召喚術と転移術
「――ねぇ、ラルガ教会が黒幕って、一体どういうことなの?」
ひとまず状況整理をするためにウェイルとフレス、そしてヤンクにステイリィを加えた四人は、ウェイルの部屋に集まっていた。
フレスだってウェイルの弟子になった以上、悪魔の噂の状況把握と推理してもらわねばならない。
ウェイルの説明を聞いていくうちに、フレスの目は興味津々とばかりに輝いていた。
龍ゆえに人間同士の事件について、あまり興味を持たないと思っていたのだが、それはどうも思い違いだったようだ。
ついでに二人にもフレスの紹介をする。もちろん龍であることは秘密だが。
自己紹介の最中、ステイリィはずっと不機嫌そうに頬を膨らましていたが、状況が状況なだけに文句は言ってこなかった。
「――というわけだ」
先程は簡潔に説明し過ぎたので、悪魔の噂とラルガポットの関連性を、ヤンクの説明も交えながら詳しく語ってやった。
「なるほどね。ラルガ教会はデーモンを暴れさせることで悪魔の噂を流す。そしたら魔除け効果のあるラルガポットを欲しがる人が沢山でてくるから大人気になっちゃう。だから値段が上がっちゃったってことだね」
「その通りだ」
流石に長寿命だけあってか、物分かりは早い。
多少端折って話をしたところもあったのだが、大筋は理解してくれたらしい。
見た目とは裏腹に、意外と経済事情にも精通しているようだ。
(……長寿命のくせに、どうしてこんな幼い性格なんだろうか……)
見た目と実年齢があまりにも伴わないことは不思議に思うが、生きている世界や時間軸が違う以上、そういうこともあるのだとある程度納得するしかない。
これから長く付き合っていけば判る事もあるだろう。
「ラルガ教会のやり方は上手いね、というより汚いよね。『
「正しく言えば、今回ラルガ教会が使ったのは召喚術ではないんだ。何せ教会は召喚術を使えないからな」
「どうして?」
「神の教えに背くからだそうだ。命を創造することが出来るのは神のみ。そういう思想が根強いからな」
「へぇ、昔はバンバン使ってた気がするけどなぁ」
ラルガ教会に限らず、召喚術は大半の教会で禁忌とされている。
命を創造し、使役する。
圧倒的な上下関係を強制的に結ぶ行為。
自由、平等、そして何より命を重んじることが大好きな教会に置いて、召喚術はそれら全て破ったものであるからだ。
「ならどうやってデーモンを出現させたの?」
「そこが今回のキーポイントだ」
召喚術を使わずに悪魔の噂を流すには、教会の得意とする術式を使うのがベスト。
「教会は『
「転移術かぁ。人や物を瞬間移動させる術式のことだよね?」
「そうだ。襲われた奴らは赤い光を見たと言っていた。それは転移術を施す時に生じる典型的な魔力反応光なんだ」
「へぇ、光の色に違いがあるんだね」
「
神器には空間超越を行えるものだって存在する。
教会もその力を布教活動の一環でよく利用している。
「それにな。転移系神器はかなり
「我が治安局サスデルセル支部に設置されている転移系神器なんて、ほんの数百メートル程度しか転移させられませんからね」
それでも捜査道具や証拠品の運搬には非常に便利なのだとステイリィは言う。
「ラルガ教会は転移系神器を利用して、魔獣を
「転移系の神器かぁ。うん、ボクも心当たりがあるよ。でもさ、どうしてウェイルはラルガ教会が転移術を使ったと断言できるの? そりゃボクだって話を聞けば、なんとなくはラルガ教会が怪しいとは思うんだけどさ」
「その理由は大きく二つある。まずこの神器を見てくれ」
ウェイルが取り出したのは、先程のデーモンから外してきた首輪型の
「普通、召喚された神獣は召喚者に服従するだろ」
「うん。基本的には絶対服従。そういう契約に了承した神獣だけが召喚に応じるんだから」
「だが今回のデーモンには、こいつが使われていた」
「……ボク、
「俺も同感だ。まぁ、それは今置いておく。フレス、俺の説明とこの首輪の関連性から、俺が言いたいことが何か判るか?」
「デーモンを召喚した者と、使役した者は違ったってことでしょ?」
「その通りだ」
ウェイルとフレスが神器についての話をしている最中、それを隣で聞いていたヤンクの表情は、少し疑問形だった。
「よく判らんな……」
「えー? 今の説明で判らなかったんですか? ヤンクってば……馬鹿?」
「黙っとれステイリィ。今までのツケを倍にして請求するぞ?」
「ごめんなさい!? ……えっと、ラルガ教会の悪魔の噂を流布する手段が判ったんですよ」
「ラルガ教会は別の誰かに悪魔を召喚してもらい、その悪魔を転移させて噂を広げたってことだ。噂が広がればラルガポットが高騰し、販売元のラルガ教会は大儲けだ」
「いやいや、それは判るんだ。実際に高騰したラルガポットを買ってしまったしな」
ポケットに入れていたラルガポットを取り出し、机の上に置いた。
「だがそれだけじゃラルガ教会が犯人ってことにはならんだろ? 他の誰かがラルガポットの値段を釣り上げるためにやった、という可能性だって否定できない。判らんと言ったのはこういうことだ」
ヤンクが鋭い意見を言い放つ。その意見にステイリィも頷く。
「実は治安局もラルガ教会が犯人ではないかと疑ってはいたのです。あまりにもラルガ教会ばかりが得をする状況でしたから。ですがラルガ教会は
当然ウェイルだって、教会関係者以外が黒幕だという可能性についても検討している。
だが、次に話す二つ目の理由が、ラルガ教会が犯人だという確固たる根拠だった。
「二人の言う通り、今の一つ目の理由だけではラルガ教会が犯人とはならない。だが二つ目の理由で全てが解決だ。これは非常に判りやすい。見てくれ」
ウェイルは持っていた首輪を、机の上に置いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます