第8章 大魔王サタン
第75話 VS大魔王サタン
海がレナの所にワープしてから、すぐ。シャルロッタは、逃げていった海に対して怒りを露にしていた。
「あいつは、殺すわ!!」
シャルロッタが、およそ乙女ではない形相と言葉遣いでブちぎれる。
「ど、どうしたんですか?シャルロッタ様!?」
どうやら、海とシャルロッタの痴話げんか...ではなく、血を血で争う戦いの音を聞いて、サカナが駆けつけてきたようだ。
「いえ、別に何でもないわ!あのキチ海を殺そうと思っていただけよ」
シャルロッタが吐き捨てるように言う。
「しかし、その当の鈴木は何処に?」
「逃げられたわ!あいつ逃げ足ばかり速くなってるような気がするわ!」
「そうですね!探し出して殺しましょう今すぐ!」
シャルロッタとサカナが、そんな物騒な話をしていると此方に向かってくる人影が見えた。シャルロッタたちは、等々海が観念したのかと思い身構えるが、どうやらそうではないらしい。
此方にゆっくりと向かってくるその男は、黒いハット黒いトレンチコートに黒いズボン、黒一色の怪しい格好をした奴だった。
「だれよ!あんた!!そんな黒い格好してたら夜歩く時、車に引かれるでしょうが!!」
シャルロッタが、そいつに向かって意味の分からないことを言ったが、その男は、無言で下を向きハットを深くかぶっているため、表情がうかがえない。
「顔を上げろ!無礼者!!こちらにおわすのはカレビ帝国第何王城かは知らんが、一応王女のシャルロッタ・アイリーン様だぞ!!」
サカナが、頭悪く言ったが、それでも男は顔を上げなかった。
「鈴木海は何処だ?」
その男から発せられた第一声は、そんな一言だった。だがその言葉だけで、シャルロッタたちは、こいつが敵であることを認識した。その声には、寒気のするような禍々しさが混じっており、聞いただけで不快感を感じるほどだ。
「シャルロッタ様下がって...」
サカナが、シャルロッタを後ろに下げて仕込み刀を抜刀する。仕込みである必要がないような気がするが、抜刀する。
「私は、サカナ・タベタ!!その禍々しい殺気をこちらに向けるのをやめろ!!さもなければ、敵対行動とみなし刀の錆となってもらう事になるぞ?」
珍しくカッコよく決まったサカナだが、相手の反応がない。
「フッ!!」
「何がおかしい!!」
その男は、鼻で笑うと黒いオーラを周りに纏わせ始めた。
「お前ごときが、この俺を殺す?笑わせるな!!人間ごときがこの大魔王サタンを倒せるわけもないだろう?」
「サタンだと!?」
ご親切に名乗りを上げた大魔王サタンに対して驚きを隠せないサカナ。サカナの足りない頭でも知っているほど有名な、大魔王サタン。サタンは、この世界において魔族の一番上に君臨する王である。サカナは、そんな奴がなぜ鈴木を狙うのか考えようと思ったが、直接大魔王サタンに聞いてみることにした。
「なぜ鈴木を狙う!!」
「何故だって?単純なら理由だ!!あいつめ、魔王より魔王してるじゃないか!!人間のくせに!!そんなことでは、この大魔王サタン様のメンツが丸つぶれではないか!」
「はぁ…?」
そんな小さな理由で態々鈴木を探しているとは、大魔王という割には小さい奴だな思うサカナだったが、相手は大魔王。サカナは、油断せずに刀を握りなおす。
「お前は、鈴木海の愛人か?奴隷か?」
サカナに投げかけられたその質問...サカナは…
「断じて違う!!違う!!違う!!あんなごみくその奴隷や愛人になるくらいなら首をつって死ぬ!!想像しただけでも吐き気が…おえええええええええええええ!!」
リアルに嘔吐物をまき散らすサカナに対して、流石の大魔王もドン引きする。
「そ、そうか...だがなぜ私に剣を向ける?鈴木かいとは関係のない存在なのだろ?」
「なぜ?簡単な理由だ!!キサマを倒して出世して!!シャルロッタ様の正式な騎士となるのだ!」
「そ、そうか...そんな理由で私に剣を向けるか…いいだろう掛かってこい人間。どれだけ小さき理由だろうと、この大魔王サタン様に一度剣を向けたのだから、覚悟してもらうぞ?」
「ふっ!!吠えずらをかくなよ!!」
サカナが、地面を蹴って走り出す。その魔法で強化された走りの速度は、もはや音速を越えている。常人なら完全に目で追えない速さだ。サカナは、その速さを殺さないまま、刀の間合いに入った瞬間、上段切りを放つ。
「喰らえ!!」
「遅い...」
サカナの刀は、テンプレ敵台詞と共に空を切る。最小限の横ステップで攻撃を躱されたサカナは、躱されると分っていた。だからこそ、サカナは次の手を考えていたのだ。
「光りの棘!!」
サカナがそう叫ぶと、刀から光がとげのように生えてそのまま大魔王に向かっていく。最小限の動きで躱したため、その至近距離の攻撃をかわすことが出来なかったサタンに光の棘が突き刺さる。
「ぐああああああああああああ!!」
命中した光の棘は、段々と大きくなり、突き刺さった部分からサタンを侵食するように消していく。
「何が大魔王だ?大したことないではないか?」
サカナが、そうフラグめいたことをつぶやくと…
「サカナ後ろ!!」
シャルロッタが、異変に気が付いたのか叫ぶ
「なっ、がああああああああああ!!」
サカナはわけもわからず吹き飛ばされる。そのまま受け身も取れないまま、地面を削り取るように引きずられていく。
「サカナ!!」
シャルロッタが、心配してサカナに駆け寄ろうと思ったがもう遅い。シャルロッタの目の前には、すでに大魔王サタンが立っていた。
「死ね...」
「がはっ!!」
シャルロッタの口から、吐血が飛び散る。大魔王サタンのただの拳は、シャルロッタの内臓を抉り取るようにしていき...貫通した。シャルロッタは、そのままぼろ雑巾の様に捨てられる。
「シャルロッタ様!!」
地面に転がったままのボロボロのサカナの目に映ったのは主人が目の前で傷つく姿だった。
「キ~サ~マ~...!!!!」
サカナが怒りを、露にして鬼の形相で立ち上がる。自身の敬愛すべき主人が目の前で傷ついたのである。
「殺す!!」
理性を失ったサカナは、音速を超える速さで大魔王サタンに向かっていく。だが...
