第75話 刻に縛られた者/見捨てられた者⑱

 ルージュもごく少量の超力をディルドに注ぎ込む。


「んぁ!」


 ルージュの内部にあるディルドも膨張して形状を変化させた。

 その一撃だけで軽くイってしまう。


「相棒、これって?」

「このディルドは超力を送ると、その人間に最も合った形状に変化するのよ。そしてその人間に最も効くように、振動する」

「すげぇな……」

「そうね。ある程度のキャリアを持ってるノワールなら一度は経験してるってくらい人気が高いの」


 ちなみに本体は黒い太陽の本部で販売している。

 あるいはサイファーのような組織の人間に頼むと、時間はかかるも取り寄せてくれたりする。

 なお印税はネーベルに入るので彼女はこれで荒稼ぎしているはずだ。


「ルージュ、来て」


 言われてルージュはルナに抱き寄せていく。

 正面から向かい合って、互いの肌と肌が密接する。

 ルナの乳房と、ルージュのそれが触れる。

 肩と肩を合わせられる距離だった。


「ずっとこのままでしよ?」

「いいけど」

「ありがと」


 ルナが涙を浮かべてそう言ってくる。


「あのね、今日シードを探しに行ったの」

「うん」

「それでゴートっておっさんが協力するとか言ってたくせに、あの親父簡単に裏切ってくれちゃって、私が手に入れたシードが奪われちまったんだ」


 泣いているのか笑っているのか、判断に迷う感情でルナは語る。


「でも取り返すのは簡単だった。たぶん私の中にも超力があるから、運動能力はやっぱり常人より高いんだと思う。でもそしたらゴートのおっさんは泣いて譲ってくれって土下座するんだよ。それがないと娘が病気で死んじまうって」

「……まさかと思うけど渡したりはしてないでしょうね?」

「いやそれが渡しちまったんだよ」

「えぇ……」


 そんなものは嘘に決まっている。

 厚かましい詐欺師の常套手段だ。


 ――この子はお人好しなところがあるのよね。


 正直バオム教の一件からそんなことを思うことは多々あった。


「私ね、家族の写真を見せられて、それだけで心が動いちゃって。気が付けば、渡してた」

「馬鹿ね……」

「その時、思ったんだ。ああ、私の人生は薄っぺらいんだなって。積み上げてきたものが何にもないんだ」


 ルナには記憶がない。

 記憶喪失とかそう言う類のものではない。

 文字通り生まれたばかりで記憶が、思いでがないのだ。

 ルージュとは対極の存在。


「私の人生は真っ白で何にもないの。私の人生の中にはルージュ、貴方しかいないの」

「ルナ……」

「だから、お願いだから遠くにいっちゃ嫌だよ。私の側にいてよ……」


 最後は消え入るような声だった。

 ルナの目からは涙がボロボロと流れ落ちる。

 ルージュは指でその涙を拭き取った。


「ルナ、愛してる。誰よりも」

「……ルージュ」

「貴方の中の一番になれて」


 ルージュその先の言葉を言わなかった。

 代わりに唇を重ねた。

 舌をルナの口内に入れ込む。


 そしてゆっくりとルージュは腰を動かし始めた。

 くちゅくちゅとイヤラシい音が部屋に響いた。

 ルナが両手をルージュの首の後ろに回してくる。


 唇を離した。

 ルナは恍惚とした表情をしている。

 ルージュも陰部から伝わってくる淫らな快感のせいで腰を止めることができなかった。


 むしろどんどん激しくしてしまう。

 内部のディルドがそんなルージュに反応して振動する。

 それがGスポットを的確に刺激してくる。


「あぁ!」


 興奮が押し上がってきた。

 来る。狂おしいほどの絶頂が。

 もう自分では腰の動きを止められる状況ではない。


 まるで水風船に限界まで水を貯めるように、ルージュの中で快楽の蓄積値が上がっていく。

 全身の毛が逆立つような錯覚に溺れる。

 このままイったら、と絶頂の期待がさらに腰の動きを加速させた。

 ルージュが快楽に身を預け、上体を起こそうとする。


「駄目」


 ルナがそれを手で止めた。

 ルージュの首の後ろに回していた手で、それを遮ったのだ。


「ずっとこのままがいいの。近くにいてよ。いかないでよ……」

「ルナ、私もう、イきそうなの」

「私も……キスして?」

「うん」


 ルージュが唇を合わせていく。

 ルナがそれをしっかりと受け止めた。

 口内では獣のように荒々しく舌を求め合う。


 ルージュの限界が近かった。


 もう腰のピストン運動はさらに激しくなっていく。

 そして快楽を貯めた水風船が爆発する。

 我慢の圧迫感からの解放。

 津波のような絶頂が押し寄せてきた。


「んぁ♡」


 ぐちゅぐちゅとルナと獣のような接吻は、それでも続く。

 ルナも果てている最中なのか、キスが淫らになっていく。


 お互いに唾液を口から漏れさせながら、なおも絶頂を貪った。

 一度腰を振るごとに熱い快感物質が、頭を馬鹿にする。


 ――気持ち良すぎる。


 ルージュは声を上げたくて、唇を思わず離そうとしてしまう。

 しかしルナの腕がそれを許さなかった。


「~~~っ!」


 声にならない絶頂の叫び。

 唇の端から泡が漏れる。


 貪り尽くし、腰が一気に脱力する。

 ルージュはルナの体の上で果てるのだった。

 ルナはそこでようやく唇を離してきた。


「ルージュ……好きだよ」


 汗塗れの体で抱き合う。

 ねっとりとルナの体温を感じた。

 そこには寂しさを埋め合う二人の愛があった。



 そして今度は体を横にして、長く淫らな夜が続いていく。


 それは愛の籠った行為だった。


 しかしルージュには超力を回復する作業でもあった。

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