第94話 殺し屋犬夜
そして、現在。
木の上に登り、じっと身を潜め、ありすたちが戻って来るのを待っていた奇襲部隊隊長の俺は再び体に力を入れ、竹でできた槍を握った。
例え元クラスメイトで、ギルドのボスだとしても、俺には生きて行かなくちゃならない場所がある。
「負けられない」
山の中が騒がしくなると、林の策通り銀城に向かった金軍のありすたちが引き返してきた。統率が取れていなく、散り散りに金城がある方角へ走っている。
「総員用意」
俺の合図で奇襲部隊全員がそれぞれ木の下を走る金軍兵に狙いを定める。
俺の声は金軍兵までは届いていないみたいだ。
「放て!!」
槍を力いっぱい地面へと放つ。
俺が放った槍は金軍兵の男の肩に命中した。隣の木を見ると乃愛やレイナも槍や土のうを下に落としていた。
悲鳴を上げ、逃げ惑う金軍兵。しかし、槍と土のうの雨が止むことはない。
次々と金軍兵が倒れていくそんな中で一際目立つ存在が現れた。
「ありすだ」
仲間に声を掛け、自らが先頭になり、この雨の中を走り抜けて行った。
この止むことのない槍の雨に絶望し、倒れていた金軍兵もありすの声を聞くと立ち上がった。
ありすの後ろにはジルとロッド、揚羽が続いている。
仲間に声を掛けながら少しずつその数を増やし、散り散りになっていた金軍兵は再び軍と化した。
「洋一……」
攻撃することを忘れ、その光景を見ていた俺に乃愛が声を掛けた。
「あぁ、弾切れだ」
止まない雨は止み、ありすの背中が見えなくなった。
◆ ◆ ◆
銀城の敷地内に待機していた斧部隊は見張りの合図で門の外に出た。
「お前ら! 俺たちの出番だ!」
200人の斧部隊を束ねる隊長、
長身に熱い胸板、腕や足は筋肉で盛り上がっている。毛虫のような太い眉毛を2つ付け、髪の毛は無くスキンヘッドだ。
特徴がありすぎる笠松だが、体格だけ見ると熊のように大きくとても頼りがいがある。
「笠松さん、ずっと気になってたんですけどどうして髪の毛が無いんですか?」
笠松の隣を走る犬夜が笠松の頭を見て聞いた。
「これか。だってこの方がカッコいいだろ」
「カッコいい、ですか……」
「犬夜、なんだったらお前の髪の毛も俺とお揃いにするか?」
「いえ、結構です」
犬夜がやや食い気味に答える。
「なんだ。遠慮するなよ」
ガッハッハッと笠松が豪快に笑った。
200人の斧部隊は逃げる金軍を追い、山の中に入った。
奇襲部隊の作戦は成功したようで、多くの金軍兵が倒れていた。
「笠松さん、前方に敵が見えます」
「お前ら! 奇襲部隊の奴らが作ったチャンスを無駄にするな。一気に叩くぞ!」
笠松が斧を天に掲げ、味方を鼓舞する。
斧部隊は全員斧を持っている。斧は木を切ることができるような大きなもので、なかなかの重量がある。
それを持って走るのは予想以上に体力を使う。
しかし、敵ももうすぐそこだ。隊長の笠松の声もあり、斧部隊の兵は疲れが吹っ飛んでいた。
さらに数分、金軍兵を追うと金軍兵は二手に分裂した。
そして笠松と犬夜たちの前に金軍兵の10人が立ちはだかった。
「たった10人で何ができる! そこをどけ!」
笠松が敵に言い放つ。
「斧がどうした! そんな見せかけの武器を持って優位に立ったつもりか? 俺たちギルドの前にそんなもの無意味だ!」
「ギルド? なんだそれは。よく分からんが邪魔をするというのなら蹴散らすだけだ」
「オラァァァアアア!」
「ムゥッ!」
突っ込んできた敵兵の拳を笠松は斧の腹で受け止めた。
それをきっかけに敵と味方が入り乱れる乱戦になった。
とは言っても敵はたったの10人。だが金軍兵はしぶとく生き残り、反対に斧部隊の戦力を削ぎ始めていた。
「たった10人と言ったことを訂正しよう。その目は覚悟ができてる奴の目だ」
笠松が向き合っている男の目を見て言った。
「相打ちになってでもお前らを止めてやる」
男は腕や足から血を流していたが、その闘志はますます燃え上がるばかりだった。
