EP6

第46話 蒸気都市ドゥーエ①

EP6 蒸気都市ドゥーエ




 人混みで溢れる駅のホームをルージュとルナは抜けていった。

 ルージュがトランクを軽々と持って歩く。


 ルナが眼をキラキラさせて興奮していた。

 ルナにしてみれば、生まれて最初の廃工都市以外のドーム都市なのだ。無理もない。

 解放された改札を抜けて、駅構内を突っ切る。


 そして外に出た。


「おぉ、これはまた……」


 ルナがその光景を見て驚いていた。

 ここに初めて訪れる人間にとって、ルナの反応は極めて普通だ。

 他の都市では決して見ることのできない風景が広がっているのだ。


 レンガが積まれた建物が広がる。ビルのような建物が道路沿いに規則正しく連なっていた。無計画に街を広げた都市とは違う。それだけでしっかりと区画整理された、計画性のある街作りが伺える。


 中央の道路にはバスとバイクが走っていた。交通量は少なかったが、白い蒸気を排気管から空に垂れ流している。

 しかしここでも道の主役は歩行者であった。侘しい車道とは逆に、歩道には人が蟻のごとく右往左往している。


 遠くには街のシンボルである黒い時計塔が見えた。周囲には高層建築物が並んだ富裕層区域が存在する。


 しかしここで圧巻するのはそんな風景ではない。

 視界を支配するのは圧倒的な『白い蒸気』だった。それがあらゆる建物や車類から空に上がっていく。どこから見ても、遠くを眺めても、この白い蒸気だけは途切れる景色はなかった。


 そしてもう一つ、景色が全て黄土色にも似た、暗褐色のセピア調となっているのだ。建物の色が同じものに染まっている。

 まるでレトロ映画を切り取ったような風景である。


 上空には疑似太陽が昇っているが、蒸気でうまくは見えなかった。ドーム都市でが滅多に見られないまるで曇り空のようである。


「すげーな!」


 ルナが首をぶんぶん回して辺りを観察していた。完全に田舎者である。


「廃工都市とは全然違うのな!」

「ここはドーム都市でもかなり個性の強い方よ。取り敢えず、アパートまで行きましょう」


 セピア色の街の中をルージュ達は歩き出した。

 ルージュはトランクを持たない方の手で、黒いカードのような形状をした情報デバイスをレザージャケットの内ポケットから取り出す。

 それを操作して目的地を調べた。


 西の外れの方に今度のアパートはあった。


「ここからなら近いわね。バスもバイクもなくてよさそう」

「え~、使ってみたい~」

「面倒だから嫌。バスはいちいち混んでるし、バイクは借りる手続きに手間がかかるのよ」

「ぶ~」


 ルナは頬を膨らませて不満顔になっていた。

 しかしルージュは気にせず道を進んでいく。


 不気味なほど同じ色のレンガの建物が並んでいた。コンクリートの壁の建物もあるが、それすら色は同じだ。


 飲食店も花屋も一軒家もマンションも、ビジネスビルもある。しかし慣れていないルージュにしてみれば、まるで同じ建物がずらりと並んでいるようにさえ見えた。


 建物と言うのは形が違っても、色が同じと言うだけでここまで個性が死ぬのかと、こればかりはいつ来ても驚きは隠せなかった。


 これが蒸気都市なのだ。


 だんだんと人気が少なくなる。

 居住区の端の方まで来ているのだ。ノワールのアパートは大抵、そんな所を狙って建てられている。目立たないためらしい。


 そして到着した。

 レンガではなくコンクリートで造られた二階建てのアパート。壁がセピアに染まっている以外は、前の廃工都市と同じだ。


 ルージュは二階に上がり、一番奥の部屋まで歩く。

 そのドアノブを握ると自動で生体認証が始まる。それが終わると自動で鍵が開かれた。

 部屋の中に入る。ルナも後ろから付いてきた。


「ここだけは変わらないわね」


 同じ規格で造られているだけに、前のアパートとほとんど変わらない。

 ルージュはあまり物を置かないタイプなので、なおさらだった。


「でも前よりは明るいな」


 ルナがそんな感想を漏らす。

 強いて変わったことがあると言えば、窓からは疑似太陽の光が射すことくらいだろう。

 それも蒸気都市の煙のせいで、かなり曇ってはいるが。


「そりゃ、ここは昼間に疑似太陽を造らなきゃやっていけないのよ」

「どういうこと?」

「蒸気が凄すぎるのよ。廃工都市みたいに月と星だけだと視界が悪くて闇黒になっちゃうわけ」

「この煙って何が元なの?」

「『白気石』っていう鉱物が原因ね」


 窓の向こう側に昇る白い蒸気を眺めながら、ルージュはそう言った。


「『白気石』はこの都市全てのエネルギーを担いつつ、最大の輸出品目でもあるの。これがなければこの都市はここまで発展はしてこなかったわ」


 疑似太陽の維持も安くはない。

 ある程度裕福な都市でこそできるのだ。そしてこの都市を裕福にさせているのは、間違いなく白気石である。


「この都市の八割は白気石で動いていると言っても過言ではないわね」

「で、その白気石ってのは結局何なのさ?」

「そうね、一言で表すならってところかしら」


 石油、メタンガス、そういった類のものであり、その中でも最も危険性がすくなく効率のよい資源であった。


「水を一定量与えることで強い熱を長時間発生させるの。それを元にエネルギーを精製する。この都市の機械類はほぼ100%が白気石とその熱で発電された電気で動いているわ」


 依存していると言っても過言ではない。

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