第48話 蒸気都市ドゥーエ③

 荷物を整理すると、ルージュとルナはすぐに街に繰り出す。

 アパートを出て、来た道を引き返すように寂れた歩道を歩いていた。


「また切符を買うの?」


 ルナが質問してくる。


「そうしたいところではあるけど、まずは食料とか雑用品ね。切符は明日でも変わらないでしょ」


 一般席ならともかく、高級席なら一日くらいではあまり変わらない。

 ルージュがデバイスで調べた限りは、次の目的地である交通都市行きの列車は昨日出発したばかり。そう簡単に席は埋まらないだろう。


 無論それでも早いに越したことはないので、明日には行かなければならないが。


「相棒、カップラーメンばっかりは駄目だぞ」

「でもあれ便利よ。すぐ食べれるし。それにご当地物もあるの」

「いやこの都市ではちゃんとしたものを食べてもらう。舌が死ぬぞ」

「死にません~、ノワールですから」


 ルナの提案にルージュは頬を膨らませる。


 ――カップラーメン、おいしいのに。


 ルージュとしては三食でも構わないのだ。


「ん?」


 そんなことを思っているとルージュ達の前に、ばたりと倒れる人影があった。

 路地裏から現れたのだ。


 青いワンピースを来た女の子だった。身長は低く外見は十二歳くらいか。

 長い髪は程良くウェーブがかっている。透き通った白い肌。

 人形のような整った顔立ちをしていた。


「腹……減った……」


 少女はそう呻く。


「行くわよ、ルナ」


 ルージュはその少女を跨いで先に進んだ。

 ルナはさすがに躊躇している。


「いいのかよ?」

「乞食のガキなんて助けてたらキリがないわ。前の都市で知っているでしょ」

「いや、そうだけどさ……」


 ルナが心配そうに倒れた少女をチラリと見ている。

 少女が再び何か呻いた。


「サイファー……ハゲ……説教臭い……」

「……何ですって?」


 ルージュの足が止まる。


 サイファーでハゲで説教臭いと言えば、一人の人物しか思いつかない。

 ルージュは体を180度回転させて、道を戻る。そして少女に駆け寄った。


「アンタ、もしかして組織の人間なの?」


 ルージュが尋ねると、少女はコクリと頷く。

 思えば浮浪者にしては妙に小奇麗な出で立ちだった。普通ならボロボロぼ衣服のところを少女は新品同様のワンピースだったのだ。


「チッ、仕方ないわね……」


 全く不本意ではあったが、ルージュは少女を無理矢理起こすのだった。


              *


「うまいぞ!」


 四角いテーブルの上で、少女はパスタを飲むように食べていた。彼女の前には皿が塔のように積まれている。

 その数は十を優に超えている。控え目に言っても食べ過ぎである。


 パスタ店で四人席にいた。

 ルナと少女が並んで座り、ルージュが不機嫌に向かいに座る。

 ルナが楽しそうにそれを見ていた。


「元気だな、美味しいか?」

「おう、うめーよ」


 少女がまるで萎縮する様子もなく、あたかも王様のように振る舞っていた。


「そうかそうか」


 ルナが嬉しそうに少女の頭を撫でる。

 さらに少女はフォークをルージュに向ける。


「ルージュつったっけ、お前まあまあ話のわかる女じゃん。認めてやるよ」

「あぁ? んだとコラ、このクソガキ」


 ルージュのこめかみに怒りの青筋が浮かぶ。

 そんなこともまるで気にせず少女は喋り続ける。


「会計はもちろんお前持ちな。わかってると思うけど、こっちは金がねーんだわ」

「フフ……構わないわ。だって――」


 ルージュが張り付けたような笑みを浮かべる。

 そしてレザージャケットの内側に手を入れた。


「それがアンタの最後の晩餐になるんだからね!」

「おい待て相棒、落ち付けって!」


 ルージュが呪印銃を少女に向けると、ルナが慌ててそれを制す。


「うるさいわね、今からこのクソ生意気なクソガキの頭に一発ぶちかまして社会の厳しさを教えてやろうとしてんの!」

「いやいやそれ駄目だろ、社会の厳しさを知る前に死ぬって!」

「何よ、ルナだってさっきからそいつにばっかり構ってさ! 私のこと嫌いなの!? どうせさっきのこと教えなかったから嫌いになっちゃたんでしょ! バカー!」

「いやそんなことはないって、ルージュのことは好きよ。でもそれとこれとは話が違うわけでさ」


 ルージュが嫉妬で涙目になる中、ルナはあたふたとする。


 しかし少女は何事もなかったかのように、

「店員さん、追加でペペロンチーノとボロネーゼとタラコを全部特盛り。あと皿下げて!」

 と注文を叫ぶ。


「まだ食べるわけ!?」


 その轟食っぷりに、もはや怒りを通り越して驚きの感情しか残らないのだった。

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