第50話 年末年始は気持ちも整理

年末って、なんだかやり残した気がして苦手だ。次の年になるというだけで、実際は変わらない日々の連続だというのにソワソワしてしまう。多分、これは私だけではないだろう。


でも、今年はそんな実体のない不安感が私を襲って来ることはない。ホワイトデーに春馬を出産してから、育児に料理、毎日のブログの更新、お小遣い稼ぎに始めたモニター。0歳児中心の24時間に散りばめられた細切れな時間を積み重ねて、形にしていた。


とりわけ、ブログの効果は絶大だった。毎日欠かさず更新していると、月に2万アクセスを超えた。すると、主婦向けの商品の紹介やモニターを頼まれる機会も増え、生活雑貨を頂いたり、モニター代数千円を貰えることもあった。


春馬がお気に入りのベビーブックという幼児雑誌の読者モニターもダメ元で応募してみたところ、選ばれた。。0歳児でも、「アンパンマンはどこかな?」

と言えば、ウォーリーをさがせの簡単バージョンのようなものは出来たし、何より自分でシール貼りをするのが楽しそうだ。原稿用紙10枚以上がモニターの規定なので、親子で普段より隅々まで読んだが、春馬は私の膝に居る時間が増えてご機嫌だった。大手の出版社だけあって、謝礼の額も一桁違う。


料理も、出産前は味噌汁さえ作れなかった。公園へのサイクリングデートに「私が、お弁当作っていく!」

と張り切っても、中身はたらこ・ツナマヨ・鮭のおにぎりとタコさんウインナーとミニトマト。おにぎりの具に気を使うだけで、精一杯の小学生が作ったお弁当のようだった。それでも、夫は「彼女にお弁当を作ってもらえるなんて、幸せ!」

と浮かれていたので、現実は見えていないようだった。


そして、出産後から一念発起。レシピを雑誌や新聞、レシピサイトから書き写しておいては、試した。面倒でも、書き出すのが肝だ。切り方や手順、材料の組み合わせ。料理の常識がまるでない私は、書くことで流れを把握し、代用の食材も思いついた。すると、独自にも面白いレシピが考えつくようになる。家族にも人気だったアレンジ餃子や、流行りの塩麹を使ったきのこの炊き込みごはんが、主婦雑誌の誌面に載った時は心臓が高鳴った。


私の21歳の誕生日プレゼントは、今までの20年間とは質感が違った。夫からは、モコモコピンクベージュのプードルのようなダウンコート。私の両親からは、活動範囲が広がるよう子ども乗せ自転車だ。有名メーカーのものでなくとも、3万円はくだらないので悩んでいた。今は、実用品が何よりありがたかった。


お正月にも、父から臨時収入を夫婦で貰った。「がんばってるおまえらに、俺からボーナスだ。必要なものを買うように!」

と言われ、初売りで冬服を購入した。今まで散々なことを言われ続けていただけに、これだけで肯定されている気さえした。


ただ、義両親との関係は平行線のままだ。「この子が、受験終わったら、春馬くんとあなたたちも一緒に旅行に行きましょうね。」

夫の弟は、受験勉強ラストスパート。夫は、弟の受験が終わる頃、本格的な就活活動がスタートする。義母は、いつもこの調子。


普段たいして、口を開かない義父は、「どんな仕事がしたいんだ?」

と夫に詰め寄る。何も、協力出来ないなら口出しは不要だ。私は夫への質問を「お父さんは、大学生の頃はどんな職に就きたいと思われていたんですか?」

と言って跳ね返した。「ホテルマンだよ。結局、アパレル関係だけどね。」

そうだろう。理想と現実は、必ずしも一致しない。


私も、負けてはいなかった。孫へのクリスマスも、お年玉もなし。そのくせ、口だけは立派な彼らに別にいい顔なんてしなくていい。大変な時に助けてくれた人には、恩を返していこう。逆に、冷遇されたのなら、それまでの相手だと思って上辺だけの付き合いをすればいい。私は、自分なりのルールを定め無理をすることを早々に辞めた。


私は、自分の様々な気持ちを整理し、清々しい気分で新年を迎えた。








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