「まったく……こんな場所で時間を取られている場合じゃないんだけどな……」
戦いが始まってすぐ、あまり敵味方が入り乱れていない、比較的安全な場所に移動した犬夜がぼやいた。
笠松と金軍の男が戦っている場所以外の戦況は、背中を触れられると体に電流が流れる仕組みを知った斧部隊が恐怖でおののき、敵に攻め込まれていた。
「早くしないと林さんが言っていたターゲットが逃げてしまう。できるだけ隠しておきたかったけど仕方ないな」
犬夜が斧を手放し、尻のあたりからナイフを取り出した。
◆ ◆ ◆
将軍ゲーム開始直後の銀城。
銀軍の将軍、林から犬夜へ極秘任務が出された。
「犬夜、お前にはその能力を生かしてこいつたちを殺して欲しい」
林がスマホの画面を犬夜に見せた。
「高校生の男女とこの坊主頭ですか?」
犬夜が林のスマホをスライドさせて3人の顔や体型を見ていく。
そこには、はやととありす、小塚玲央が映っていた。
「あぁ、ゲームが終わったら1人につき1万ポイント渡す」
「全部で3万ポイントですか。この高校生に1万ポイントとは随分と……」
「何も言うな。
「分かりました。必ず倒してきます」
◆ ◆ ◆
「怯むな! 数の差をいかして戦え!」
笠松が組み合っていた男を力ずくで吹き飛ばした。
金軍兵は倒した兵から斧を奪い、斧を振り回していた。武器が同じなら後は単純に実力の差だ。
笠松の声で個対集団になった斧部隊の横を犬夜が平然と歩いた。
「犬夜さん、あの……」
味方の兵が犬夜に話し掛けるが犬夜は何も言わず笑みを返すだけだ。
「なんだお前この!」
「フッ」
犬夜が息を吐いた後、金色のビブスを着た男が倒れた。
首から血が激しく噴き出している。
犬夜が笠松と向き合っていた男の元へ一直線に走る。
男の拳をしゃがんでかわし、喉元にナイフを突き刺した。
「ガハッ」
男が地面に膝をつき、うつ伏せに倒れた。
「ロッド!」
ロッドと叫んだ男が犬夜の後ろから襲い掛かる。
が、犬夜はそれを見ずに逆手で男の胸にナイフを突き刺した。振り向くのと同時にナイフを抜き、瞬間、喉を搔き切った。
「さぁ、笠松さん敵兵を追いましょう」
「犬夜、お前は一体何者なんだ?」
「そんなことより今は追うのが先です」
「あ、あぁ、そうだな。行くぞ!」
生き残った斧部隊は見えなくなった金軍兵を再び追い始めた。
しばらく走ると金軍兵の姿が見えてきた。
「おっ、あれはもう1人のターゲット。確か新田はやとだったか」
「なんだ? なんか言ったか犬夜?」
「いえ、ただの独り言です」
「そうか」
笠松と犬夜を先頭に金軍兵を追うが、とうとう金城が見えてきた。
「ダメだ。追いつかん」
笠松が走るスピードを緩める。それに合わせて後ろを走っていた斧部隊も走るスピードを緩めた。
一方、前を行く金軍兵は門の中へと入って行った。全員が門の中に入ると門が固く閉じられた。
「これ以上近づくのは危険だ。銀城に戻るぞ」
笠松が金城に背を向け、来た道へ戻りだした。
斧部隊が笠松に続く中、犬夜は数歩金城に近づいた。そして、石垣の上に視線を向け人差し指を立てる。
「ターゲット確認。次会ったら殺す」
犬夜は笑顔でそう言い、笠松がいるところまで小走りで向かった。
「犬夜、どこに行ってたんだ」
「なんでもありませんよ」
笠松の質問に犬夜が答えた。
「将軍から極秘任務を言い渡されただろ」
「はい」
「お前は何を言われたんだ? ……いや、なんでもない。忘れてくれ。聞いたところで意味はないな。俺たちはこれから1度銀城に戻り、その極秘任務に取り掛かる」
「極秘任務ですか」
犬夜が目を細める。
「俺が将軍から言われたのは極秘ってほどのものじゃないんだけどな」
笠松と犬夜たち斧部隊はその後何事もなく銀城へと戻った。
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