第2章 アクト=ファリアナの心友(11)
それから、ここまでの経緯を簡単に話し、今に至る。
「そうですか……コーデリア州へ。この〝方〟と」
「はい。まあ……急遽そういう事になりまして……」
今はリビングの大広間にて、窓からの眺めが良いテーブルを三人で囲み、お茶を楽しんでいた。
「あ、あのぅ~……」
ケイリングが、隣でルナ様のことを気にしている。そういえば、ケイリングにはまだ、ルナ様のことを詳しくは話してなかったな。
「ケイ、この方はね。フォスター将軍の婦人で、私が普段から大変お世話になっている御方なんだ」
「あ、え? あのフォスター将軍のッ!?」
「改めまして、よろしくね。ケイリングさん」
「あ、はいッ!! 改めまして、よろしくお願い致します!」
流石のケイリングも、フォスター将軍の名には、頭が上がらないらしい。
「それにしても、私がお世話だなんて。それはちょっと口が上手過ぎよ、アヴァイン。
いつもお世話になっているのは、私たち親子の方なんですもの」
「いやいや、そんなことはありませんよ」
アヴァインのその言葉を聞いて、ルナ様はケイリングの方を微笑み見て言った。
「ケイリングさん。アヴァインはとても、頼りになるお人ですよ。大事にしてあげてね」
「あ、はいっ!!」
はい、ってなぁ~……それ、本気で言ってないだろう? どんだけ緊張してるんだか。
「それにしても……あなたが遠くへ行ってしまうのは、ちょっと寂しくなりますね……」
「はぁ……どうも、すみません…」
「ちょっ、ちょっとぉー!」
ケイリングが急に隣から、不機嫌顔にアヴァインの腕を軽く引っ張り、耳元でこう言ってきた。
「どうしてさ! そこで、あなたが謝ったりする訳っ!? そこは普通さ、『この方を守るためです』とか『この月のように美しい人の傍にいたいんです』とかさぁー。気の利いた言い様、ってモンがあるでしょうにぃ!!」
……本人は小声でそう言っているつもりの様だが。今のは完全に、ルナ様にも聞こえていたみたいだ。
ルナ様が口を押さえて、『失言してしまったかな?』と自身を思い、苦笑しておられる。
それからそのあと、何かを納得された様な表情をルナ様は急に見せ始めた。
「そう、ね。アヴァインみたいな人と話していたら。誰でもそんな気持ちに自然となるのは、仕方ないのかなぁ……?」
……それは一体、どういう意味なんだろうか??
「ケイリングさん。アヴァインってこういうタイプの人だから、ちょっと大変かもしれないけれど。アヴァインとは、これからもずっと仲良くしてあげてね♪」
「あ……はいっ!!」
大変って……なにが大変なんだろうか……。ちょっと気になりはしたが、怖くて聞けなかった。あまり良いような意味には聞こえなかったから。
それからも会話は弾み、自分をネタにした談笑がなぜか絶え間なく続き……気がつけば二時間以上も経っていた 。
そのあと、ルナ様に笑顔で見送られながらフォスター邸をあとにしようと馬車へと乗り込んでいたところへ。突然、シャリル様が馬車の中へと背後から飛び込んで来て、そのままの勢いでアヴァインに抱きつき口を開いた。
「絶対。いつかわたしを迎えに来てよ、アヴァイン!! 絶対によっ!」
少し驚いたが。アヴァインは間もなく、微笑み言う。
「……。はい♪ いつか必ず迎えに来ますよ、シャリル様」
グスングスンと泣いてしがみ付くシャリルの頭を優しく撫で、なだめながらアヴァインはそう言ったのだ。
そうして、フォスター邸をケイリングと共にアヴァインは後にする。
そこから貴族用の邸宅へと向かう馬車の中で、ケイリングは似つかわしくないほどに静かだった。
なんか、あったのかな……? とアヴァインが思う間もなく、ケイリングはふいに窓の向こうを眺めたまま、こちらを見る訳でもなくこう独り呟くように聞いてくる。
「アヴァインがさ、好きだった、って人……もしかして、ルナさんじゃないの?」
「……え?!」
「やっぱり……ね。途中から、そんな気はしていたのよ。凄く綺麗だったし。くやしいくらいに……優しい人だったもの」
くやしい、って……なんだよ、ソレ?
「ぅん……。でも、この事は他の誰にも言わないでくれよ。ルナ様にも、シャリル様にも迷惑は掛けたくはないんだ」
「……わかってるわよ、そんなの。絶対に言わないから、安心をして。わたしもルナさんは、人として、好きになったもの。だからそれは、ちゃんと守るから」
ケイリングはそう言ったあと、らしくもなく吐息なんかついて。パレスハレスの向こう側に沈む夕日を、虚ろな瞳で眺めていたのである──。
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