第21話 バオム教⑨

 ルージュはさらに呪印銃を数発、薔薇に向かって射出した。


「ノワールの分際でぇ!」


 カタストルは下半身にある薔薇の鋭利で巨大な花弁はなびらを散らせた。花弁は予想上の硬度を持ち、超力の銃弾はそれに当たるとその軌道が変わってしまう。


 ――こいつ……。


 フロアの半分は埋め尽くすような薔薇の大きさに対して、本体がほぼ普通の人間サイズであった。対比すると上半身が異様に小さく、ただでさえ心臓を狙い難い。


 それに花弁のガードがあるので中々手強い相手だった。

 やはり長い時間を生きていると、雑魚でも中堅クラスにはなれてしまうのだ。


「本当にここの屑どもは。どうしてここまで放置したのかしらね」


 ルージュは文句を吐かずにはいられなかった。

 ルナが子供を抱えてこちらに向かってくる。


「助かったぜ」

「無茶してんじゃないわよ。死んだら殺すわよ」

「無茶はそっちだろ……」


 ルージュはルナを手で後ろに追いやる。下がれと言う意味だった。

 そしてカタストルに向かって走り出す。


「ノワール、もうお前達では私には勝てない!」


 カタストルが下半身の薔薇の花弁を一斉に発射させる。鋭利な超質量の刃が四方八方に飛び散った。

 大量の殺戮花弁が無差別に周囲を血の嵐を呼び込む。


「魔眼解放――」


 ルージュの左目が疼く。


「超感覚」


 世界の全てが減速する。


 ただ一つ正常なのはルージュの視界の中のみであった。


 放たれた花弁の危険と思われる軌道を計算する。全てこれらを避けたとして、二つがルナ達に危害を及ぼす。

 それならばやることは簡単だ。


 時が戻る。


 ルージュはその場で右足を踏み込み、跳躍する。そして続けて二発、超力の弾丸を放った。

 まずは浮遊中に危険と思われる二つの花弁を撃ち焼いた。


 そして放たれた花弁を土台にして、さらに跳躍。

 跳んだ先は、カタストル本体の目の前だった。


 緑色の肌の女の上半身が眼の先にいた。

 怒りと恐怖の入り混じった感情を見せつけてくる。


「ノワールぅぅぅぅ!」

「ぬるま湯に浸かってるから、アンタは成長しても雑魚のままなのよ」


 ルージュは呪印銃の引き金を引いた。


 紫の熱線がカタストルの心臓を貫く。黒い種子が割れるのが見えた。


「あぁぁぁぁぁぁ!」


 女の断末魔が部屋中に響きわたる。

 カタストルの黒い体が蒸発していった。割れたステンドグラスから差し込む月の光に影は吸い込まれていくように消えていく。


 激戦の爪痕だけを残して、化物は浄化されたのだった。

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