「遅い...」
大魔王サタンがサカナの目の前に現れたかと思うと、デコピン一つでサカナを吹き飛ばす。
「あ゛ぁ゛…」
額に恐ろしいほどの衝撃を貰ったサカナは、一瞬にして意識を失う。
「ザコにかまっている暇はない」
大魔王がその場を立ち去ろうとしたが...その先には勇者ポイ格好をした、白銀のショートカットに黒目の少女が、立ちふさがる。その残念な体系の少女楓は...
「今あんた!!私の事、残念な体系って思ったでしょ!!許さないんだから!!」
どの方向にキレているのか分からないが、大魔王に怒りを露にさせる。
「まぁ、ゴミがいくら増えても同じことだ...」
「ドロップさん。サカナさんとシャルロッタさんにこれを」
と言って、後ろに隠れるように付いてきたドロップに回復ポーションを渡す楓。
「えええ!!私寝てていいですか!!そんなことしたら殺されます~!!」
「だまらっしゃい!!私があいつを引き付けておくから、そのうちに」
「絶対引き付けてくださいね!!」
ドロップが念を押すように、言うとサカナとシャルロッタの方に向かった。
「ねぇ、あんた...言い残すことはない?私、体系をバカにされる以上に、友達が傷つけられたことに怒ってるの…だからお前は!!」
楓が、その場から消える…
「死ぬんだよ...?」
突如大魔王サタンの目の前に出現した楓が、手刀をふるいながら言った。正確には、唯の手刀ではない...。光の手刀、長い剣のような形の光を手に纏わせながら振るう、勇者の楓だけが許された特別な技。その光に質量は全くない。だがご都合主義にも、その光は相手の攻撃を受け止めることが出来るし、何でもきり割くことが出来る魔法の剣だ。
「くっ!!」
流石の大魔王も自身と同等である速度で動かれては、余裕がなくなるようで先ほどの様に余裕をもってかわすのではなく、ギリギリの動作で、その攻撃をかわして、後退していく。
「逃がさない!!」
楓は、大魔王に距離を詰め、光りの手刀をふるう。片手だけではなく両手に出現させた光の手刀をぶんぶんと振り回す。だが、楓の攻撃は何故か大魔王には当たらない。
「見切られている…」
楓が、そう呟くと…一度攻撃をの手をやめ、後退する。そして、
「ヘルフレイム!!」
楓は、一点攻撃では当たらないと思い、範囲攻撃を放つ。だが...
「ふん!!」
楓のヘルフレイムは、何事もなかったように片手で消火された。楓のヘルフレイムは、呼んで字のごとく地獄の業火だ。そんな簡単に消えるはずがない...。だが、大魔王は、片手でそれを消して見せたのだ。
「ムカつくんだけど!そのチートっぷり!!チートはお兄ちゃんだけで十分なんだけど!!」
「今度は、こちらから行くぞ。人間...」
そう言うと、常人では見えない速度で楓に向かってくる大魔王。だが、楓にはなんとかそれが見えていた。だが...
「きゃあああああ!!」
見えていても、戦闘事態いつもごり押しにしていた楓には、対応することが出来ず、フェイント混じりの拳が直撃して吹き飛ばされる。そう楓の弱点は、ステータスではないのだ。その戦闘経験の浅さにある。海よりよっぽど高いステータスを持っている楓だが、実情それをうまく使えないのである。
「少しは、できる人間だと思ったが、所詮人間...、この俺に勝てるわけがない」
と言って地面に転がる楓の顔を掴み、片手で持ちあげる。
「や、やめてください!!」
そこに、サカナとシャルロッタの応急処置を終えたドロップが声を上げる。何時も逃げ腰のドロップにしては、珍しく勇気ある行動だ。だが、ドロップの足はがくがくに震えていた。
「あぁ?羽虫が…この大魔王サタン様に声をかけるという狼藉...死で償え!!」
「きゃあああああああああ!!」
ドロップは、逃げ出した...。
「ゴミが…それでいい逃げ惑え!それが、私にとっての何よりも至福。逃げ惑うゴミどもを見るのが俺にとっての楽しみなのだから...」
と背中越しに、聞き取ったドロップだったが、無視して逃げ出したのだ...
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