されて開花したような気がしてならないのだよ。君の中に、エルブアードの人の水準以上の霊力を感じるのだ」

「……私も、アキラやミカのようにあの機械を動かせると?」

「確実ではないが可能性は高いと見ている。怪我が治り次第、試してみてくれ。傷はどの程度だ?」

「一週間もあれば、恐らく」

「順調な回復だな。頼むぞ」


 ヒィスリードには自分に霊力が備わっているという自覚は無い。

 だがしかし、この発明家の目は、心からそれを確信しているといったような、強い姿勢を持っていた。


「ヒィスリード。実を言うと、密かに設計をしていた新しい発明が間もなく完成する。使いようによっては、トゥレッグよりも優れた霊力マシンとなるだろう」

「あれよりも優れた物、ですか?」

「基本はトゥレッグと変わらない。トゥレッグは優れた発明品だからな。だが、トゥレッグがいくら強いとは言え便だろう? もし君にも動かせるようであれば、完成したそれを前線に届けてやって欲しい。出来るか?」

「お望みとあれば」


 二人の会話は終わり、それぞれ戦いのための準備に取り掛かった。

 トゥレッグの量産、そしてヒィスリードはひたすらに回復の時を待つ。

 医者が配合した薬による湿布は気休めにしかならないが、それでも。


 ――


 設営部隊が出発して3日。

 野営をしながら部隊は進み、ミューエルを遠くに見据え、ザークレル砦を越えて、ようやく部隊は予定された地点まで到着した。


「ラーバンの森まで、馬で数時間と言ったところだ。いつ蛮族が現れてもおかしくない。警戒を怠るな。ラズラビラ、ミカ、アキラのトゥレッグはいつでも出られるようにしておけ!」


 簡易的なトゥレッグのメンテナンス場が滞りなく設営され、施設は完成に近づきつつある。


「イルバ様。天の光に陰りが見え始めました。まだ夜ではありません」

「……なるほど。嵐が落ちてくるようだな。ここは嵐の範囲外だが、そうか。設営が済んでも、トゥレッグはすぐに動けないと言う事だな。いくらあの機械でも嵐に巻き込まれでもしたらただでは済むまい」

「しかし、それはあちらも同じで、こちらに攻めてこられないのでは? 設営の時間稼ぎには都合が良いと思われますがどうでしょう?」


 イルバの副官となった騎士はそう言ったが、イルバは楽観的な考えを捨てている。


「いや、私もそう願いたいが、相手は蛮族だ。こちらの予想外の行動を取ることもある。油断をするなと伝令を伝えろ」

「ハッ!」


 伝令は滞りなく部隊に行き渡る。

 その頃、自身に割り当てられたトゥレッグ3号機の近くで休んでいたアキラは暗くなった空を見て、その天候を確認していた。

 完成間近の機械メンテナンス場からも、はっきりとその暗さは確認できる。


「嵐が落ちて来るのか」


 遠くに見える薄暗さはアキラにとっては見間違いようも無い。

 あの地獄の出来事は、まるで昨日のことのように思い出されている。


「トウルマさん。もうすぐ、助けに行きますから」


 アキラは独り言のように自分に言い聞かせた。

 果たして、その思いは成就することが出来るのだろうか。

 その時、アキラに近づく人影が現れた。


「救世主殿。イルバ様から、いつでも出られるように待機しているようにとのことです」

「ああ、分かった。えと、工房の人ですか?」


 油汚れにまみれた彼の服を見て、アキラは言う。


「はい。ムラト・シンジャンです。工房からウィリアム様より派遣された技師の責任者であります。

「そうか。ムラトさん。よろしく頼みます」

「お任せください」


 どうやら職人にしては気安く話しかけられるような雰囲気を持った男のようだった。

 ふと視界に、鎮座している赤い機体がかすめた。トゥレッグ1号機だ。


「そう言えば、ラズラビラさんは4号機に乗ってるんですね。1号機は調子が悪いって聞きましたけど」

「1号機は、防衛戦で無理をさせすぎましたからね。走り回るのに足が必要だってのに、それを武器として使ってあの激戦を潜り抜けましたから。いくら霊力で強化されていても、それを使い続けると消耗があります。何。部品は持ってきているので、直してみせますよ。ところで、3号機の調子はどうですか?」

