第69話 領

海は今,スキル飛行を使いながら、レオパルドと共にヴァンパイア領を目指していた。海とレオパルドの飛行速度は、とても速く、眼下に写る景色が森から岩石地帯と次から次へと瞬く間に変わっていく。速度で言えば、200キロを優に超えているだろう。しかし、海とレオパルドは、その速度にものともせずに移動している。レオパルドなんかは、自身の領土が危険にさらされているにもかかわらず、背中から生える黒いコウモリの様な翼を悠々と広げて実に楽しそうに飛行している。海は、そんなレオパルドを眺めながら、めんどくさくなってきたので早くお家に帰りたいと思うのであった。


何事もなく2時間くらいでヴァンパイア領に到着した海たち。海が、ヴァンパイア領を見渡すと、彼方こちらから煙が上がっており、ほとんどの家が全焼していた。


「酷いな...」


流石の海も珍しく、しんみりとしたように言って地面に降りたつ。


「竜人族...許さんぞ!!」


レオパルドは怒りを露にして拳を地面にたたきつけた。そんなことをしても全焼した物は戻ってこないと分っていても、怒りを抑えずにはいられなかった。


「町の奴らは...」


レオパルドは、領のあまりの人気のなさに心配した様子を隠せないようだ。海は、それを見かねてか、再度飛行して辺りを見渡す。残念ながら人影らしきものはない。あるのは、黒々と炭の様に燃え切った、建物の燃えカスだけ。海は、呆れるようにそのまま視線を上げると、正面から白と黒のフリフリのメイド服を着た、黒髪少女の美少女が飛んでくるのが見えた。


「メイドだと...」


海は、嬉しそうにつぶやく。海にとってメイドは大好物であり、女体、妹の次に大好きなものなのだ。興奮せずにはいられない。


「そこのメイド!!止まれ!!僕と...がはっ!!」


メイドは、海のことなど見ておらず、思いきり肩パンした後、レオパルド目掛けて飛んでいく。


「レオパルド様!!」

「おう!!メア!!無事だったか!!」


レオパルドは、現れたメイドメアとの再会を喜びやさしく抱きしめる。肩パンされて吹き飛ばされた海は、全焼した建物に頭から落っこちていたが起き上がり、その光景を眺めた。


「実にいい眺めだ」


海は、レオパルドとメアの百合百合しい行動を見て満足した。


「ところでメア、街の人々は無事なのか」


ひとしきり抱きしめあった二人は離れ、レオパルドがメアに質問する。


「はい、街は全焼しましたが、ほとんどのヴァンパイアが影潜りで逃げました...ただ...」

「ただ、なんだ?」

「捕らえられたヴァンパイアが多少いまして...竜人族領に連れていかれました...」


メアが申し訳なさそうに下を向きながら言う。


「ちっ…!!」


レオパルドは、小さく舌打ちした後考える。どうやら楽観はできない状況らしい。囚われたのが何人かは分からないが、竜人族のホームグラウンドからヴァンパイアを一人残らず無事救出するのは、かなり難しいだろう。レオパルドは、領民全員で戦争を仕掛ける案を一瞬考えたがすぐに却下する。これ以上領民を危険にさらすわけにはいかない。領を留守にした自分の責任だ。レオパルドはそう考え、隣で煤だらけで、立っている海を一瞥する。


「鈴木、竜人族救出を手伝ってくれないか?」

「やだよ~」

「何で!!」

「いや、ウソだ手伝う。その代わり竜人族からヴァンパイアを助け出した暁には、メアちゃんは僕のもの!」


海は、メアの体を舌を出しながら下から嘗め回すように見る。


「だ、ダメだ、メアは私の可愛いメイドだ。誰にも渡すわけにはいかん!!」

「嫌だ、欲しいかって買って~~」


海は、地面に転がり背中をつけて足と手をジタバタさせる。それを見たレオパルドは、ウザかったので海の横腹を蹴り上げる。蹴り上げられた海は、ゴロゴロと横に転がっていき、また全焼した建物に叩きつけられる。


「うぐっ...」

「みっともないぞ鈴木、報酬は私が何でも言うことを聞いてやると言っただろ?」


レオパルドの有無言わせぬ睨み付ける攻撃。海はそんなことでは、めげない折れない騙されない。立ち上がる。


「分かった。今はそれでいい」


海は、諦めてはなかったがもう一度メアを凝視した後、レオパルドと共に竜人族領に向かうのであった。





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