epilogue

「志保!」


 目が覚めたらそこは、知らない病院だった。


「夢か」


 ベットから起き上がろうとするが、身体が痛くて起き上がることができない。


「いってててて」


「先生、渡辺さんが目を覚ましました!」


 看護師が慌ただしく部屋の外に出て行った。

 少しすると白い髭を蓄えた中年の男がやって来た。


「渡辺さん、どこか痛いところはありますか?」


「痛いところは色々あるんですけど、その前にここはどこですか?」


「あー、そうだね。まずその説明が先だね。すまないすまない」


 男が軽く手を上げ謝った。


「ここはね、選別ゲームで傷ついた人を治療するための専門病院なんだ」


「それじゃあ、ここにありすと祥平もいますか! 小さい女の子と目つきが悪い男です。俺と一緒に選別ゲームをやってたんですけど」


「うーん。そんな子いたかな? あっ! 林さん」


 病室に林が入ってきた。


「やっと目が覚めたか。洋一君で最後だよ」


「俺で最後ってことはやっぱりありすと祥平もいるのか?」


「いいや。その2人はここにはいないよ」


「えっ!? だって俺で最後って……」


「ありすさんは8日前に、祥平君は5日前に退院しました」


「8日前? あれっ、今日って何日だ?」


 部屋を見渡すがカレンダーが無かった。


「今日は、10月2日です」


「はっ!? 嘘だろ」


「いえ、嘘ではありません。これは、お預かりしていた洋一君のスマートフォンです」


 林から受け取り、電源を入れて日付を確認すると確かに10月2日だった。


「それとこちらもどうぞ」


「これって」


「洋一君が最後に持っていた拳銃です。ゲームで使用したものは、そのまま使用者のものになりますので。あっ、でも専用のスマートフォンは回収させて頂きます」


「はあ」


 林から拳銃も受け取った。


「ありすと祥平は、退院したって今どこにいるんですか?」


「お二方は、現在新国家にいます」


「新国家?」


「選別ゲームで勝ち抜いた方のみが入ることを許された日本の新しい国です」

「俺もそこに行くんですか?」


「いいえ、洋一君は怪我が酷かったので治るまで様子をみて、その後に4月から別の学校に転校してもらいます。親御さんの了承は既に得てますので」


「別な学校に転校? どこですか?」


「楠木第二高等学校という学校です。こちらがパンフレットです」


 林から楠木第二高等学校のパンフレットを受け取った。一通り目を通してみた。


「どうせ拒否することはできないんですよね」


「はい。既に決定事項ですので……」


「そうですか。わかりました」


「立て続けにすいません。洋一君が気付いていないようですが、もう1人生き残った人がいます」


「えっ!? 誰ですか!?」


 病室のドアが勢いよく開けられた。


「まったく、私を勝手に殺さないでよね!」


「乃愛! 乃愛も生きてたのか!」


「生きてたわよ。何が生きてたのか! よ。勝手に殺したのは洋一でしょ」


 乃愛に首を絞められた。


「乃愛、痛いって。悪かった、許してくれ」


 乃愛の腕を叩き降参した。

 

「そっか。葵に復讐できたんだな」


「おかげさまで。洋一から貰った銃が無かったら私も死んでた」


「役に立ったようで良かったよ」


「うん」


「ところで、乃愛は新国家に行かなかったのか?」


 俺が乃愛に聞くと俺たちの様子を見守っていた林が口を開いた。


「それは私が説明を。乃愛さんも洋一君同様、酷い怪我だったので先日まで治療とリハビリをしていました。明日には退院できるかと思います。それで、乃愛さんにも新国家ではなく、他の学校に転校することになりました」


「ってゆうわけ!」


「なるほど。じゃあ、乃愛は明日出ていくのか」


「なに? ひょっとして寂しかったりする?」


「いや、別に」


「もー、素直じゃないなー」


 乃愛に脇腹をつつかれる。乃愛はこんな奴だったっけか。

 林は、スマホが鳴って誰かと電話をしていた。


「すいません。それでは、次のゲームマスターとしての仕事があるので失礼します。また近い内に顔を出しにきますので」


「…………」


 林はそう言って出て行った。

 次のゲームマスターと言っていた。林がゲームを考え、ゲーム中のバランスを整えているのだろうか。今度時間があるときにでも聞いてみよう。

 