「今のところ、不具合みたいなのは感じないよ。霊力で人を探したりとかってのは、まだ使い方が良く分からないけど」

「あれは特殊ですからね。開発して使ったことのあるウィリアム様じゃないと、使い方も説明できませんし。それにしてもアキラ様は機械を優しくお使いになられます。動きも繊細で、作ったこちらとしても、あそこまで大切に使っていただけるのは嬉しいものです」


 その時、アキラたちの前にラズラビラが現れた。

 挑戦的な顔で、アキラと技師を見ている。


「ムラト! 良く言ってくれるじゃないか? 私の扱い方は雑ってことかい?」

「はは、こう言っちゃなんですが、ラズラビラ様は無茶させ過ぎですよ。城の建物、何個か足で吹き飛ばしましたでしょう? いくら霊力で装甲を強化させてるとは言え、あんな豪快な使い方じゃ機体にダメージだって返ってくるんですよ」

「だったら、何か解決策を出しなよ。こっちは足以外出すものが無いんだからさ!」

「もちろんですよ。それが私達の仕事です」


 まるで嫌味も無くこう言うことを言ってのけるのが、この男の長所だろう。


「フン、良いさ。とりあえず今は私の1号機を早く直しよ。4号機は扱いやすいが、私には少し物足りないんだ」

「すぐには無理ですよ。数日はください。傷んだ表皮の部分を張り替えて、各関節にも負荷がかかってないかチェックしなきゃいけないんですから」


 そう言ったムラトの声だったが、ラズラビラはほとんど聞いていないようだった。

 真っ直ぐにアキラを見て、それから言う。


「アキラ、あんたには負けないからな」

「何を言ってるんです?」


 ラズラビラはアキラを睨みつけていた。

 思わずたじろいだアキラだったが、その敵意の正体を理解したいと同時に思った。


「あんたがどんなに優れた霊力を持っていようが、一番戦えるのは私だ」


 その言葉を聞いた瞬間、ラズラビラの心に、アキラの霊力が触れた。

 認められずに死んだ、異邦の母。父に虐待された記憶。

 食べるものも無い辛い生活。

 自分が一番活躍することで、自分を救ってくれたウィリアムの力になりたい。

 人々に認知されずに死んだ母親の名を知らせたい。


 ――それらは僅かだったが、それで十分だった。


「あ……」


 アキラの目から涙がこぼれていた。

 彼女の、冷たい一途さと寂しい孤独に感応して、そうして流れた涙だった。


「ラズラビラさん、あなたは……」

「お、お前、私に」


 その時にいたっては、ラズラビラの霊力も、アキラの心に触れていた。

 高い霊力同士の心の共振、共感。

 だが、ラズラビラはその感覚を振り払い、アキラの霊力を拒み飛ばすと同時に言葉を叩きつけた。


「私の心に、勝手に入ってくるな! お前なんかが!」


 その時、ざわりとした感覚が周囲に現れた。


「敵襲です! ラズラビラ様! アキラ様! トゥレッグを発進させてください!」

「ッ!」


 次の瞬間、すでにラズラビラは走っていた。同時にアキラも自分の3号機に向かって走る。


「アキラさん、よろしくおねがいします!」

「分かった! ミカの2号機は?」

「ミカ様のトゥレッグは後方です。あれは足も遅いですが、すぐに来られると思います!」


 コックピットに乗り込んだアキラは、落ち着かない自分の心を感じていた。

 このざわつきは何だというのだろうか。

 閉まる開閉口。霊力の同調。

 アキラのトゥレッグがゆっくりとその体を持ち上げる。

 トゥレッグに取り付けられた機械の目。それはカメラのように、アキラの視覚に映像を伝えている。


「早い。ラズラビラさんの4号機はすでに出ているのか」


 メンテナンス場で共にあったラズラビラの4号機はすでに走り出したようだった。


「ラズラビラさん! 一人で行くのは危険です!」


 だが、トゥレッグに通信機器は搭載されていない。

 そもそも、発案はあれど、開発すらされていないのだ。


『あんたには負けない』


 ラズラビラの声を頭に甦らせ、アキラは不安に襲われてた。

 一人で行かせてはいけない。

 蛮族は知恵をつけているのだ。


「焦りすぎだよ、ラズラビラさん! ……なんであんなに速いんだ!」


 アキラは必死に追ったが、その距離は離れていく。

 それは、余計なオプションを積んだ3号機と、扱いやすい4号機の、機体の性能差であった。

 また、搭乗回数による、経験の差でもある。

 いくらアキラの霊力が高かろうと、その扱い方に慣れていなければ上手く走らせることも出来ない。


 そうして焦るアキラだったが、ラズラビラはすでに蛮族と接触していた。

 すでに敵は物見の高台に迫っており、武器を掲げてこちらに走って来ている。

 だがしかし、トゥレッグの存在感がそこに現れると、蛮族は怯えの表情をあらわにしていた。


「あの二本足がもう出やがった!」

「ちくしょう! 退却だ! 退却!」


 数はおよそ300人はいるだろうか。

 蛮族はトゥレッグを見るなり退散を始めた。


「逃げるくらいだったらどうして来た!」


 ラズラビラが機体の中で吠える。

 一人も逃がしてやるものかと、その霊力が周囲に拡散を始めた。


「みんな踏み潰してやる! お前らなど何匹来ようが、全部私の足の下で静かにさせてやる!」


 僅か数分後には一方的な殺戮と化していた。

 蛮族がいくら身体的に優れていようと、トゥレッグの走行速度には適わないのだ。

 開けた地平。走って逃げるしかない獲物。

 骨の粉砕される音。肉のつぶれる感触。

 数は数えなかった。ただただ、笑いながら、ラズラビラはそれを一つ一つ追って、走っていた。

 そうしてラズラビラが気づいた頃、4号機は、森へとその足を踏み入れていた。


「ここが、ラーバンの森か」


 森は、見捨てられた地とイローの国の間に広がる広大な森林地帯である。

 樹木の背は高く、そこより飛来する巨大な害虫も存在しており、生身では進むのが難しい。

 もちろん、害獣に襲われる問題もある。が、トゥレッグには何の問題も無い。

 ラズラビラのトゥレッグは二本の足で木々の枝を物ともせずに進み続けた。


「フン、このまま奴らの野営地も潰してやろう。全部、私の手柄だ。アキラなんかに渡してやるものか」


 逸るラズラビラの心に、ウィリアムの姿が浮かんだ。


「私が戦功を立てれば、ウィルが喜ぶ。あの人の役に立てる。もっと私を見てくれる。異邦人だと知られずに死んだ、母の名を立てることだって」


 その時、ラズラビラの視界の下、木々の隙間に蛮族の姿が見えた。

 長身の、女の蛮族だ。

 ……次はあれだ、とラズラビラはトゥレッグを走らせる。

 だが、次の瞬間、トゥレッグはその身を転がせた。

 踏み込んだ地が何の感触もなく、落下していくその感覚がラズラビラを襲っていた。


「落とし穴、だと……!」


 それはミューエル救援隊を壊滅の危機に陥れた罠。

 今度はトゥレッグの大きさに合わせて深く掘られたその穴に、トゥレッグは倒れこむようにしてその身体を穴の中に横たわらせていた。

 もがくラズラビラだったが、トゥレッグは二本足の足しか持たない。

 はまり込んだ穴の中で、起き上がることが出来ないでいた。

 直後、穴の上に多数の蛮族が現れた。

 それぞれが大きな岩を持ち、次々とそこに投げ入れ始める。

 これは、蛮族が故郷である見捨てられた地で、個での力では太刀打ちできない、大型の害獣を仕留めるのに使う罠の使い方であった。


