第78話 刻に縛られた者/見捨てられた者㉑

 ルージュは上空を身ながら足を動かす。


 キャンサーは右の鋏から超力を圧縮させた紫光しいろの刀剣を生み出す。

 それをルージュに向かって打ち下ろしてきた。


 地面に小規模のクレーターが生まれるほどの威力。地を砕き岩を周囲に吹き飛ばす。


 ルージュは後方に飛んで、それを紙一重で避けた。

 宙に浮いている状態で呪印銃の通常弾を放つ。


 紫色の閃光がキャンサーの目を焼き切った。

 地面に降りると前方へ駆けだす。


 前に前に――ルージュにはその気持ちがあった。

 そして恐れがあった。


 あの石化泡攻撃である。


 最初は無差別的に大きく広がって、次第に全方位から追尾を開始する。

 追尾機能を持ったアレを避けるのは、距離が遠いほど難しい。


 逆に近距離であれば、追尾機能が発動する前にキャンサーの体を盾にできるかもしれない。

 そうでなくても角度が付けば追尾も簡単ではないはずだ。


 あの石化の泡は魔眼を持ってしても避けられない。

 故にそれを攻略できるかが、この戦闘のキーになる。


 キャンサーの両鋏に紫色の光が収束されていた。他の追随を許さない、大気を歪ます超弩級の力が圧縮されていく。

 ルージュの本能に危険を知らせるアラームが鳴り響いた。


 ――マズい!


 キャンサーの両鋏から放たれるは、極太の薙ぎ払い大口径超力圧縮砲だった。

 その妖しい輝きは夜の闇を一瞬で、明けに染めた。


 そして周囲を崩壊させながらギリギリとルージュを挟み撃ちにしようと迫ってくる。


 両側から高い壁が押し寄せてくるようだった。

 このままで避けることは不可能。

 ルージュは前に走って、魔眼を開く。


「魔眼解放――」


 左目が疼く。


「超感覚!」


 視界世界がスローモーションになる。


 その中でルージュは頭をフルに回転させる。

 そこで見定めなければならない。

 わずかな穴を。

 それができなければ死ぬだけだ。


 現在あるのは、あの極悪な大口径砲。

 しかも逃げ道を塞ぐように接近してくる。

 普通に逃げようとしても穴はない。前のように背面跳びをするにも、そのための台がなかった。


 ならば台風の目はどこにあるのか。

 ルージュは見定める。


 超感覚の時間が終わった。


 ルージュはさらにスピードを上げて前に駆け出す。


 目指すは右の鋏。

 台風の目はそこにあった。


 そしてルージュは全力で駆けスライディングをもってして地面を滑る。

 極限のところで、大口径砲の出所である鋏の下を通り抜けられた。

 背筋が凍る想いだった。一ミリずれていたら結果は違っていただろう。


 無人発電所が崩壊していく中、何とか巻き込まれずに済む。

 だが間髪入れずにキャンサーは次の行動に入っていた。


 その破滅の顎がルージュに向かって開いていた。

 あの石化する泡が吐かれてしまう。


 ――これは……もしかして!


 だがこの位置、ルージュには逆にチャンスだった。

 呪印銃の銃身を上げる。


 一か八か狙うはキャンサーの口内。


 通常弾で効果があったのは、キャンサーの目だった。それは堅い装甲に守られてなかったからである。

 そしてそれは口の中にも言えた。さすがに体内まであの装甲が展開されているとは考えにくい。


 確証はない。しかし賭けるには十分である。

 キャンサーが泡を口に貯めて大きく開く。


 ――お願い、当たって!


 ルージュはそのタイミングで弾丸を放った。

 紫色の熱戦が駆け抜ける。


「むっ!?」


 賭けはルージュの勝ちだった。

 呪印銃の熱線はキャンサーの口内を貫き壊す。


 その成果もあり、放出された泡の量は前回より90%以上の数を減らしていた。

 さらにそれが左に偏っていたので、ルージュは右に移動する。

 そして走りながら呪印銃を放ち、追尾してくる泡を難なく打ち抜いた。


 ――ここで一気に片を付ける。


 口が再生される前に決着を。

 ルージュは呪印銃のマガジンを手際よく外す。そしてレザージャケットの内ポケットから赤いマガジンを取り出して装填した。


 無論、マグナム弾のマガジンである。

 そしてルージュは前に駆けだした。


 問題はまだ残っている。


 あの幻影のごとき残像を生む瞬速の横回避である。


 文字通り弾丸を見てから避ける神業。

 これに対抗する決定的な方策はほぼないに等しい。


 考えられたのはゼロ距離射撃か死角からの一撃。

 しかし一対一で戦っている以上、敵の死角を作るのは極めて難しい。

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