 その日は、乃愛と話をしたりして終わった。

 次の日になり乃愛が病院から出て行くときになった。


「じゃあね、洋一!」


「昨日から思ってたけど乃愛、元気になったよな」


「そう? こんなもんだよ」


 乃愛が笑ってみせた。


「じゃ暇な時にでもメール送ってよ」


「あぁ、わかった」


 そう言って、乃愛もこの病院から出て行った。

 すぐにメールを送るのは、なんかあれだから数日経ったら送ることにした。


 何日か経ち、体もある程度回復して歩けるようになった。

 病院内には様々な人がいた。同い年ぐらいの人から70過ぎの老人まで、全員様々なゲームを体験していた。

 どろけい、じゃんけん、運動会、格闘などどれも聞いたことがあるようなものばかりだったが、そのどれもが残酷で酷いものだった。


 さらに、数日が経ち怪我が完治した。

 俺は、退院して自分の家に帰った。4月まで自分の家にいることになった。

 初めのうちは、家族とのコミュニケーションもぎこちなかったが、それでも家族だけあってすぐに元に戻った。

 俺は、4月まで長い春休みを送った。時々乃愛にメールを送り、なんでもない話をしたりした。乃愛は、元気に新しい学校生活を送っているらしい。


 体の傷も癒えたある日、俺はとある場所に向かった。

 学校の裏山にひっそりと建てられた墓地にきていた。ここに来るのは2回目だ。来るときに買った花を供えて墓石に水をかける。

 まだ、新しい綺麗な花が供えられていた。誰かがここに来たのだろう。

 線香をあげて目を閉じる。ここに来るとみんなに近づいたような感覚になる。


 志保、蓮、芽以、公彦、海斗、真緒、それに空雅。クラスメイトの顔を順番に思い出していく。そして最後に志保の顔が残った。


「志保……また来るからな」


 その後も時間があれば裏山の墓地に通った。


 4月になり、林が家に車で迎えに来た。


「じゃあ、母さんまたね」


「元気でね洋一。時々連絡頂戴ね」


「うん。落ち着いたら電話するよ」


 車に乗り込み、楠木第二高等学校の近くにあるらしい新しい家に向かった。


「林さん」


「なんだ?」


「あれっ? 林さんいつもと雰囲気が違いますね」


 林はスーツではなくジャージを着ていた。


「あー、これは練習だよ。練習」


「練習?」


「ちょっと企業秘密だから言えないな」


「そうですか。あっ、学校の裏山に寄って下さい」


「わかった」


 お墓に行き花を供えた。


「みんな、しばらく来れなくなるかもしれないけど絶対来るから待っててくれ……」


 全員分のお墓を綺麗に掃除してから再び林の車に乗った。


「もういいのかい?」


「はい」


 車に揺られること数十分、俺は林に聞こうとしていたことを思い出した。


「林さん、前にゲームマスターの仕事がって言ってましたけど、それってどんな仕事なんですか?」


「企業秘密だから」


「そうですよね」


「まぁ、大雑把に言うとゲームを円滑に進める人かな。ルールや特別ルールを考えたりゲーム全般の管理」


 企業秘密と言っておきながら大体のことを教えてくれた。

 林と話していると新しい家に着いたようだ。

 車から降りて荷物を運びこむ。俺の家はアパートの1階だった。


「それじゃあ、明日が始業式だから遅れずに行くように」


「はい、わかりました」


「じゃあ、洋一君。またどこかでお会いしましょう」


「は、はい」


 林は、車で去って行った。

 荷物の整理や周辺の店などをチェックして、その日は終わった。


 翌日、林に指示された通り楠木第二高等学校に向かった。

 クラス替えの張り紙を見て、自分のクラスを確認して教室に入った。

 俺は、2年C組だった。


「もうはやと君、初日から遅刻するところだったじゃん」


「ごめんって、こころ」


 新しいクラスメイトが教室に駆け込んできた。

 チャイムが鳴って全員席に着いた。

 しばらくしてこのクラスの担任となる人が教室に入ってきた。


「えっ!?」


 俺は、驚いて声を出してしまった。すぐに咳払いをして誤魔化す。


「このクラスの担任になりました。林です! 今年からこの学校に来ました。よろしくな!」


 自己紹介した人物は、昨日まで会っていたあの選別ゲーム課の林だった。

 林が俺の顔を見て口角を上げた。



第2章 私立松林高等学校編完結。

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