「や、やめろ!」


 衝撃音。

 まるで、自分の身体と同じようにそれらの岩は降りかかり、ぶつかる。

 重い。そう思った次の瞬間、ラズラビラの心に、またあの頃の記憶が甦ってきた。

 熱い、苦しい、気持ち悪い。重い!

 断続して打ち立てられていく、他人の悦び。


「あああああああ!」


 ラズラビラは無我夢中になってトゥレッグの足を動かしたが、無駄だった。

 土をかき、穴を広げるだけで、どうやっても立ち上がることが出来ない。

 降り続く岩は表面を転がり、トゥレッグを埋め立てていく。

 やめて! 出して、ここから……! 出して!

 そうした心の叫びが、彼女の霊力によって拡散し、その直後。

 不意に、ラズラビラに開放感とも言える感覚が現れた。


「あ……」


 ――コクピットの開閉口が開いていた。

 岩のシャワーが止まり、次にはその入り口のすぐ前に、人影が降り立つ。


「捕まえたよ!」

「……ッ!」


 ティ・エだった。

 筋肉隆々の蛮族の腕がラズラビラの腕を掴み、一気に引きずり出す。


「くく、リナが人が乗っているって言うんで、まさかとは思ったが。女がこれに乗ってたとはね。なかなか楽しめそうな、良い身体からだしてるじゃないか」

「は、離せ!」

「そうは行くかい! ……ん、この地響き。もう後続が追いついて来やがったかい」

「姉御、どうしやすか?」

「撤退だ! こっちには戦利品が手に入った! ずらかるぞ!」


 ――アキラの3号機がその場所に現れたのは、間もなくであった。


「ラズラビラさん! 深追いしすぎです! 森から出られなくなります!」


 トゥレッグの通った跡は容易く追ってこれた。

 しかし、木々の影が増え、夜が近づいては、迷い込む心配もある。

 だが、ようやく追いついたアキラの目の前に現れたのは、落とし穴の中に落ちて、コックピットの中身を露出させていた4号機の姿だった。

 ラズラビラは、いない。


「そんな……ラズラビラさん! どこです!」


 アキラは霊力を集中させる。

 だが、今だ慣れない機械は、彼の霊力に反応しなかった。

 使い方が良く分からない、霊力感応機。

 離れた人の霊力を察知することが出来るはずだったが、その機能が働いてくれない。


「ラズラビラさん!」


 だがしかし、返って来るものはいない。

 せめて蛮族の気配を、とも思ったがそれも分からない。

 彼らが通ったと言う、痕跡すらも何も。

 直後、ミカの2号機がその場に現れた。


「アキラ! 大丈夫なの?」

「ミカ! ラズラビラさんが!」


 叫ぶようにした声は、機体が触れ合ってさえいればなんとか通じるようであった。


「そんな、これって、捕まったの!? 助けないと!」

「でも、分からないんだ! どこに連れて行かれたのか、方角も、何も!」


 その直後、アキラは危険を感じていた。

 仕掛けられた罠が、一つであるという保障は何もない。

 その不安を感じたアキラの霊力がミカに伝わり、ミカが言った。


「探しながら進むのも、危険ってこと?」

「くそ! なんでだ! こんな!」


 アキラは憤った。だが、どうすることも出来なかった。

 2機のトゥレッグはただただ愕然とその場に立ち尽くし、穴の中の物を言わないトゥレッグ4号機の、傷ついた水色の装甲を見つめていた。

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エルブアード戦記 秋田川緑 @Midoriakitagawa

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