epilogue2 その少女は

—1—


~あれから1年~


 あたし、万丈目凛花が新国家に来てから1年が経った。

 月柳村で織田が新国家について説明していた際、今までの常識が一切通用しないと言っていたが、本当にその通りだった。


 まず、新国家に入ったあたしは、下級の民が住む下級エリアに通された。

 新国家に設けられた階級制度には、下級、中級、貴族、王の4つがある。

 各階級ごとにエリアが分けられていて、下の階級の者が上の階級のエリアに入ることは出来ない。


 そして、王を倒すには最低でも貴族の位まで上がらなくてはならないと最初の段階で判明した。

 貴族になれば王への挑戦権を得るのだ。


 しかし、それがなによりも大変だった。

 いくつもの挫折を経験し、自分自身を攻め、あたしは私を心の奥に追いやった。

 そうしなければ生きていけないところまできていたのだ。


 新国家にはお金が存在しない。

 政府から支給されたスマートフォンに振り込まれるポイントで、必要な物を買わなくてはならないのだ。


 織田から渡されたスマートフォンには、選別ゲームのクリア報酬として10ポイントが入っていた。

 情報収集すると、下級エリアでは1食につき1ポイント支払わなければならないことが分かった。


 毎日、朝昼晩と食事をとっていたら5日目にはポイントが底をつく。ポイントは0になると脱落だ。

 そうならないようにするため、ポイントを増やす方法を下級エリアで働く人間に教えてもらった。


 1つ目は、日付が変わると自動的に1ポイント増えるということ。

 2つ目は、他の人からポイントをもらう方法。

 3つ目は、他の人にゲームを挑み勝つこと。


 その他にも全階級の人が集まるカジノという場所があり、そこで運が良ければポイントを稼ぐことができる。


 また、新国家内で不定期に開催される選別ゲームにランダムで選ばれることがあるのだが、ゲーム内でポイントを稼ぐことができる。

 しかし、これは脱落者がかなり多いため、ポイントを稼いでる暇もないという。


 こんな現実ではあり得ないルールが新国家内にはいくつも存在した。

 あたしは、あたしになってからあの手この手でポイントを溜めていった。もう、なりふり構ってはいられなかった。


 なぜか?

 それは上の階級に行くにはポイントが必要だったからだ。


 中級エリアに入るには、250ポイントからという条件があったのだ。

 中級エリアへと続く門の前に立つ、門番にスマートフォンのポイントを提示すれば中に入れるのだが、そもそも250ポイントを集めることが大変だった。


 さらに大変なのが、中級から貴族に上がるためには5000ポイント以上必要ということだ。

 貴族は新国家に4人しかいない。四天王なんて呼ばれている。


 5000ポイント以上集めて、貴族の誰かを倒せばその人と入れ替わりで貴族になれるという仕組みだ。

 それはもう途方もない。


 しかし、あたしは約1年かけて貴族になった。

 貴族の№1にまで上り詰めた。

 後は王を倒すだけ。


「ようやくあの日の約束が果たせる。あたしがこの負の連鎖を止める。あたしが……きゃは!」


 部屋のタンスの引き出しを引き、中から黒と赤のバンダナを取り出す。

 それをそれぞれ右腕と左腕に巻いた。あの日のように。


 部屋を出て、王の玉座がある広間へ向かう。

 長い廊下。その廊下を踏みしめる度に決意をより強いものへと変えていく。あたしが王を倒す、と。


 大きな扉の前まで来て足を止めた。この先に王がいる。

 あたしは、深呼吸をして高ぶる気持ちを沈めた。この日のために今まで頑張ってきたんだ。


 ドアノブを握り締め、勢いよく扉を開く。


「王様、あたしと勝負だ! 貴族1位のあたしが言うことだから、いくら王様でも拒否権はないはずだよ。きゃは!!」


 金色の玉座に座る王があたしを見下ろして優しく微笑んだ。

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