やる気満々1歳児〜パパは就活真っ只中〜

第54話 初心に返る1歳の誕生日

我が子も、例に漏れずはじめて好きになったキャラクターはアンパンマンだ。はじめてのクリスマスは、アンパンマンの乗用車にした。おすわりが出来れば使えるような補助の囲いや、公園などに行く時に親が後ろから押すための棒も付属し至れり尽くせり。お馴染みの元気が出るアンパンマンのテーマソングも流れてくる。ネットショップで買ったものを、パパが組み立ててくれたので、実売店よりワンランク上のものが安く買えた。


お外で使うアイテムだが、まだまだ寒い時期。つかまり立ちは出来るが、歩けはしない春馬。買ってすぐは補助の囲いをつけて、リビングで利用した。テレビを見る時も、離乳食でグズグズしている時も乗せてやればご機嫌になるので大活躍だった。


1歳のお誕生日プレゼントは、子育て広場で気に入った折りたたみ式のアンパンマンのボールプール。シースルー素材で風通しもいいのだが、隠れ家のような雰囲気もある。実際に自宅に届いてみると、最初はなかなか入らないので私が一緒になって入ってみた。慣れてくると、タオルケットに積み木にミニカー。お気に入りの物を運び込んで何とも楽しそう。


ケーキは、アンパンマンのホットケーキを作るフライパンを使いパパが作ってくれた。ヨーグルト・りんごジャム・いちごで飾り付けられお店のよう。きっと、おやつには食べきれないだろうとランチに作ってもらってよかった。大好きなホットケーキ。しかも、アンパンマンの顔。一枚ペロリと平らげて、夕食時までお腹はポンポコリン。「お誕生日だから、特別だよね〜」

と言って家族で笑っていた。平穏な一日だった。


ただし、これだけでは終わらない。義理の両親も春馬の誕生日プレゼントを渡したいと、玄関先までやって来たのだ。内容は、10万円と海外製のお風呂で遊ぶお魚釣りセット。去年、出産祝いと言って渡してきた10万円が家族の中を裂いたことが頭をよぎる。


「入院費にもならない。おまえの旦那の食費もオレが出している。」

と私の父には言われた。一方、その話を夫が自分の両親に話すと、「まず、お礼を言え。借りたお金はちゃんと返してよね!」

と覚えのない借金を責め立てられた。


義理の両親と向き合っている最中も、私の視線は宙に浮いていただろう。お金はないのに、お金が怖いのだ。「ありがとうございます。」

とありきたりの言葉しか出てこなかった。


結局、私たちは二人で話し合って10万円は春馬のために使えるよう貯金しておくことにした。それでいいのだ。伺いを立てるから、問題になる。学生結婚で、甲斐性がないと言っても私たちは春馬の親なのだ。春馬ほどの目覚ましい成長とはいえないが、私たちも親として変わりつつあった。


優しさや正しさだけでは、社会に出るとやっていけないことに薄々気づき始めていた。そうは思っても、我が子には優しくあって欲しいと思ってしまう親心。ただただ、生きていてくれればそれでいい。2370gで生まれ、保育器に入っていた我が子を思い出し、私は初心に返るのであった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る