将軍ゲーム1日目

第75話 将軍ゲーム

 俺の他にもメールが届いた人がいるようで、スマホを見たまま固まって口を開けている。

 俺が中級エリアにきてから初めての選別ゲームだ。

 喫茶店で情報を集めていた際に聞いた話だが、選別ゲームは下級エリアでごうやロッドが対象者に選ばれて以来行われていなかったそうだ。

 それがなんで今新しいゲームが始まるんだ……。

 届いたメールに目を向ける。


【このメールが届いた者を対象に選別ゲームを始める。途中棄権は認められない。ゲーム名は。ゲームのルールはスマホ内にアプリを自動的にインストールしてあるので各自確認すること】


「将軍ゲーム? アプリって……」


 メールを閉じホーム画面に戻る。

 すると見たことのないアプリがインストールされていた。タイトルは将軍ゲーム。これがメールにあった将軍ゲームのルールだろう。

 アプリをタッチして開く。


【将軍ゲーム】

ルール

1.将軍ゲームの対象者は金軍と銀軍に分かれる。

2.ゲームで使用する専用の手袋とビブスを着用すること。(途中で脱ぐことは認められない)

3.敵チームの背中に触れることで脱落にすることができる。

4.将軍が脱落するか城を落とされたら敗北となりゲーム終了となる。

5.制限時間は3日間、72時間とする。

6.食料等必需品は全てポイントで購入することが可能。

7.詳しいことは王の説明の通り。


 2つのチームに分かれて城か将軍を倒せば勝ちってことか。

 このルールを見ただけでは理解できない部分も多いがイメージは大体こんな感じだろう。

 4番に書いてあった城というのはまさか地下帝国で作らされていたあの金色の城だろうか?

 金軍と銀軍の2チームあるから城は2つあるはずだ。だが俺たちは金色の城しか建てていない。

 それに7番の王の説明の通りってなんだ?


 将軍ゲームのルールとさっき届いたメールを何回も見ていると突然画面が変わった。それに合わせて町中のテレビやモニターも切り替わった。

 画面は真っ暗で何も映っていない。スマホを触っても操作できなかった。


『新国家の国民のみなさんこんにちは。私は王です。あっ、忘れてた』


 男の声が町中にあるモニターやスマホから聞こえてきた。

 町を歩いていた人もこの異常事態に全員がビルなどのモニターの前で立ち止まった。

 ゲーム対象者以外のスマホも切り替わっているらしく画面に文句を言っている人もいる。

 ガサゴソと音を立てモニターの画面に男が1人映った。


「マスター……!?」


 モニターにはさっきまで喫茶店で一緒に働いていたマスターが映っていた。

 いつもの薄汚れた緑色のエプロンではなく黒いスーツを着ている。

 頭が混乱している。喫茶店のマスターが新国家の王だと!

 俺は今まで王と同じ屋根の下で暮らしていたのか? 

 一番憎むべき相手に優しくされて、マスターに少しずつ恩返しをしなくちゃならないと頑張ってきたこの3カ月間はなんだったんだ?

 マスターはどんな思いで俺に接していたんだ?

 あんなに優しい人が王のはずがない。何かの間違いだ。


『これで映ってるかな? 改めて、私が王です。今回新たな選別ゲームをするにあたって直接説明することがいくつかあるのでこのような形になりました』


 マスター、いや、王は咳払いをしてさらに続けた。


『対象者にはすでにメールを送りましたが今回行う将軍ゲームは選別ゲーム史上最大の規模です。対象者は2000人。金軍1000人、銀軍1000人。チーム分けはこちらの方で勝手に済ませておきました』


 店の中にいた人も外に出てきてモニターの前は人でいっぱいになってきた。


『ゲームのルールは以下の通りですが、細かく説明しておくことがあります』


 王がそう言うとモニターにさっきまで俺がアプリで見ていた将軍ゲームの第7項までのルールが表示された。


『ここに書いていないことの1つ目としては、このゲームで倒した相手のポイントが自分のポイントに加算されます。2つ目は、このゲームは新国家史上最大の規模なのでいつもより派手にします。なので敗北したチームの全員を脱落とします。さらに制限時間内に決着がつかなかった場合はゲーム参加者全員を脱落にします』


 モニターを見上げていた人たちがどよめく。

 対象者が2000人いるということにも驚いたが敗北したチーム全員が脱落ということにも驚かされた。

 どちらもかなりインパクトが強い。


『えぇと、今私が話したことを後でアプリ内にも反映させておきます。最後にゲームの様子は引き続き生放送しますので国民の皆様はどちらのチームが勝つのかその目で確認して下さい。それでは3日間頑張りましょう』


 王の姿がアップされると再び画面は真っ暗になり音声も途絶えた。

 いつもは新国家だと忘れるくらい賑やかで笑い声に満ちている通りも王の放送を見てからは絶望の声が広がっていた。

 スマホをタッチして将軍ゲームのアプリを開くと王が言っていた通り追加情報が記載されていた。

 内容を確認していると新しいメールが届いた。


【ゲームは下級エリアより北に位置する場所で行われる。各エリアの壁はこのメールを見せることで通過することができる。速やかに移動せよ。対象者が集まり次第ゲームを始める。尚、指定場所に現れなかった者は即刻脱落とする】


 集合時間が書かれていないから早めに移動しておいた方がよさそうだ。

 俺はごちゃごちゃになった頭の中を整理する暇もなくモニターの前を後にした。

 そして歩きながら中級エリアでの3カ月の出来事を思い出していた。

 もう新国家にきて半年だ。



◆  ◆  ◆


 新国家の国民に向けての生放送を一先ず終えた王は金色の玉座に腰掛けていた。

 部屋の中に物は少なく壁から床までほぼ白色で統一されている。

 そんな部屋の中央に白い円卓を取り囲む4人の姿があった。新国家でのポイントランキング上位4名。そう、貴族だ。もちろん1位は王であるが。


「このゲームあんたも出るんでしょ?」


 露出の多い服装から艶のある肌が見えている一ノ瀬いちのせみみが向かいに座っている男に聞いた。


「そうらしい。俺もさっき聞かされたところだ」


 男が王に視線を向ける。


「不満かい? なんでこの俺が、って」


「いいや、ルールを見た限りちょうどいい運動にはなりそうだ。外での体育教員生活ってのはどうも退屈だったからな」


 王の言葉に男は笑って返した。


「きゃは! ってかなんで外から戻ってきたらこんなことになってるの?」


凛花りんかさん、テーブルの上に足を置くのは行儀が悪いですよ」


 草加くさかが向かいに座っている万丈目凛花まんじょうめりんかを注意した。


「あー、はいはい。てか、じいさんには聞いてないんだけどなー。あたしの前で口開かないでくれる」


 年齢的には中学生の凛花が二回り以上も年の離れた草加を軽くあしらった。


「可哀想だからそのくらいでやめといてあげな」


「そう、みみさんが言うならそうするわ。それで? この状況は何?」


「あそこに座ってるお・う・さ・ま・がどうしてもやりたかったんだってさ」


「ふーん、まぁあたしには関係ないからどーでもいいんだけどねー。ね! 林さん」


 凛花がテーブルの上から足を下ろして隣に座っている林を睨んだ。


「こんなゲームすぐ終わらせる」


「もしかしたら今回は林君でも苦戦するかもしれないよ」


 席を立って部屋から出て行こうとした林に王がそう言った。


「それはあり得ない」


 林が王を1度横目で見てから扉を閉めた。


「きゃは! 林さんやる気だねぇー。さてさてあたしは疲れたし寝よっかなー」


 凛花も席を立ち別の扉から出て行った。

 部屋には王と一ノ瀬みみ、草加の3人が残った。

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